第39話 もう一つの居場所
「……それなら、アノン」
「ああ、そっか……そっちの方がいいかもね」
「どうかしたのか?」
「アノンがお父様から受け継いだ仕事の組織があるのよ。そこでは、犬の獣人も雇われていて……基本的には、物を運ぶ仕事だから、世界を見たいというなら最適ではないかしら?」
「なるほど、そうか……」
クラーナの言葉に、厄災の戦姫の視線が私に向いた。
その顔は、笑っている。もしかしたら、犬の獣人が雇われているということを嬉しく思っているのかもしれない。
とはいえ、その部分に関しては私の手柄かどうかは怪しい所だ。雇用が始まったのは、ガランの時代からだからである。
そして、そこに関しては娘の影響という訳でもないだろう。誇れる父親ではないガランだが、そういった差別的な意識だけは元々持ち合わせていなかったからだ。
「ただまあ、彼女の父親はあまり褒められた人間ではなかったから、未だに真っ白な所という印象を世間には持たれていなくて、そういった面で少々苦労はあるかもしれないわ」
「ほう……」
クラーナの言葉に、私は少しだけ驚いていた。
私の父親であるからか、彼女がガランを悪く言うことは少ない。説明だからとはいえ当然かもしれないが、その表現に少しびっくりしてしまったのだ。
ただ、事実は事実であるのだから、それはきちんと説明しておくべきだろう。こういう所に、クラーナの高潔さが現れているともいえる。
「そこにいる者達は、獣人達に対して差別的な意識を持ってはおらんのか?」
「ええ、そうね……まあ、元を辿れば彼らもアウトローみたいなものだった訳だし、逆にそういう差別的な意識は薄いのかもしれないわね。そもそも、表立って何かを言える状況ではないということもあるかしら? 現当主とされているアノンの妻が私だもの」
「ふふ、それは確かにそうじゃのう」
厄災の戦姫は、本当に面白そうに笑っていた。
確かに、私の妻がクラーナという状況で犬の獣人に差別的な発言なんてすれば、立場はなくなってしまうだろう。
とはいえ、ことガランの部下だった人達に関しては、本当にそういった意識を持っていないように私は思っている。あの人達の判断基準は、そういったものではないはずだ。
「父と父を慕っている人達の判断基準は、普通の人とは少し違うんです」
「そうなのか?」
「ええ、まあ、これは私の推測ですけど、多分気に入るか気に入らないか、それで全てを判断していると思うんです。そこには、地位も種族も年齢も性別も関係なくて……」
「なるほど、それは単純明快じゃのう」
厄災の戦姫は、またも面白そうに笑っていた。
なんとなく、彼女とあの人達は気が合いそうな気がする。その笑顔をみながら、私はそんなことを思うのだった。




