第15話 強靭なる顎
私とクラーナは、基本的には同じものを食べる。
犬の獣人である彼女は、人間と同じものが食べれられるのだ。犬とは違い、特に食べられないものがある訳ではないらしい。
しかし、その逆は違う。私が食べられないようなものでも、クラーナには食べられるものがあるのだ。
「改めて見ても、やっぱりすごいね……」
「そうかしら? なんだか、そんな風に言われると、少し恥ずかしいわね……」
クラーナの前には、骨がある。それは、牛の骨だ。
彼女は、それを食べている。私には、到底食べられそうにないものを食べているのだ。
「普段はあまり気にしていないけど、犬の獣人の顎ってすごいんだね?」
「そうね……見た目は同じかもしれないけど、噛む力は遥かに上だわ。いざという時には、これが私の最大の武器ということね」
クラーナは、口を開けてその中を見せてくれた。
彼女の犬歯は、とても鋭い。顎の力も強いのだとは思うが、その歯も強靭な咬合力の一因なのだろう。
「こうやって、固いものを噛み砕くのは、結構気持ちいいのよね……」
「それは、なんとなくわかるかも。噛み応えがあるってことだよね?」
「そういうことね」
クラーナは、私の前で骨を噛み砕いてみせた。
その様は、本当に見事である。
直後に聞こえてくるのは、彼女の咀嚼音だ。体内に刺さらないように、よく噛み砕いているのだろう。
「……ねえ、アノン、少し質問をしてもいいかしら?」
「うん? どうかしたの?」
そこで、クラーナは私にそんなことを言ってきた。
彼女の表情は、なんだか少し暗い。何か心配なことがあるようだ。
「私の噛む力は、すごいということは、もうわかっているわよね?」
「うん」
「私、時々アノンのことを噛んだりするけど、これからもしていいのかしら?」
「え?」
クラーナの質問に、私は少し混乱した。
どうして、そんなことを聞くのか、よくわからなかったからである。
「別にいいよ。でも、どうしてそんなことを聞くの?」
「だって、怖かったりしないのかと思って……」
「怖い?」
「その、力加減を間違えたりしたら、大変なことになる訳でしょう?」
「ああ、なるほど、そういうことか……」
クラーナの説明で、私はやっと彼女が何を心配していたのか理解した。
その強靭な噛む力を見せて、私が怖がっていないか確かめたかったのだろう。
「怖くなんてないよ。クラーナは、間違ってもそんなことはしないってわかっているし」
「そう?」
「そもそも、力加減を間違ったら危ないのは、人間だって同じだよ。そりゃあ、クラーナからすれば大したことないように見えるかもしれないけど、人間も噛む力はそれなりにあるんだよ?」
「まあ、確かに、それはそうよね……」
私が笑顔で答えると、クラーナは安心したような表情を見せてくれた。私が怖がっていないと、理解してくれたのだろう。




