20 冒険者の街 その3
その後もアンナの店には、昼間にレイが会ったかつての友人達が来て、大盛り上がりになっていた。
アンジェ達は気軽に魔貴族のことを話してしまいアンナが心配する。
「けど、そんな伝説に出てくるような魔物なんて大丈夫なの? 討伐ランクはダブルA? S?」
「私がいれば魔貴族なんて、よゆー、よゆー」
レイが少し離れて皆の様子を見ているとティファが話しかけてきた。
『孤児院のシスターの方は来ないんですね』
レイの昼間の友人訪問でユアというシスターの女性にあっていた。
レイは彼女に一言二言しか話さなかった。
レイが「一緒に墓参りをしないか」と言うと、ユアは「子供達が寝た夜なら」とこたえた。
ティファは世界の物珍しさからなんでも子供のようにレイに聞くのだが、彼女のことは聞かなかった。
なにやら事情があるのを感じで、レイが自分から話すまで待とうとした。
「ここにいる奴らはユアのことを知らないんだ。そろそろ行くか」
レイはテーブルの上にあったまだ開けていないテキーラ酒の瓶を持ってそっと酒場を出た。
星空の下、街を歩く。
「ユアはアンジェ達とワイルドローズを組むずっと前にパーティーを組んでたんだ」
『そうだったんですか』
「魔族なんて知らなかったよ」
『私も驚きました。まさか魔族が人間の孤児院で子供の世話をしているなんて』
聖剣は魔貴族のみならず、その子孫とされる魔族に対しても大きなダメージを与える性能を持っている。
さらに対峙したものが魔族だった場合わかる。ティファもわかったことだろう。
魔族は魔法で人間に変化している場合も多い。
魔貴族のサキュラも人間に変化して、表向きはアドレア伯爵として生活している。
そもそも人間に化けていなくても人型が多く、肌の色が変わって角が生える程度にしか変化しない魔族が多い。
「アドバンス、前進って意味のパーティーでさ、俺含めて三人が前衛の超攻撃型のガンガン攻めるパーティーだったんだ。後衛のユアに苦労させたよ」
『え? 今のレイさんのイメージと違いますね。今はアンジェさん達を抑える役をしているのに』
「実は一人死んじまってさあ。それでバランス重視に考え方が変わったんだよね」
『……ご、ごめんなさい。それでお墓参りなんですね』
「冒険者が死ぬのは当たり前さ。気にしてないよ」
教会の前には若い女性が立っていた。昼間、レイが会った女性は少なくとも30を過ぎていたにも関わらず、同一人物とわかる。
「レイ、驚いた……? 昔、レイ達とパーティーを組んでた頃の姿のほうがわかりやすいと思って……実は私……」
「ああ、魔族なんだろ?」
魔族の寿命は長く、20前後になると老齢になるまで成長は止まる。
人間に扮する場合のみ、辻褄合わせで加齢するに過ぎない。
「……理解が早いのね」
「でも年食ったままのお前でもすぐわかったぜ?」
ユアが呆れてため息をはく。
「は~嬉しいんだか、嬉しくないんだか、よくわからないこと言うわね」
「へ?」
「ともかくマウアーの墓に行きましょう。場所知らないんでしょ?」
レイは未だ旧友の墓に詣でることが出来ていなかった。
パーティーメンバーで唯一墓の場所を知っているのが、ユアでないかと思った。
「すまん……」
「いいのよ。ヴァンもまだ来たことないわ」
ヴァンはアドバンスの前衛の一人だ。やはり墓に来ていないらしい。
レイと同じで友人の死を受け入れることができなかったのだろうか。
教会の裏に小さな丘になっている場所があって、墓はその上にあった。
マウアーここに眠ると墓石に書いてある。
今は安らかに眠るこの女性とレイは実に十年ぶり以上の邂逅だった。
レイは震える手で酒を墓石にかける。
そのうち震えも収まって、酒瓶が空になるまで、テキーラ酒を墓石にかけた。
ユアが笑う。
「いいの全部かけちゃって」
「いいさ。アイツは大酒飲みだったからこれでも足りないかもしれない」
「そうだけどレイだってお酒好きでしょ?」
マウアーの死でアドバンスが解散してからは、ユアには酒浸りになったレイの記憶しかない。
「俺はしばらく酒断ちしてたしね。今日は飲んじゃったけど」
「立ち直ったんだ」
「結構、時間かかったけどな。娘が出来たことが大きいよ」
「娘ってアンタ結婚したの? マウアーが好きだったくせに!」
「な、なぜそれを!?」
「バレバレ……」
「そんなことより結婚なんて誰としたのっ!?」
「け、結婚なんてしてないよ。昔の俺達みたいに身寄りがいなくなって冒険者はじめちゃったガキを拾っちまったんだよ」
怒声をあげていたユアが呆れたように微笑む。
「相変わらず馬鹿ね~」
「お前も同じようなことをしてるじゃないか?」
「でも私は子供に冒険者なんかやらせてないわよ」
「ど、どうしても冒険者を諦めないのが三人いたんだよ。けど、どうして冒険者をやらせていると思った?」
マウアーが死んだ後、アドバンスの三人はそれぞれ冒険者を辞めると告げて別れた。
「レイは冒険者以外のことなんか教えられないでしょ?」
「まあな」
「……それにレイほどノリノリで冒険する人なんか見たことないもん」
「嘘つくなよ。ヴァンやマウアーほうがノリノリだっただろ?」
「いやーレイも相当ひどかったよ。ともかく後衛の私は付いていくのが大変だったんだから」
レイはユアにまた来ると告げて、また星空の夜道を歩いた。
ずっと、できなかったことができて、清々しい気分でアンナの酒場に戻る。
「レイ~どこ行ってたのっ!」
店に入るとすぐにアンジェに捕まる。
「ちょっと夜風に当たりに」
「寂しかったよ~」
抱きつかれると酒臭い。
アンジェに飲み過ぎだと言いたかったが、今日は飲み過ぎと言わなかった。
「わかったわかった。とにかく飲もうぜ」
ルシアもリンスは今日はそれほど飲まないが、アンジェは生前のマウアーに負けないほど飲んだ。
レイはアンジェがかなり酔っ払っていたように見えた。
◆◆◆
レイはホテルの朝日で起きる。
並んだベッドを見た。ルシアとリンスは、くるまって寝ているのか、シーツが膨らんでいた。
アンジェだけは深酒のせいかシーツを蹴飛ばして、お腹を出して爆睡している。
レイはふっと笑ってアンジェを見ずにそーとシーツのかけなおしてあげる。
「あれだけ飲めばな」
『そうですね~』
レイはホテルの部屋をそっと出る。
そして、そのまま外に出て歩きはじめた。
向かうのはアルカサのダンジョンだ。
『ひょっとして一人で行かれるんですか?』
「ああ」
『魔神結界を破れるのはレイさんだけとはいえ、敵は護衛を連れているかも』
「かもな」
『それならやはりアンジェさん達がいたほうが有利……いえ、なんでもありません』
ティファはレイの感情がわかる。
覚悟の気持ちがすぐに伝わった。
もともとレイは三人に魔貴族のことを関わらせるつもりは無かったのだ。
「さーて鬼退治に行きますか。え?」
ところが、勇んで歩きはじめると両脇からよってきた人物に腕をガシッと掴まれる。
「げっ!? ルシア! リンス! なんで?」
「レイの考える事なんてお見通しなの。一人で魔貴族を倒そうとしてるんでしょ」
「私達のベッドのシーツの膨らみの下は枕で、アンジェは撒き餌だよ」
レイは思い出す。
アンジェとルシアとリンスにはどんなに冒険者を諦めるように仕向けても、結局諦めず、レイから離れなかったのだ。
「アンジェが起きるまで朝ごはんを食べましょう」
「私、ハチミツかけたトーストが良いなあ。レイは酒場の投資に成功したんでしょ。奢りね」
レイは笑って頷くしかなかった。
明日も更新予定です。
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傲慢ヴァサーゴ 魔神の頭 ×英雄リクの手で死亡
憤怒ダガン 魔神の右腕
嫉妬サキュラ 魔神の胸 エリース・アドレア伯爵(イセリア王国のテーリア地方領主) ◯同盟
怠惰ノエラ 魔神の左腕 イセリア王国 エストレ地方 都市ダホス アルカサダンジョン
強欲ジオ 魔神の右足
暴食カーイ 魔神の左足
色欲ステラ 魔神の下半身
アルサカのダンジョンにいる魔貴族をジオからノエラに変更しました。




