反町一二三②
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■反町一二三視点
「それじゃ、行ってくるよ」
「うん! お父さん行ってらっしゃい!」
玄関まで見送りに来てくれた由宇の頭を優しく撫でると、私は家の前に横付けされている黒塗りの車の後部座席へと乗りこむ。
「反町先生、おはようございます」
「高田くん、行ってくれ」
そう言うと、高田くんは車を走らせ、研究所へと向かった。
研究所に着くと、早速私はガラスケースに入れられている四体の被験体をチェックする。
「高田くん、『DS細胞』の定着具合はどうだ?」
「はい、計画通り進行しています」
「そうか……」
この『DS細胞』の定着化については、この研究の最大の難関だ。
無事定着すれば、様々な細胞を結合させることができ、ヒトは大きく進化する。
それも、ヒトとしての尊厳を失わずに。
だが、何十、何百という被験体での実験を繰り返しては、いずれも失敗に終わった。
そして、その被験体の全ては廃棄処分となった。
「ふふ……間違いなく私は地獄行き、だな……」
僅かに残った被験体を眺めながら、私は自虐めいた笑みを浮かべる。
被験体の一つ目、彼の名は“雷堂理雄”、反社会的勢力のリーダーで元死刑囚とのことだ。
被験体の二人目、彼女の名は“松永織”、あの男……並井十蔵の“お気に入り”とのことだが……そんな大事な女性を被験体として提供するなど、正気の沙汰とは思えない。
被験体の三人目、彼の名は“岐佐十色”、彼は自衛隊から被験体になることを自ら志願した変わり種だ。
そして、被験体の四人目、彼女の名は“飯綱江”、私の教え子の一人だ……ふふ、弟子を被験体にしている時点で、あの男のことは言えないな……私も最低だ。
「……先生は偉大、ですよ。これで人類は大きく発展するのですから」
「高田くん、それは違うぞ。私の所業は悪魔よりも非道だよ」
そう言うと、私は研究室に籠り、更なる研究に没頭した。
◇
「先生! やりましたね!」
四体の被験体の前で、高田くんが狂喜乱舞する。
なぜなら、とうとう四体の被験体が『DS細胞』の定着に成功し、なおかつ複数の生物との結合を果たしたからだ。
だが、私からすれば、ただ罪を重ねただけだ。
結局、出来上がったのは四体の生物兵器だった。
……私の研究は、あくまでも医療の発展のみを主眼に置いていたのに、私に勇気がなかったためにこのような結果となってしまった。
その時。
「フォフォ……反町くん、よくやったの。まずはおめでとうと言っておこうかの」
「……はい」
部下を引き連れて現れた並井十蔵に、私は軽く会釈する。
「フォフォ、さて……次はいよいよ、不老不死……じゃな?」
「…………………………」
「期待しておるぞ」
そして、並井十蔵は嬉しそうにその場を去った。
「……フン、妖怪め」
「高田くん……滅多なことを言うんじゃない。君も危険な目に遭うぞ」
私は高田くんを窘め、改めて被験体を見やる。
……この彼等の姿、最早ヒトのそれではないな。
そして、それを生み出した私の心も、な。
◇
「ええい! まだ不老不死の研究は完成せんのか!」
並井十蔵が、机にある研究道具等を手に持つ杖を振り回してメチャクチャにする。
「ワシが一体どれほどの金をつぎ込み、そして、どれほど骨を折ったと思っておるのじゃ!」
「は……ですが、次に進むためにはあの四体の被験体ではこれ以上は……」
「ええい! 言い訳なんぞ聞きたくないわ! とにかく、時間がないのじゃ! 急げ!」
並井十蔵が憤慨しながら研究室を出て行く。
「先生……既に『DS-n細胞』は完成しているじゃないですか。それさえあの男に渡せば……」
「いや、“あの細胞”はまだ未完成だ……何より、あの細胞は従来の『DS細胞』とは異なり、適合者を選ぶ。遺伝的な、な……」
そう……“あの細胞”は誰しもが適合するわけではないのだ。
そして、その適合者を見つけることなど、無数にある砂粒の中から同じ大きさのダイヤを見つけるほど不可能に近い。
「すまない……少し席を外す」
「先生……」
私はその場を離れ、研究室の屋上で夜風に当たる。
「ふう……」
だが、仮に適合者が見つかったとして、本当にそんな真似、私にできるのか?
適合者に、全ての『DS細胞』を破壊する、『DS細胞』の存在そのものを否定する細胞……『DS-v』細胞の結合実験を……。
あの細胞は理論上、『DS細胞』とは異なり、結合するものは適合者のみとしか結合できない。
だが、『DS-v細胞』はそれ単体で全てを補える……つまり、『DS-v細胞』そのものが求める結合体となりうるのだ。
さらに、上位互換である『DS-v細胞』は、『DS細胞』、『DS-n細胞』と結合されず、ただその細胞のプログラムを破壊し、その組織を変異させる。
つまり……ただのヒトの細胞へと変異してしまうのだ。
おそらく、四体の被験体が『DS-v細胞』と接触した場合、『DS細胞』はヒト細胞となり、その結果、無理やり結合していた他の生物の細胞が破壊され、連鎖的に本来の細胞すらも破壊され、全て消滅してしまうだろう。
……やはり、今のうちに彼女だけでも切り離しておくべき、か……。
私はそう決意すると、すぐに研究室へと戻り、こう告げる。
「たった今から被験体“6C676E”の再手術を行う!」
「先生!? それはどうして!?」
「ああ……『DS細胞』を増加させ、さらに別の生物の細胞を結合させるための土台を作るのだ」
「おお……! そんなことが!」
私の説明……いや、でまかせ……とも言い切れないか……それを聞き、高田くんは興奮する。
「そういう訳だから、早く準備を」
「は、はい!」
そして、私は長時間に及ぶ手術を行い、彼女のヒト細胞と『DS細胞』との間に『DS-n細胞』を移植する。
こうすれば、万が一『DS-v細胞』と接触しても、破壊されるのは表面の『DS細胞』のみとなり、内側の『DS-n細胞』はヒト細胞に変異した『DS細胞』との結合が行われる……つまり、可能性は極めて低いが、普通の人間に戻れることもあり得る。
他の三体の被験体にも施してやりたいが、これ以上はあの二人に分かってしまう。
だから。
「ふう……やはり無理だったか……仕方ない、今回は現状維持のまま手術を終了する」
「……はい、残念です……」
ガッカリした様子の高田くんを一瞥すると、気づかれないように元通りにし、再度被験体をガラスケースへと戻す。
うむ……これなら、ひょっとしたら飯綱くんは……。
私は、理不尽かつ矛盾しながらも、自分の行為に満足した。
ただの自己満足と知りながらも。
◇
それからしばらく経ったある日、高田くんが勢いよく研究室に飛び込む。
「先生! 見つかりました!」
「見つかったって……何がだ?」
「はい……! 『DS-n細胞』の“適合者”です!」
高田くんは興奮しながら、まくし立てるように説明する。
だが……そんな被験体、見つけるなど不可能では……。
「高田くん、一体どうやって……?」
「はい! 全国の血液データから一定の血液型、一定の反応を示すものをピックアップし、それを回収して適合検査を繰り返したんです!」
「それは……」
日本国民の血液データを調べるなど、それこそ膨大な作業になる。
だが、それをやり遂げたこの高田くんの熱意……いや、執念、か……それが、この不可能を可能にした、そういうことだろう。
……そして、高田くんに協力した、あの男の力、ということか。
「それで先生、被験体はこちらに……!」
「あ、ああ……」
興奮する高田くんに案内され、研究所の一室へと足を運ぶ。
すると。
——そこには、由宇とさほど変わらない年齢の、一人の少女がベッドに横たわっていた。
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