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5 聖剣伝説 その5 君の名は

『どうしてデュラハンの頭を持って帰るんですか?』

「冒険者ギルドがお金にしてくれるだろうからさ。いくらになるかはわからないけど」


 レイはアンジェのミスリルの剣を折ってしまった。

 怒られるのではないかと内心ドキドキしている。

 デュラハンの首で埋めあわせができればいいなと持ってきたのだ。


『冒険者ギルドってなんですか?』


 聖剣少女はさっきから質問ばかりしてくる。

 なにもかも珍しいのか、レイと話したいのか。


「ああ、キミが人間だった頃は冒険者ギルドがなかったのか。冒険者は知ってる?」

『人間だった頃は冒険者でした』


 この世界では冒険者は珍しい職業ではない。

 魔物は危険生物でもあれば、資源でもあるのだ。

 素材の採取、旅や陸運の護衛、魔物の退治、未踏破地域の地図作成や情報収集。

 冒険者の仕事は多い。


「へ~君も冒険者だったんだ。冒険者ギルドは冒険者の組合だよ。適した仕事をそれぞれの冒険者に依頼するのも大変だろ。だからギルドが一括で仕事を受けて手配してくれるのさ」

『それはすごく便利そうですね~』


 雑談しながら霧の森を進む。

 聖剣少女の声はやはり弾んでいるように聞こえた。

 帰路も順調だ。

 来る時ははあんなに苦労したのに、帰りは魔物が一匹も出てこなかった。


「変だ。ワームもスライムも一匹も出てこないな」

『私が魔除けのスキルを持っていますから。弱い魔物は近寄れません』

「え? 剣がスキルを持ってるの?」

『ええ。私が人間だった時代のスキルは使えます。体も痛まなくなっていませんか?』


 満身創痍のはずだったが、いつの間にかレイは痛みを感じなくなっていた。


「どういうことだ……傷が治っている?」

『私の自動回復スキルを発動させました』

「そうだったのか。ありがとう」

『いいえ。わ、私こそありがとうございます。その……とても楽しいです……ずーとあの場所で一人でしたから』


 聖剣少女は元に戻せとは言うもののレイの思いやりには感謝してくれた。


「いや……余計なことしたかなとも思ってたんだけど。でもさ。君の自動回復スキルがどうして俺に効くんだ?」


 レイも自動回復スキルは知っている。

 自分のダメージが自動で回復する上級スキルだが、他人のダメージを回復させるスキルではない。


『オジサマは私のスキルを使えます。私が触れるほど近くにあれば』

「なんだって?」


 レイは自分のステータスを確認する。

 自動回復・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・恐慌耐性・全属性攻撃耐性など他にも無数のスキルが使えるようになっていた。

 竜殺し・魔神結界無効・年齢固定・限界解消などよくわからないスキルまである。


「これ、マジで?」


 レイが驚くのも無理はない。

 このようなスキルを得るには何十年もの研鑽か、それ以上に生まれながらの才能が必要になる。


『私を抜いたオジサマは……そ、その……私と一心同体なんです』

「い、一心同体?」

『はい。オジサマが亡くなられたら私も死んでしまいます。感情も微妙に流れ込んできますし……』

「な、なんだって」


 レイは聖剣少女が生まれたままの人の姿になったことを思い出す。

 エッチなこととか考えたらバレるのだろうか。


『ちょ、ちょっと!』

「す、すいません」

『もおおおおおおおっ! だから戻してくれって言ってたんですっ!』

「やっぱ戻したほうがいい?」

『いえ、今は街に向かいましょう。アンジェさんを助けなきゃ』


 古代図書館の文献によれば、アルラウネの毒は二晩苦しんで死ぬと書かれていた。


「剣、というか君を元の場所に戻しても時間的には間に合うと思うけど」

『アルラウネの毒は油断しないほうがいいです。それに私がいれば、道中安全ですし』

「ありがとう。優しいんだね」

『いいえ。オジサマも』


 森を歩きながら二人で笑いあう。


「ところで俺の名前はレイなんだけど、君の名前は?」


『レイさんですか。私はティファです』


「ティファか。可愛い名前だね」

『ちょ、ちょっと。やめてください。それセクハラですよ』

「ええっ?」


 レイとしては軽く思ったことを口にした程度なのだが、セクハラと言われてしまう。

 どうやらティファは恥ずかしがり屋のようだ。

 数千年も人と話していなければ当然かも知れない。


「ご、ごめん」


 聖剣少女ティファの口ぶりは怒っていたが、レイには恥ずかしいような嬉しいような気持ちが伝わってくる。

 これが一心同体ということだろうか。


『も、もう! 私は男の人と話すことなんて数千年ぶりなんですからねっ!』

「ははは」

『あははは。もう怒ってないってバレちゃったみたいですね』


 おかしくなって、また二人で笑い合う。


『アンジェさんが心配ですね。急ぎましょうか』

「ああ」


 二人は心配も共有してしまった。

 レイは少し走ることにした。


◆◆◆


 赤い夕日が空や大地を彩る頃には、レイは森を出て街に続く街道を走っていた。

 エステオの街の風物詩である粉挽き風車もゆっくりと回りながら赤く彩られている。


『街になにかいます! 魔物かも!』

「あ~あれは風車だよ。数千年前にはなかった?」

『あ、風車か。し、知ってますよ。風車ぐらい』

「ははは」


 聖剣少女ティファの、あれはなんだ、これはなんだ、がまた始まる。

 やっぱり子供みたいだと思うレイ。


『む、馬鹿にしませんでした?』

「してない、してない」

『私のほうが年上なんですからねっ!』


 そういえば確かにかなり年上だよね。少女になった姿は10代のように見えたけど、とレイは思う。


「ティファは聖剣に転生したのはいくつの時さ?」

『18です。レイさんはおいくつなんですか?』

「俺は38だよ」

『え? 30ぐらいだと思いました』

「男が若いってお世辞言われても嬉しくないよ」

『お世辞じゃないですよ! でも、どちらにしろ私よりもずっと子供ですね。うふふ』


 街に着いた。街は魔物から住人を守る壁に囲まれている。門から街に入った。

 夜になると封鎖さてしまい、入るには冒険者と証明するなどの面倒な手続きがある。

 急いでよかったなと思うレイ。


『わっわ~凄い人!』


 異種族や魔族との戦争を繰り返しながらも人間社会は数千年間少しづつ発展してる。

 往来には様々な屋台もあって串にさして焼いた山鳥が売られている店があった。

 これも山が近いエステオの街の名物だ。


『なんだろ~? いい匂い~』


 やっぱり子供のみたいだ。


「一本、買うか?」

『先にアンジェさんを助けましょう』


 足早に向かいながら反省するレイ。

 やはりティファは人のことを思いやれる優しい子だとあらためて思う。

 そろそろ日が落ちるレイの家が見えてきた。

 家の前には人が集まっていた。

 まさか……アンジェはもう……と思いレイは嫌な汗をかく。

 走りよるとギルドの面々だった。


「レイ!」「お前どこに言ってたんだ?」「アンジェちゃん苦しんでいる時に……」


 レイは口々に詰め寄られる。

 どうやらまだ死んではいなそうだ。


「アンジェはまだ生きてるんだな!?」


 逆に問い詰められた冒険者が気圧されつつも答える。


「あぁ。まだ生きて入ると思うけど。ずっとお前の名前を呼んでたぞ」


 レイはほっとしつつも急いで野次馬をかき分ける。

 野次馬の一人にデュラハンの頭を放り投げた。


「な、なんだこれ?」

「デュラハンの頭だ」

「デュ、デュラハン!? ダブルSランクの魔物じゃないか! ギャー目が光った!」


 レイは無視して家に走り込んだ。

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