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神様転生したけど、異世界じゃなくて日本だし、俺tueeeとか虚しいだけだし、崇め奉ってくれるのは近所のおばあちゃん  作者: 脇役C


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第三話 魂も崩壊します

三話連続更新です!


『じいさんの魂が崩壊し始めている』


 そう、たで山の神が言った。


 それは、あとどれくらい持つのだろう。

 崩壊は、元に戻らないのだろうか。


 じいさん……。


 ……なぜ、せっかく人間に戻れるチャンスをふいにしたんだ。


 疑問と同時に怒りを感じた。


「おい、山が鳴いているぞ」


 蓼山の神に言われて、辺りを見渡す。

 風が山木を揺らしていた。

 暗雲が立ちこめている。


「あの人魂の穢れが入り込んでおるな」

「いえ! これは!」


 蓼山の神の言葉を強く否定してしまった。

 思ったより、感情的になっているようだ。

 気を静めなくては。


「これは、ただ、俺が人であった頃の名残です。まだ感情に支配されている部分があります」

 そう言い直した。

「そうだといいがな」

 俺を見透かしたように、蓼山の神はそう言う。


「じいさんは、……あの人魂は、なぜ逃げたんですか?」

「そんなことは分からぬ。再び地獄道に落ちるのに嫌気でも刺したのじゃろう」

「蓼山の神でも、分からないことがあるのですね」

「それはそうじゃ。神は万能ではない。神も人も、修行の身であることには立場は変わらぬ」


 蓼山の神は、俺にとっては全知全能の神に等しい。

 そんな人でも、いや、神でも、当たり前に分からないこともある。

 当然、俺の感情も。

 

 じいさんは、一年間、同じ時間を共に過ごした大切な友人だ。

 ここでじいさんを放っておいたら、俺は一生後悔する。

 大切な人を救えない神になんて、俺はなりたくない。


「それは、神として失格な考えじゃな」

 蓼山の神が、俺の考えを読み取ったらしく、そう言う。


「このふし山には、数億を超える魂がんでおる。その人魂を救うことで、お前を頼る多くの魂を穢すことになるかもしれないんじゃぞ。それに」

 蓼山の神は、諭すように、しかし強く言った。

「自ら望んで崩壊の道を歩んだ魂を、お前が救えるのか?」


「分かりませんけど、行ってきます!」

 蓼山の神を無理やり振り切る。


「え!? ちょ?」

 蓼山の神の声が遠くに聞こえた。


………

……


 なんとか、街までたどり着くことができた。


 蓼山の神も、良くも悪くも山の神だ。

 山が神体なので、自分の山から離れれば力も弱まる。

 俺ごときの神でも頑張れば何とか抜け出せる。


 それは俺も同様なので、ここで見つかったら強制送還待ったなしだな。

 じいさんを早く見つけ出して、地獄に送り返してやる。


 とはいえ、じいさんが行くところなんて、一つしかない。

 まあ、ヨネさんのところだよね。


 ヨネさんの家には言ったことない。

 初訪問である。

 こんな形で行くことになるとは思わなかったな。


 ヨネさんの家は、昭和に流行ったような、安っぽいひと昔前の家だった。

 トタン屋根、ベニヤ板の壁。

ブリキの波板で補強され、継ぎはぎ感。


 昭和を生き抜いてきた力強さを感じる。


「あ」

「あ」

 じいさんがいた。

 じいさんが逃げた。


「ちょ、ま」

 あわてて、じいさんを追いかける。


「止まってください! 俺はじいさんの話が聞きたいだけです! 蓼山の神に見つかったら、俺は止められませんよ!」

 俺の言葉に、じいさんが止まった。


「地獄に送り返そうとしてるんじゃないんけ?」

「そう思ってたこともありましたけど、今は違います。純粋に話がしたいんです」

「本当け?」

「神に誓って」

「おめえさんが、神さんだろ?」

「そうでしたね」


 ふっと、じいさんの気が緩んだ。


「おめえは、本当に緩い神さんだなあ」

 褒められているのか、けなされているのか。


「ばあさんのところに行かせてくれ。たぶん、そう長くもたないから」

「知ってるんですか?」

 魂が崩壊していることを。


「まあ、自分のことだからな」

「じゃあなぜ、この世に戻ってきたんです」

「こんなところで立ち話もなんだ。部屋に入るべよ」


………

……


 ヨネさんちの仏壇と神棚は、とてもきれいに保たれていた。

 余計なものを置かず、清掃が行き届き、目に見えないものへの敬意を感じた。


「これは帰りたくなるわ」

「だべ?(だろ?)」

 ドヤられた。

 きっとじいさんは掃除なんかしたことないだろうに。


 居心地がいいのは、俺やじいさんだけではない。

 座敷童もいる。

 俺たちをじっと見つめている。


 神棚には、この土地の氏神の札と、布袋ほていさんと恵比寿えびすさんが祀られていた。

 有名な七福神のお二人だ。

 会ったことないけど、七福神っているのかな。

 これだけ広範囲にまつられている神だから、きっとすごい神様なんだろうな。


 俺は、祀られてなかった。

 そもそも祀りようがないか。

お札も像もないしな。


 いや、あった。


夾竹桃きょうちくとうだ。

 俺の山に棲む、草のひとつだ。


 道路ばっかりの山で、排気ガスにも負けず、美しい褪紅あらぞめ色を咲かす。

 仏壇の花瓶に、瑞々しく挿さっている。


 ヨネさんが俺の山の花を供えてくれている。

 嬉しい。


 ただ、夾竹桃には毒があるが。


「やっぱ、自分ちは落ち着くな」

 じいさんは腰を下ろす。

 じいさんの魂は黒くくすぶっている。


「なぜ、なぜ帰ってきたんですか。せっかく、ヨネさんの供養が通って、やり直すチャンスをもらったというのに」

 思わす責めるような物言いになってしまった。

 

 じいさんは黙っている。

 言葉を選んでいるように見えた。


「あの世に行ってさ、前世を思い出したんだ。いや、前世どころじゃなく、ずっとその前、前前前世より前だ」

 そう、じいさんが切り出した。

 どこかのアニメ映画の主題歌みたいなフレーズだな。


「俺の魂は、過ちと苦の連続だ。徳を積んで人界に生まれ変わったと思ったら、そこで欲に流され悪業を積み、また畜生や地獄に生まれ変わる。一歩進んで二歩下がるような」


 じいさんの声は、長年の魂の蓄積を感じた。

 いつの間にか、言葉のなまりも消えている。


「それが嫌になったから、もう消滅しても構わないと?」

「その通りだ」

と、じいさんは答えた。


 蓼山の神の言うとおりだったのか。

 じいさんは、地獄が嫌になったから逃げ出したのか。


「根性なしだ、と思ったか?」

「そこまでは思いませんけど、せっかくヨネさんの供養でやり直すチャンスをもらったんです。それに応えたいと思いませんか?」


「それは、お前さんが地獄を知らないから言えるんだ。

知ってるか。地獄の一日は数百年あるんだ。

一日が数百年の長さなのに、何千年と過ごす。

人間の時間なら、何百兆年の月日が流れてる。

もっと重い地獄だと、兆どころじゃない。何京年という時間になるらしい」


 地獄の責め苦は無限に続く。

 芥川龍之介小説の一節を思い出した。


「前世では、ずっと魂をすりつぶされてたよ。

人間だったら、どんなに長くても100年くらいで死んで痛みもなくなるから楽だよな。それでも前前世よりマシだ。

親を残して飛び降り自殺したから、ずっと飛び降り自殺を繰り返してた。

痛みだけじゃないんだよな。

このあとに必ずやってくる痛みを想像しながら、自分の足で飛び続ける。

思い出すだけで精神が崩壊するよ」


 じいさんは、自嘲じちょう気味に言う。


「それでも、少しでもマシになっていければよかったんだけどな。どんどん転がり落ちてく。俺の魂は、ようやくつかんだ人間界でやり直せる機会を、ふいにしていく。ふいにするだけじゃない。どんどんと悪業を深く重くしていくんだからな」


「今世では、何をしたんですか?」

「……薬物で、たくさんの人生を散々ダメにしてきた。救いようがないだろ?」


 畜生道や地獄道が魂の更正施設であるなら、施設が機能していないのか。

 それとも、本当にじいさんの魂が救いようがないのか。

 今の俺には分からないことだらけだ。


「さっき、地獄が嫌になったから消滅しても構わないのかと聞いてきたが、ちょっと違うな」

 じいさんがそう言う。


「じゃあ、なんなんです?」

「一番の苦しみは地獄じゃない。ばあさんなんだ」


「ヨネさんが、苦しみ?」


「そうだ。俺はばあさんを苦しめた。

前世の業から来る自業自得を、満たされない乾きを、いらだちを、悪意のないばあさんに向けた。

そして今、後悔がある。

魂を焼き尽くすような、かきむしるような後悔だ。

地獄の責め苦なんかよりも、よっぽどこちらのほうがつらい」


「…………」

 そうかもしれない、と思った。


「俺はもうばあさんを傷つけたくない。いや、もう誰も苦しめたくない。でも俺は……、きっとまた同じことを繰り返す」


 魂は本格的に黒ずみ始めた。

 確実に崩壊に向かってる。

 もうダメだとすら思える。

 でもそれは、この世にとっても、じいさんにとっても、いいことのように思えてきた。


「こんな俺でも、ばあさんに会えたのは良かった。心の安らぎがそこにあった。

生きる頃はそれすらも煩わしく感じて、さんざん、ばあさんを苦しめたがね。

 人間でいるということは、なぜこんなにも盲目的で妄執的なんだろうな。

 大切なものを踏みつぶして、はしゃぐ子どものようだ」


 かける言葉が見つからなかった。

 俺は神だが、人と立場は変わらない。

 神として道を踏み外せば、やはり地獄に落ちるのだろう。


 そう思うと、じいさんと自分が重なるようにすら思えた。


「消えるなら、幸せだったころの記憶とともに消えたいんだ」


 そう言うじいさんを、黙って見守るべきかとも思った。

 いや、確実にそう思っていた。


 ただそのとき。

線香の香りが漂ってきた。


 見ると、ヨネさんが帰ってきて、線香をあげていた。


 そして、踏み台に上り、低い背を背いっぱい延ばして、段ボールをおろす。

 段ボールには提灯ちょうちんが入ってる。

 それを開いて、組み立て始めた。


 ヨネさんは、お盆の準備を始めたのだった。

 しかも、提灯が6つも並べている。

 汗だくになって。


 ヨネさんは一通り準備が終わると、仏壇に向けて手を合わせて、深々と頭を下げた。

 ピラミッド状に重ねたおはぎと、きゅうりの謎生物(馬)とともに。


「これであのじいさんも、ちゃんと帰ってこれんべ」


 提灯は我が家への道しるべ。

 きゅうりの謎生物(馬)はあの世から、我が家までの乗り物。

 おはぎには、長旅の疲れを癒やす。


 そう言われている。


 涙が、出そうになった。

 もう間に合わない。

 じいさんの魂は崩壊する。


「ヨネさんは、まだこの家に帰ってきて欲しいそうですよ」

 俺がちゃんと説得できていたなら、あの世に送り返せていたら。


「こんな俺が、また帰ってきてもいいんだろうか」

 じいさんがそう言う。

 もっとその言葉が早く聞けていたなら、と思った。


 魂の黒ずみも、崩壊も進んでいる。

 消え入りそうな声で。


「少なくとも、ヨネさんはそう願ってますよ」

 そう応えるのが精一杯だった。

 人の体であったなら、嗚咽が混じった声になっていただろう。


 神なのに、一つの命も救えない。

 一年連れ添った友人を見殺しにした。


「時間がないから、我が連れてく」

 声がしたと思ったら、座敷童が近くにいた。

「座敷童ではない。この家の守り神だ。あとは我に任せよ」

 

 あまりの急展開に言葉がでない。


「あの」

「なんだ」

「間に合うんですか?」

 しょうもないことを聞いてしまった。


「任せよ、と言ったはずだが」

「あ、ありがとうございます」


「勘違いするな。礼を言いたいのはこちらだ。こんな出来損ないの子孫を、言葉も届かなくなった大罪人を、よく救ってくれた」

「いえ、それはヨネさんです」

「だとしても、お前のおかげだ」


 そうなんだろうか。


「ぐだぐだ考えるな! 時間がないから行くぞ! お前も神なら、自分のした功徳くらいしっかり認識をしろ!」

 そう行ったが最後、守り神とじいさんは姿を消した。


 俺はほっとして、座り込んだ。


「我ながらうめえなこれ」

 ヨネさんは、おはぎを美味しそうにつまみ食いをしていた。


お読みいただき、ありがとうございます!

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