表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/40

31 魔族のユアと魔貴族のサキュラ

 ダボスの街が夕の赤に染まる。

 ホテルの一室に二人で残されてから、ユアはずっと無言でレイの胸に抱きついていた。

 レイもユアの体温の心地良さをずっと感じていたかったが、静かに離れた。


「俺はもう娘達がいるし、お前は子供達がいるんだろ?」

「……そうね」


 レイにはティファやアンジュ達がいて、ユアには孤児院の子供達がいる。


「教会まで送るよ」

「うん!」


 ユアの嬉しそうに返事をした。

 二人がホテルを出て街を歩く。

 もう夜の帳はおりていた。


「ヴァンのやつは多分生きてるよ」


 レイは伝えるべきかと思ってユアに言った。


「そう。あんまり興味ない」

「おいおい」

「マウアーのことばっかりってレイを責めてしまったけど、私もレイのことばかり見てた」

「えぇっ? どうして? ヴァンはモテてたじゃないか」


 夜の街に二人で繰り出してモテるのは大抵ヴァンのほうだったことを思い出すレイ。

 顔が良かったのだ。


「ヴァンは昔から頭が固かったでしょ」

「うーん。そうかな?」


 レイはあまりヴァンの頭が固い思ったことはなかったが、否定するほど柔らかいと思ったこともなかった。

 ユアが続けた。


「レイとヴァンは盗賊まがいのことをしていたときがあったでしょ」

「あ、あったかな?」


 レイもかつては孤児だった。

 食うや食わずの生活から冒険者になり伸し上がってきた。

 冒険者としてアドバンスを組む前の少年期はあらくれ者と変わらなかった。


「違法奴隷の商隊を襲ったことあったでしょ?」


 犯罪者だから襲っても当局には通報されないという理由で襲ったことがある。

 もちろん違法奴隷の商隊側も冒険者登録もできないような荒くれ者を雇って、護衛としている。

 典型的なハイリスクハイリターンだ。


「レイは忘れているかもしれないけど、汚い魔族の少女が囚われている馬車の檻の鍵を壊したことがあったでしょ」


 レイは思い出す。あった。

 奴隷商はたまに人間ではなく他種族を好事家に売ることがある。

 亜人の女性やや無力化された魔物のメスが入っている檻の中に魔族の少女がいた。

 少女はボロボロの上着だけで下半身は何も穿いていない。そして魔力も封じる手枷がはめられていた。

 少年でプロの犯罪者ではないレイやヴァンには、それらを売るルートも能力もない。

 もっぱら溜め込んでいる金銭目当てだ。

 しかし、その日は苦労して護衛と奴隷商を退散させても、なんの収穫もなかった。

 ヴァンは「金がないぞ! 奴隷の仕入れに金を全部使っちまったのか?」と馬車を物色している。

 レイはその間に、物色で見つけた手枷の鍵を檻に投げ入れて、檻の戸の鍵を剣で叩き斬ったのだ。

 

「ひょっとして、あの時の?」


 ユアは頭から黒い角を生やした。


「うん。そう」

「本当だ」


 レイがあの時の魔族の少女の角を思い出した。


「逃げてから木陰に隠れて二人を見たわ。レイは売れば少しでも金になるのになんで逃したかってヴァンに責められてた」

「ガキの俺らにそんなルートないし、売れば完全に犯罪者だし、そのまま逃げるしかないんだけどな。リスクを負ったのに金にならなくてヴァンも気が立ってたんだろ」

「私は奴隷商がお金を宝石にして隠していたのを知っていたの。二人が去った後に隠し場所から回収したの」

「そうだったのか。俺達はあの日から不運続きで3日ぐらい食えなかったのに」

「半裸の女の子を無一文で逃しただけじゃ、どうにもなんないわよ! 魔族っていったってあの頃は魔法も全然大したこと無かったし!」

「す、すまん」

「その大雑把がレイらしいけど。それにそのまま放っておかれるよりはね」


 放っておかれたら、悪くて今までの生活が継続、悪くて餓死にか魔物に殺されるの二択だっただろう。

 どっちも悪い。


「アナタを追うために魔族の変化の術も覚えて、魔法の腕も磨いたわ」

「そうだったのか」


 ヴァン、マウアーと冒険者パーティーを組もうとした時に参加を望んだ少女がいた。

 確かマウアーが連れてきたはずだ。

 年齢もみんなまだ10代だった。


「もっともレイはマウアーっていう脳筋女にお熱になっていたけど~」

「ううう。バレてないと思っていたのに」


 ずっと話していたユアが少しだけ沈黙した後に言った。


「私じゃダメなの?」

「……」

「マウアーとくらべて魅力ない?」


 魅力はレイから見ても十分にある。

 魔族は人間を魅了するためか美しいものが多い。

 年も若いまま何十年と成長が止まる。

 

「マウアーはもう思い出だよ。ユアは十分、魅力的だよ」

「な、ならさ」


 レイはユアがなにか言おうとする前に聖剣の柄に手をかけて鳴らした。


「今はちょっくら魔貴族を倒す依頼を受けてる最中でさ」

「そうね。そのせいで巻き込まれて心の奥に秘めていたことを言わされちゃった」

「すまん」

「でも言えてよかったかも。マウアーには勝てないって思い込んでいたから」

「魔貴族を倒したら、ちゃんと考えるよ」

「うん」


 教会が見えてきた。

 ユアは角を隠し、年相応の人間に変化する。

 しばらく歩くと孤児院の子供がレイとユアに気がついた。


「ユアママだ!」


 すぐに他の子供達やシスターもやってきた。

 レイは笑った。

 あのイケイケの冒険者パーティーアドバンスのメンバーがこれほど多くの子供達に慕われるのが意外だったからだ。

 レイはユアに目で別れを告げてから、教会の裏手の墓地に向かった。

 マウアーの墓の前に立つ。

 ヴァンが生きていたことと、ユアが魔貴族の支配を受けてしまったことを報告する。

 そしてある願い事もした。

 ふと気配に気づく。


「いるんだろ?」

「なにを願っていたんだい」


 後ろからサキュラの声が近づいてくる。


「お前とずっと同盟を結んでいられるように願っておいた。そうすればユアと戦わなくて住む」

「それは僕もお願いしたいな」


 サキュラがレイの隣に並んだ。

 マウアーの墓の前でサキュラが手を組んで祈る。

 その姿は真剣そのものに、レイには見えた。

 

「ユアのことはありがとう」

「いや、いいんだよ」

「聞きたいんだが、俺とお前の同盟は永遠のものなのかな?」


 長い沈黙の後にサキュラが笑う。

 いつもの捉え所のない感じに戻った。


「永遠なんてないかもしれないけど、そうなると良いよね」


 二人で少し話す。ノエラと戦うというレイのために、サキュラは色々と教えてくれた。


「魔貴族は従騎士という魔族を使う場合がある」

「ヴァンも操られていたんだろう。暗い感情を持つ人間は操られやすい。もっとも魔族や魔物のように支配までは出来ない」

「ノエラはきっと罠を張ってくるだろう」


 レイは笑ってしまう。


「な、なにが可笑しいんだよ」

「お前が一生懸命教えてくれるのが可笑しくてな」

「も、もう! 助言してあげてるのに!」

「悪い悪い」

「まあ聖剣の英雄が、僕らの影ごときに負けるはずないんだけどね。レイは甘いところがあるから」


 レイが聖剣を抜く。


「ユアを利用しやがったノエラは問答無用で叩き切ってやるぜ」

「大丈夫かなあ。ノエラは女の魔貴族だよ」

「お、女とか男とか関係ないだろう」

「レイは女に甘いから」

「ってかお前は男か女かどっちなんだよ」


 サキュラは男装はしているが角度によっては女にしか見えない。


「人間の伯爵としては男として通してるけど、どっちだと思う? あ、違うな。どっちだったらイイ?」


 レイの胸にサキュラがピトッとくっつく。


「や、やめろ! 気持ち悪い。斬るぞ」


 レイが逃げる。

 このままでは変な気分になりそうだったからだ。


「も~嘘ばっか。レイは斬らないって僕は知ってるもんね」

「ベッドで調べてみなよ~」


 レイが逃げてもサキュラは浮かんで追いかけてきた。

面白かったらブクマと評価お願いします。

更新の励みになります。

13日更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ