第十五話 昔の話です7
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その日、ひらりさんの家族は土砂に埋まった。
ひらりさんだけではない。
近くに住むいくつかの世帯を飲み込んだ。
そして、生存者の1人として、ひらりさんは生き残った。
そのあとの人生は、想像することすらつらい。
神となった俺なら分かる。
神が、ひらりさんを取り込もうとしていたのだろう。
そのためにその神は、災害を起こすことをためらわなかった。
いや、その神にはためらうという概念すらもなかっただろう。
その神は、伏山の神だった方だ。
そう。
俺の前身だ。
俺は、あの神の役割を引き継ぐ形で神になった。
伏山の神は普通の山の神だった。
伏山は小さなそこらへんにあるような山で、普通に草木が生い茂り、普通に動物も住み着いていた。
やがて、伏山はなだらかで住みやすいので、集落がいくつかできた。
人が集まれば、人の感情も、人の魂のエネルギーもまた集まる。
それにより、神は豊かになるし、力を大きくする。
ただ、住みやすくはあっても、作物は得難かった。
なだらかとはいえ、平地よりは勾配がある。
水源も少ない。
土地肌は固い。
動物は減っていく。
村人は五穀豊穣を祈って、神社を建立した。
神社も依り代も、本来なら、山の神に必要がないものだ。
人間から神へ、コミュニケーションをとるために建てられたものだからだ。
しかし、神社が立てられると、そこに祈りや渇望、感情が集まる。
人の祈りは、それもまた多くのエネルギーを生み出す。
伏山の神は大きな力を持った。
神は、人間が思っているより不安定な存在だ。
俺たちのような山の神は、山と、山に住む生き物たちのエネルギーによって生きている。
山の大きさや、山がもつエネルギー、山に住む生命によって、神の力は変わる。
人間からすれば、そこに神の優劣があるのかもしれないが、神からすればただ役割が違うだけ。
ただ、その役割の変化によって、そこに住む人間が受ける恩恵は変わる。
伏山の神は人間たちに、それなりの富をもたらした。
もちろん、土地を耕したり、水源を確保したり、人間による様々な努力が実った結果だ。
しかしおそらく、だいぶ人間に寄った配慮があったのだろうと思う。
集落は村と呼ばれるくらいには、それなりに成長した。
神社もそれなりにちゃんとしたものになり、祭りも年に2度開催された。
しばらくは、村人の信心深さも続いた。
けれど、時代は変わる。
東京と交通が発達すると、人の思いも、人自身も、この山からいなくなっていった。
神社の維持には、人とお金がいる。
そのどちらもどんどんと少なくなっていき、やがて誰からも管理されない神社になった。
いわゆる廃社である。
それなら、最初の状態に戻ったように思える。
しかし伏山の神は戻れなかった。
人のエネルギーをたくさん受けていた時代を忘れられなかった。
山の神としての務めを果たしながらも、ずっと渇欲していた。
また自分を祀ってくれる存在を。
そんな中、不幸にも、何十年ぶりに訪れてしまったのが、ひらりさんだった。
「あいつって?」
ひらりさんに、そう尋ねた。
当時の人間だった俺は、そんな事情が分かるはずもない。
さっきまでいたはずの崖の上を下から眺めながら、改めて恐怖に震えた。
「私の家族と、自由を奪ったやつ」
ひらりさんも、あいつの存在がなんなのかは分かっていなかった。
ひらりさんの目が、焦点を合わず、空をさまよっていた。
くちびるも乾いていた。
哀しみを通り越しているのだと思った。
「ひらりさんの家族、亡くられたんですね」
そう尋ねた。
ひらりさんはうなずいた。
「自由って、死ぬ自由ってことですか?」
ひらりさんはうなずいた。
怒りがわいてきた。
「ひらりさん。俺はあなたを殺しません」
俺の言葉に、ひらりさんはうなづいた。
諦めたのだと思ったのだろう。
「“あいつ”を殺すことに決めました」
俺は、ひらりさんを救うことをまったく諦める気になれなかった。
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