休暇⑤
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「えーと、確かこの廊下を左、だったっけ……」
僕はこよみさんに教えてもらい、ご実家自慢のお風呂をいただくことにした。
だけど……ここ、民宿どころか旅館レベルだよね……。
それも高級旅館クラスの。
「お、ここだ」
僕は浴場を見つけ、早速『男湯』の暖簾をくぐる。
さてさて、こよみさんも、こよみさんのお母さんもすごく自慢してたから、さぞかしすごいんだろうな。
期待に胸を膨らませ、裸になった僕はお風呂場への戸を開けると。
「おお……」
あまりの立派さに、僕は思わず感嘆の声を漏らした。
お風呂場全体が総檜で構成されていて、床は正方形に切り出された御影石のタイルで規則的に敷きつめられている。
そして、お風呂場から見える外の景色は、雄大な吉野の山々を一枚の絵画として切り取ったかのようだ。
「本当にすごい……って、さっさと身体を洗ってしまおう」
僕は逸る気持ちを抑え、身体をよく洗うと、待ちに待った湯船につかる。
「はあああああああ」
うわあ、すごく気持ちいい。
お湯の心地よさがゆっくりと身体に沁み込んでいき、これまでの旅の疲れが癒えていくような心地だ……。
このお風呂もそうだけど、明らかに立派過ぎるくらい立派な民宿だ。
……ひょっとしてこよみさんって、すごくお嬢様なんじゃなかろうか。
――カラカラ。
あれ? 他のお客さんかな?
僕は少し気になり、戸のほうに目を向けると。
「ワハハ! 耕太くん、ウチの風呂はどや!」
なんと、入って来たのはこよみさんのお父さんだった。
「は、はい! すごく立派なお風呂で、しかもお湯も気持ちよくて最高です!」
「ワハハハハ! 喜んでもらえて何よりや!」
こよみさんのお父さんは豪快に笑うと、湯船に入り、僕の隣に来た。
「ふい~、あーやっぱ疲れを取るんはお風呂やな」
「あはは、そうですね」
そういえば、お父さんは民宿の仕事とか大丈夫なんだろうか……?
「ん? ……ああ、ひょっとして『社長がなんで仕事サボって風呂に入ってるんや?』って思ってへんか?」
「い、いえ、そんなことは……」
くっ!? 図星を突かれてしまったぞ!?
「ワハハ! 冗談や! ちゃんと仕事もしとるし、今日は耕太くんに腕によりをかけて美味いご飯作るさかい、楽しみにしててや!」
「は、はい、ありがとうございます」
そう言うと、お父さんは僕の背中をバシン、と叩いた。
「それよりな、ワイは耕太くんとどうしてもサシで話がしたかったんや」
「僕と……ですか?」
「そや」
その言葉に、僕は居住まいを正して向き合う。
すると。
「耕太くん……おおきに」
お父さんは僕に向かって深々と頭を下げた。
「ちょ、ちょっとお父さん!?」
僕は慌ててお父さんの身体を起こす。
「……知ってるかもしれへんけど、こよみは高校に入ってからいじめっちゅうか、馬鹿にされるっちゅうか……誰からも相手にされへんかって、引きこもっとったんや……」
「…………………………」
「そんで、高校にも行かんようになって、中退して、ずっと沈んだ顔しとった時、急に国の偉い人が来て、国のために力貸せ言うて、無理やり連れてかれてしもて……」
あれ? 確かこよみさんは自分からって……。
「ワイもお母ちゃんも心配で、ちょくちょく東京に行ってはこよみの様子を見に行っとったんやけど……こよみ、表情がなくなってしもてた……」
お父さんは今にも泣き出しそうな表情で、俯きながらつらそうに、訥々と話す。
「でもな」
すると、お父さんは勢いよく顔を上げた。
「耕太くん、君と知り合ってから、電話越しに聞こえるこよみの声がどんどん明るくなってったんや。いつも耕太くんの話ばっかりで、やれ今日は餃子を作ってもらったやの、マカロニグラタン美味しかったやの……って、ご飯の話ばっかりやな!」
そう言うと、お父さんは少し微笑んだ。
「そんなこよみが、今日、耕太くんを連れてくる言うて、連絡くれた時、ホンマに嬉しかった。こよみのこと認めてくれて、受け入れてくれて、支えてくれて……耕太くんも、ここに来るんは、すごい覚悟してくれはったはずや」
「…………………………」
「そんで、いても立ってもいられへんようになって、ワイは駅で二人が来るんをずっと待っとって、二人の姿を見たら……こよみが……こよみが最高の顔で笑っとったんや……」
父さんはとうとう堪え切れず、泣き出してしまった。
「……耕太くん、うちのこよみはああ見えて繊細で、壊れやすい性格やけど、ホンマにええ子なんです……どうか……どうかこよみのこと、これからもよろしゅうお願いします……」
そう言って、お父さんは深々と頭を下げた。
その背中は、大切な娘を心配し、そして心から幸せを願う父親の、すごく大きな背中だった。
「お、お父さん……僕はまだ大学生で、男として責任を負うこともできない未熟者です。ですが、大学を卒業して、一人の男として胸を張れるようになった時……もう一度お父さんにご挨拶をさせてください。こよみさんと一緒に」
そう言うと、僕もお父さんに深々と頭を下げた。
「おおきに……おおきに……」
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次話は明日の夜投稿予定!
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