松永織②
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■松永織視点
私の改造手術は成功した。
透明のカプセルから出てきた時、そのガラスに映る私の姿は……バケモノだった。
背中には鷲のような大きな翼があり、両腕は獅子のように大きく、そして、鋭利な爪があった。
さらに。
「君には、この他にも微弱ながらも人間を洗脳するための物質を、その爪から射出する機能が備わっている」
少し興奮気味に語るのは、私を手術台に乗せた助手の男だった。
「……そうですか」
私は特に興味を示すことなく、ただ、ガラスに映る私の姿を眺める。
「そうそう、今回の改造が成功した君達に、コードネームが与えられることになったよ。君の名は、今日から“グリフォニア”だ」
「グリフォニア……」
「そう! 君のモデルは、まさにあのグリフォンだからね! 僕の提案がまさに採用されたんだよ!」
そうか……私をこんな姿にするように決めたのは、この助手の男なのか。
そんな経緯もあってか、助手の男……高田光機は、事あるごとに私の元へと足繁く通っていた。
やれ調子はどうだ、不具合などはないか、というように、いつも私を気に掛ける。
所詮私は、あの並井十蔵の玩具でしかないというのに。
「お気遣いなく」
「そうはいかない! 君は僕にとって大切な女性なんだから!」
「大切……?」
この男は何を言っているのだろう。
所有者ですら好きなだけこの私を弄ぶというのに、なぜこの男はこんなにも私のことを……。
「……私は反町様やあなたのモルモットではありますが、所有者は並井様です。気に掛けていただく蓋然性がありません」
「そんなことはない! 何度も言うように、君は僕にとって一番大切な女性なんだ!」
この男……いや、彼はそう叫ぶと、両腕で私の肩をつかみ、そして……。
「ん……ちゅ……は……」
彼は私にキスをした。
「……これは、どういうことでしょうか?」
私は彼の真意が分からず、思わず尋ねる。
並井十蔵の所有物であるこの私に……醜い怪物となったこの私に、なぜ彼はキスなんかを……。
「……決まっている。君は、この僕の“全て”だからだよ」
「っ!」
その言葉を聞いた私は、無意識のうちに息を飲んだ。
そして。
「……どうして、泣いているんだい?」
彼に指摘され、私は初めて気づく。
私の瞳から、涙が流れていることに。
「……分かりません」
そう答えるだけで精一杯だった。
既に感情を失っていたはずのこの私が、なんで涙なんか……なんで……。
「そうかい……だけど、初めて君が僕に心の内側を見せてくれたね」
「…………………………」
そう言ってニコリ、と微笑みながら、私の涙をその指で拭ってくれた彼から、私は目が離せない。
これは……好意?
私が、この彼に対して好意を持っていると、そういうこと……?
「ふふ、どうやら君に嫌われていないみたいだから、良かったよ」
「そんな! わ、私があなたを嫌うなど……!」
なぜか私は、そんな彼の言葉を全力で否定する。
まるで、私が彼を嫌っていると思って欲しくないかのように。
やはり、私は……。
「うん、これからもよろしく頼むよ」
「……はい」
そして私は、そんな彼の笑顔を見つめながら、頬が熱くなるのを感じていた。
◇
それから、私と彼の逢瀬が続く。
既にこのような姿になって、嬲るための玩具として興味を失った並井十蔵の手からも離れ、私は彼に身体を預け、貪るように彼を求めた。
そして彼も、そんな私を受け入れ、ただ私を求めてくれた。
そんなある日。
「グリフォニア、僕は並井様に改造手術を施すことになったよ」
「あの男に、ですか……?」
嬉々として語る彼に、私は一抹の不安を覚える。
そもそも改造手術は反町一二三の領分で、助手でしかない彼にそんな権限は……。
「大丈夫! 先生の技術は既に僕も身に着けているし、何より、僕は先生が開発した『DS-n細胞』をさらに発展させることに成功したんだ! これなら成功率も格段に上がるし、危険もほとんどないよ!」
「で、ですが……」
「グリフォニア! この僕を見守っていてくれ! 僕はこの手術を成功させ、更なる高みに上るんだ!」
瞳をキラキラさせてそう語る彼に、私はこれ以上何も言えなかった。
ただ……ただ、彼の成功と無事だけを祈った。
そして、手術の結果は成功だった。
あのしわがれた妖怪のようだった並井十蔵は、十歳くらいの少年の姿へと変わっていた。
「やった! やったよグリフォニア! これで、この僕はとうとう先生に……反町一二三に並んだんだ!」
「おめでとうございます!」
私は嬉しかった。
無邪気に、ただ無邪気にその成功を喜ぶ彼が愛おしくて、私も思わず顔を綻ばせる。
「後は“ヴレイヴブロッサム”からプロトタイプの『DS-n細胞』を採取し、反町一二三より優れていることを証明すれば……!」
「はい! あなたなら……高田様ならできます! きっと、あの反町一二三を超えます!」
「ああ! もちろんだとも!」
そう言うと、彼は私に抱きつき、そして、私を求めた。
「ああ……!」
私は彼にその身を預け、ただ、彼の愛に溺れた。
◇
それから彼は、邪魔だった反町一二三を排除し、改造人間……いえ、“怪人”についてのスペシャリストにして唯一の存在として君臨する。
それは、あの並井十蔵ですら不老不死を盾に彼に従わざるを得ないほどに。
そして。
「グリフォニア、僕……いや、私は、とうとうあの反町一二三を超える時が来たようだ」
「……と、言いますと?」
私はベッドの上で高田様に身体を預けながら聞き返す。
「うん……実は、死亡したと思っていた“ヴレイヴブロッサム”が、今も生きていることが判明した」
「っ!? まさか! 彼女はあの時確かに!」
私は驚きのあまり、思わず身を起こす。
そうです、肉片と化した彼女はあの時、我々“ファースト”の手で確かに屠ったはず……。
「……どうやら、反町一二三は彼女の死を偽装していたようだ。そして、彼女は元の生活に戻っている。ふふ、あの男も、罪滅ぼしのつもりでいるのかもしれないね」
「そうですか……それで、そのことと反町一二三を超えることにどのような関係が?」
「ふふ……よく考えてごらんよ。悔しいが、私が生み出した怪人はいまだ君達“ファースト”を超えていない」
「っ! そ、そんなことはありません! それは『DS-n細胞』の培養に時間がかかっているだけで、決して高田様が劣っているわけでは……!」
自虐気味にそう語る高田様に我慢できず、私は全力で否定する。
高田様が……高田様こそが、唯一の存在なのだから。
「ふふ、ありがとう。私もそれは分かっているよ。だから、まずは“ヴレイヴブロッサム”を検証し、今はあの男の中で培養している『DS-n細胞』の進化を促せれば、ね」
「それはつまり……」
「うん、私は“ヴレイヴブロッサム”と怪人を闘わせ、最強の怪人を生み出す。そして、私は今度こそ“神”となる」
「っ! そ、そうです! 高田様こそ“神”の頂へと昇る唯一の御方! 私は永遠に高田様に従います!」
「ふふ、ありがとう……だけど、“従う”より“添い遂げる”と言ってくれたほうが嬉しいかな」
その言葉に、私の心が歓喜に震える。
「あ、ああ……! はい……私は、あなたと添い遂げます……!」
そして、私は高田様と歩み続ける。
彼が“神”へと至る、その日を夢見て。
彼の隣を歩く、唯一の存在として。
お読みいただき、ありがとうございました!
次話は明日の夜更新予定です!
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