双葉の決意2
「正妻戦争……ですか……?」
「ええ、そうよ、私と二宮さんは刹那をめぐって戦争をすることにしたの」
「はい、私の勝利はゆるぎないので、どんな形でもいいんですけどね」
そう言うと委員長さんは、可愛らしい猫が表紙のノートをカバンから取り出して私に見せた。そこには綺麗な字でこう書かれていた。
正妻戦争
ルール1 刹那に告白してはいけない。刹那に告白されたものが勝者とする。
ルール2 対戦相手に肉体的及び精神的な苦痛を直接与えてはいけない。
ルール3 朝の登校は二宮さんの時間、朝のホームルームは私の時間、昼は当番制、放課後は自由とする。
ルール4 強制命令権 3回のみ相手に命令をすることができる。 例えばこの日はデートをしたいので邪魔をしないでほしいなど
え? これって何ですか? ドッキリですか? 私がおそるおそる委員長さんを見つめるが、彼女は真剣な顔で私と桔梗さんを見つめていた。ああ、この人もまともそうに見えてやばい人だったんだ。薄々感づいてたけど……例えるならば、スタンド使いの戦いに巻き込まれた、一般人の気分ですぅぅぅぅ。てか刹那先輩帰ってこないんですけど……
「それで、あなたはどうするのかしら? もし、あなたが正妻戦争に参加するならあなたにも公平にチャンスはあるわよ」
「もし、断ったらどうなるんです?」
私の言葉に委員長さんは優雅に顎に手を添えて「そうね……」と何かを考え込むようにしている。その姿はとても優雅で、思わず同性の私でも、見惚れそうになってしまう。
「申し訳ないけど刹那はあきらめてもらうわ。もしも、私たちに内緒で刹那にアプローチをした場合、あなたの命の保証はできないわね……」
「いやいや、そこまでのことは起きないですよね!?」
「双葉ちゃん知ってます? 人って簡単に死んじゃうんですよ」
「ひぇっ」
私は思わず悲鳴を上げてしまった。桔梗さんと目が合うと彼女は感情の一切ない目でニィィと笑った。あ、ダメだ。選択肢を間違えたら死ぬ。
いや、これは無理ですよ、命がけじゃないですか……確かに刹那先輩の事は好きだ。でも、命を懸けるほどの事ではない。初恋は実らないものだと誰かが言っていた。だからあきらめようと私は自分に言い聞かせる。
「お、みんな盛り上がってるね、よかった。はい、双葉ちゃんの分のパンケーキだよ」
「これが盛り上がってるように見えますか? 刹那先輩の目って腐ってませんか!? 例えるならば、処刑される死刑囚の気分ですぅぅぅぅぅ」
「フフ、この子面白いことを言うわね」
「でしょ、双葉はからかうとすごい良い反応をしてくれるんだよね」
そういうと刹那先輩はキッチンへと戻ってしまった。現実逃避とばかりに、パンケーキに口をつけた私は一瞬目を見開いて、再度味わうように食べる。これは父の味に近いものだ。しかも私が、父が最初に作った私の一番好きなパンケーキの味である。もちろん父のものに比べると味は落ちるけれど、それでも私が一番好きなタイプのパンケーキだった。よくみると桔梗さんのパンケーキも委員長さんのパンケーキも生地から違う。なんでそんな面倒なことを……
「双葉ちゃん気づきましたか? 刹那は多分私たちの好みに合わせてそれぞれ作ったんでしょうね、私のは刹那がいつも作ってくれる中で、一番好きって伝えたやつでした」
「私のはうちの味のパンケーキね、まったく普段は空気を読めないのに、なんでこういう時は気をつかえるのかしらね?」
桔梗さんの言葉に続くように委員長さんも皮肉じみた言葉を紡ぐ。でも、二人には笑顔が浮かんでいて……ああ、私は思う。こういう店を私は作りたいのだ。食べた人が笑顔になるようなこういう店を私は開きたいのだと。幸せそうにパンケーキを楽しんでいる二人の顔をみて思う。
そのためには、私だけではなく、刹那先輩みたいな人の力が必要で……いや、違う、刹那先輩ではないとだめなのだ。大好きな刹那先輩でないとだめなのだ、私の夢をかなえるには彼と一緒でなければだめなのだ。だから私は一歩踏み出すことにした。戦場へと踏み出すことにした。
「私にも正妻戦争について教えていただけないでしょうか?」
そうして私は戦争に行くことになった。
ホワイトデーがようやく終わったよぉぉぉ
これで正妻戦争編になります。ある程度書いてからの投稿になるので遅くなると思いますが楽しみにしていただけると嬉しいです。




