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季節はずれの風鈴のような

作者: 砂臥 環

※なろうラジオ大賞7参加作品です。

規定により1000文字以下なので、描写、説明の不足が苦手な方はご注意ください。


※恒例のキーワード全部盛り!

【キーワード】

年賀状・オルゴール・合い言葉・自転車・雨宿り・ギフト・ホットケーキ・風鈴・サバイバル・木枯らし・舞踏会


「ホットケーキ」


車から出てきた彼は、挨拶もせずに言う。


「……絵本」


顔を見合わせて笑った。


「イキナリそれ?」

「超考えた、まず何言おうか」


ホットケーキは絵本でも人気。

そこからきたこの合言葉のお陰で気まずい空気にもならず、助手席に乗り込む。


幼馴染の彼とちゃんと会うのは、中学卒業以来。


「この辺も変わったろ」


覚えている風景は、沢山の緑と盛られた土の山々。水田と畑。

今や、その名残もない。

雨宿りした、トタンのポンプ小屋も。


サバイバルもどきの遊びと、ダンボールや壊れた傘で作った秘密基地──あの頃の思い出は、季節が過ぎてもつけられたままだった、彼の部屋の硝子の風鈴のよう。

僅かにくすんだ透明を朧気に輝かせて揺れ、時折吹きすさぶ木枯らしにも、澄んだ音を響かせる。


再会後、届いた年賀状には日付と一言だけ。


『タイムカプセルを掘りに行こう』


だが案の定、埋めた場所は様変わりし、目印にしていた木すらない。

独り言のように、私は言う。


「……忘れてるのかと思った、私のこと」

「切り替えられなかったんだよ」


再会は偶然で、彼は仕事中だった。


「住所、職権乱用~」

「連絡を寄越さないのが悪い。 酷いよ20年も」

「ごめん」


20年前、祖父母を頼り私は町を出た。


家を顧みない父。父に執着する母。

父が帰ってこなくなると母は、父似の私を息子のように扱い出した。

幸い少年のように過ごすのは苦ではなかったが、中学からは違う。

女生徒の制服と、人より遅かった初潮。

意識した初めての恋は、浮かれるよりも嫌悪感が強かった。


「僕もごめん」


渡された紙袋の中には、埋めた缶に入れた筈の、舞踏会で踊る男女のオルゴール。


少女が好みそうなそれは、誕生日に彼から貰った物。『ギフトショップで半額だった』という言葉は照れ隠しであり、また性の狭間で苦しむ私への配慮だとわかっていた。


「いなくなって、悔しくて掘り返した。 君『一番大切な物』って……コレを埋めたと知って、泣いた。 いつか会えたら渡すつもりで」

「はは、妙なかたちになっちゃったね」


ようやく落ち着いた頃に告げられた癌。体調の悪さに自覚はなかったが、顔色は酷かった。

再会したのは、検査の為に移った大病院。

彼は医師になっていた。


「ステージ4でも末期な訳じゃない」


黙って頷き、紙袋を返す。


「持ってて、コレ」


視界の端、少年達が自転車で走り抜ける。

それはまるであの頃のふたり。


私は微笑む。


「退院祝いに貰うね」


雪がチラついていた。


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― 新着の感想 ―
今さらながら、ふと思い出して見に来てみたのだぜ!(ホント今さら) いいじゃないっすかコレ。上手いねぇ……。 そして似て非なる、上手くなったねぇ……。(上から目線(笑)) いや実際、表現上手くなりは…
ランキングから参りました。 まず、キーワード全部入れて、この無理のない出来上がりが、すごいと思いました。 退院祝い、もらえると良いなと思いました。 読ませていただきありがとうございました。
おぉ、これはお上手でしたね。 癌は昔ほど致命的な病ではなくなりましたが、進行しているとやっぱり生存率落ちますものね。 それでも、病は気から、と言いますし。 気の持ちよう一つで、これからの余生で見える…
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