正妻戦争編 序
「いらっしゃいませー。今日はモンブランがお勧めだよー」
「いいですね、ちょうど刹那の手作りのモンブランが食べたかったんです」
学校が終わり放課後になりいつものようにアルバイトをしていると、いつものように桔梗がやってきたので、彼女の特等席である壁際の席に通して接客をする。なんかさ、当たり前のようになっているんだけど、普通こういうカフェで専属で店員がつくって珍しいよね。まあ、桔梗も嬉しそうだし、俺も楽しいからいっかー。
「いや、俺の手作りじゃないんだけど……」
「刹那が持ってきてくれるだけで、私にとっては手作りと同じくらいの価値があるんですよ。それに紅茶は刹那が淹れてくれますしね。楽しみにです」
「そう言ってもらえると嬉しいなぁ。ちなみに今日のお勧めはダージリンだよ」
「じゃあ、それにしてください。後はいつものお願いしますね」
「え……また、あれやるの……」
桔梗のリクエストに俺はちょっと返事を言いよどんでしまう。いや、そこまで嫌ってわけじゃないんだけどさ。みんなの前って恥ずかしいよね。俺はちらっと桔梗を見るけど彼女は期待に満ちた視線で俺を見つめている。これは裏切れないよね。バックスペースに入ってワックスを付けて髪型をオールバックにする。ちょうどいいタイミングで呼び鈴の鈴 (桔梗の私物) が鳴ったので俺は彼女の元にいってこう言った。
「いらっしゃいませ、お嬢様。今日はいかがいたしましょうか?」
「じゃあ、砂糖を入れてくれますか」
「かしこまりました。お嬢様、いかがでしょうか。もう少し甘く致しますか?」
「いいですね!! やはり刹那はこういう姿が似合っていますよ!! 永久保存しないと!!」
俺の似非執事ごっこに桔梗が興奮したようにスマホで写真を大量に撮っている。カシャカシャ音を立てて少しうるさいけれど、幸いみんなの席からは離れているので気にする人もいない。てかさ、なんか恥ずかしいよね。ちなみに普段はこういうサービスはしていないんだけど、比較的暇な平日っていう事と桔梗が常連で、俺の幼馴染だから許されていると言った事情がある。
「ちょっと、バイトをさぼって何をしてるんですかぁぁぁぁ!? 人の父の店で二人だけの世界を作らないでください!! 例えるならば、親戚の男の子を家に置いたら、彼女を連れ込んでイチャイチャしているのを見せられた気分です」
「ああ、双葉ちゃんじゃないですか? お邪魔してます」
「ああ、ごめんごめん。でも、今日は暇だし、店長から了承はもらってるよ」
「うう……そうかもしれないですけどぉ……なんか負けた感じ悔しいんですよ」
そういうとなぜか、桔梗は微笑んで双葉を見つめて、双葉はそれを見て、悔しそうに顔を頬を膨らませるのであった。一体どうしたんだろうね? なんか勝負でもしているのかな?
「ふふ、今は私がお客様で、刹那はアルバイトですからね。彼は私の言う事に逆らえないんですよ」
「くぅー、ずるいです!! 今度は私も刹那先輩がバイトしているときに、私もお客としてきて命令してやりますからね」
「いや、たかが学生バイトにお客さんの言う事を何でも義理はないんだけど。あ、でも、双葉ちゃんの命令ってどんな感じかちょっと気になるな。面白そう」
俺は見つめ合っている桔梗と双葉を横から見ながらツッコミを入れる。でも、こうして二人が見つめ合うのってよくある構図だよね。心なしか、桔梗の背後には龍の幻影が、双葉の背後にはチワワの幻影が見えるよう気がする。でも、二人ともどんどん仲良くなっていくなぁ。そういえば、ちょうどいいや、二人に聞きたいことがあったんだ。
「今朝お母さんからこんなのもらったんだけどどっちか付き合ってくれない? 二人がダメならアリスを誘おうかと……」
「これは……遊園地のペアチケットじゃないですか? 刹那、私、絶対行きたいです」
「私も知ってます。なんかここで手をつないで花火を見ると結ばれるっていう伝説があるんですよね。例えるならば伝説の樹の下で、告白すると成功するっていうイベントをリアルに感じれる気分です!!」
やっぱり女の子ってこういうの好きだよね。俺も好き。特にネズミがマスコットの遊園地とかいいよね。でもさ、チケットは二人分しかないんだよね。あ、名案を思い出した。
「じゃあさ、桔梗と双葉で行って……」
「却下ぁぁぁぁぁ!! 想像しうる限り最高に空気読めない返答を言ってきますね、この人!! 例えるならば、みんなでかけっこして一緒にゴールしようねって話していたのに一人だけ全速力で走っている人を見ている気分です!! 桔梗さん、あなたの幼馴染はどうなっているんですかぁぁぁ」
「双葉ちゃんと二人っきり……たっぷり話し合いをして刹那をあきらめてもらうのもありですね……」
「正妻戦争の約束ぅぅぅぅぅ!! なんでさっそく、ルール破ろうとしているんですか!! 存在がルールブレイカーですか!!」
「双葉、ここはお店だからあんまり、大声出したらダメだよ。あ、良かったら水飲む?」
「誰のせいですか。でもありがとうございます」
俺がぜーぜーと肩で息をしながら差し出した水をがぶ飲みする双葉。彼女は水を一杯飲むと何かに恐れるように俺の影に隠れた。
「ふふ……冗談ですよ、刹那の言うようにからかうと面白いですね。でも、刹那せっかくですし、委員長も誘って四人で行きませんか?」
「ああ、それはいいね。金額も二人分を四人でわければ安く済むし」
「あ、桔梗さんもそこはきちんとルール守るんですね」
「当たり前じゃないですか、正々堂々と潰さないとダメですからね」
「ひぃぃぃ」
桔梗が虫のような目でニタァと笑うと、なぜか双葉ちゃんは悲鳴をあげて俺を盾にするかのように桔梗の視線から逃げた。この時の桔梗ってひぐらしのなく頃にのキャラみたいでいいよね。それにしても、アリスも含めた三人は何の勝負をしてるんだろうね? 学校で聞いたけどアリスは微笑むだけで教えてくれないんだよなぁ……まあ、それはさておき、四人でデートをすることになった。
すいません、更新が無茶苦茶遅れました。
私事なんですが、最近俺妹のあやせルートを読みました。個人的な推しはあやせと黒猫推しだったんで、本編の終わり方的にはくっそ、二人とも負けヒロインかよぉぉぉぉって思っていたんですが、マルチルートっていいですね。負けヒロインも救済されている!! というわけでこの作品も三人のヒロイン分書こうと思います。
とはいえ全員同時にはちょっときついんで、感想欄でどのヒロインのルートが読みたいか教えていただけると嬉しいです。順番の参考にいたします。初めて感想くださる方もお気軽に。キャラのこんなとこが好きとかいってもえると無茶苦茶嬉しいです。




