第45話 遠吠えと言葉と
私達が暮らしている家は、町から離れた場所に位置している。
周りは平原が広がっており、町は遠くに少し見えるだけだ。
「ワォオオオオオンッ!」
そのため、このように大きな声を出しても特に問題はない。もしかしたら、町に多少聞こえているかもしれないが、特に文句を言われたりはしないだろう。言われたこともないし。
「ワォオオオオンッ!」
「……いい調子ね?」
「そうかな?」
クラーナとラノアは、遠吠えをしている。これも訓練の一環だ。
犬の獣人は、そのような遠吠えで合図をすることがあるらしい。
ただ、二人ともほとんど使う機会がないため、このように時々喉の調子を確かめているのだ。
「クラーナの喉には、何度も助けられたよね……」
「そうね……」
依頼の中で、クラーナの遠吠えには何度か助けられてきた。
私は、彼女の喉を見てみる。綺麗な喉だ。いつも撫でているが、改めて近くで見てみると本当に美しい。
「褒めてくれてもいいのよ?」
「褒める……そうだね」
「んっ……」
クラーナに言われて、私はその喉を撫でた。
彼女は心地よさそうにしてくれる。やはり、喉を撫でられるのが好きなようだ。
「ねえ、アノン……」
「あ、ごめんね、ラノア。クラーナ座ってくれる?」
「ええ」
私の言葉に従って、クラーナはゆっくりと座った。
それに合わせて私も体勢を低くして、ラノアの喉も撫でる。
「クゥン……」
「ふふ、気持ちいいわね?」
「うん……」
私に撫でられながら、クラーナはラノアの頭を撫でた。
私とクラーナから撫でられて、ラノアはとても気持ち良さそうな表情をしてくれる。その表情がとても可愛くてたまらない。
「……考えてみれば、犬の獣人と犬のとても大きな違いとして、言葉もあげられるわね」
「言葉?」
「ええ、犬は言葉を発することはできないでしょう? だから、鳴き声や仕草で気持ちを伝える。それは、私達にも色濃く残っている訳だけれど、でも私はアノンに愛しているという言葉を伝えることができる。それは、とても幸せなことよね」
「クラーナ……」
クラーナは、少ししみじみとした口調でそのようなことを言ってきた。
犬と同じような特性を持っている彼女は、犬の気持ちがよくわかっているのだろう。
「まあ、言葉にできない分、犬は愛情表現が大胆という面もあるのかしらね」
「愛情表現に関しては、クラーナもラノアも結構大胆だよ?」
「……そうだったわね」
犬の獣人は、犬と人間の両方の性質を持っている。だから、クラーナもラノアは愛しているといえるし、愛情表現も大胆だ。
そんな二人に思ってもらえている私は、本当に幸せである。私は、改めてそれを認識するのだった。




