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17 魔貴族サキュラ その3

第二章の最終話です。

「俺はお前を見逃す気はないぜ」

「なぜさ?」

「なぜかって? なぜなら村の同時多発的な襲撃事件、ダブルタイガーの襲撃を手引したのはお前だからだ」


 サキュラがニッコリと笑う。


「へえ。レイさんって頭もきれるんだね。聖剣の英雄の実力を試したかったんだよ」


 レイが無言で立ち上がり、剣を振りかぶる。


「待った! 待った! ダブルタイガーは知ってるはずだけど、村の襲撃事件でも1人も死んでないはずだよ? 魔物に村を襲っても殺すなと命令したんだ」


 ティファが言うには魔貴族は魔物に命令する力があるらしい。レイがまた剣を降ろした。


「侯爵、本当ですか?」


 侯爵があごひげに手を当てた。


「確かに人は死んではおらん……。怪我人は出ているが、騎士団にももちろん村人にも死人は出ていない」

「ほらほらほら。僕は復活してから1人も殺していない」


 レイがサキュラを睨んだ。


「怪我人は出てる……」

「ちょっとちょっと。僕は救った人間のほうが多い」

「嘘をつくな。お前が人を救っただと?」

「僕は嘘はつかない」

「どういうことだ?」

「領地のテーリア地方で聞いてみるといい。誰もが僕の統治を褒めるよ。前の冬にはついに凍死者も餓死者も1人も出さなかった」

「な、なんだって?」


 この世界の大きな領地で、冬に凍死者も餓死者もゼロというのはちょっと聞いたことがない。


「テーリア地方では働けなくなったものや貧しいものの生活を支援している。家がないものには寄宿舎を容易し、蓄えがないものには小麦を、薪が準備ができなかったものには安く売り、仕事を斡旋している」

「ここクレンカ地方でもそのような支援はあるけど……」

「テーリア地方は銅山の収入で豊かになったからね。クレンカ地方は毎年それなりの領民が死んでいるよ」


 クレンカ地方の領主である侯爵がつぶやいた。


「……ワ、ワシだって領民のために頑張ってるのに……他の地方よりは少ないもん」


 ルシアがファローする。


「ク、クレンカ地方は税金も安くて助かるわぁ。ね、ねえ、レイ?」

「あ、あぁ」

「お前ら冒険者だから税金払ってないじゃないか!」


 レイは冒険者ギルドの報酬の一部が税金に引かれていることは知っていた。

 まあ定住している農民と比べたら安いだろうから何も言わなかった。

 今はサキュラから話を聞くべきだ。


「そもそも、どうしてお前がアドレア伯爵家を継いでいるんだ? 先代を殺したんじゃないか?」

「彼は僕が魔族であることを知ってるよ。知った上で僕を養子として可愛がってくれたんだ。三年前、彼が病気で死んだ時に伯爵位を継いだんだ」


 レイが侯爵を見る。


「本当かも知れぬ。先代の伯爵殿とは知己だったが、よく養子のことを褒めておった。そしてその養子、目の前の新伯爵殿はイセリアの王城の大臣の間でも評判も上々じゃ。実は何度か会ったこともある」


 サキュラが頭を下げた。


「侯爵とは挨拶したこともありましたね」

「ああ。礼儀正しい若者だと思ったよ。まさか伝説の魔族とは」


 ティファがつぶやいた。


『魔貴族が人間を救うなど、信じられません。人を苦しめたり、殺すのが本能のはず……』


 レイがまた剣を上段に構えた。


「おい。ティファが言ってるぞ。魔貴族は人間を殺すのが本能だって」

「人間はいつでも本能のままに行動するのかい?」

「どういうことだ?」


 サキュラがレイの後ろにいるルシアに話しかける。


「ルシアさんはレイさんのことが、きっと好きだと思うんだけどさ」


 ルシアが真っ赤になって叫ぶ。


「な、ななななななに言ってるのよ! こいつは魔貴族よ! 信じちゃダメ!」

「ははは。ただの憶測だよ。でも凄く好きだとしても、夜寝ているレイさんに裸で迫ったりはしないだろう? 一人で慰めて本能を抑えるんじゃないか?」


 ルシアが燭台を持ってサキュラに飛びかかろうとするのを侯爵が羽交い締めで止める。


「殺す! そいつを殺す!」

「ちょ、ちょっとルシア殿! 防御結界から出たら危ない!」


 レイはまさかルシアが自分にと思う。


「嘘だろ?」

「さあ。今のは僕の憶測だから。ともかく我慢すれば本能を抑えられることを知って欲しくて」

「なぜ本能を抑えようとする?」


 レイがふと疑問に思ったことを聞いたが、サキュラは何も答えなかった。


「……」

「なぜ答えない?」

「答えられないものは答えない。嘘はつきたくないから」

「それを聞かなきゃ信用できないな」

「……なら一つだけ。魔神の体から別れし、魔族の王と6人の魔貴族はそれぞれを象徴する7つの罪がある。その罪は傲慢、憤怒、嫉妬、怠惰、暴食、色欲だ」

「それがどうした?」

「僕、魔神の胸であるサキュラが象徴する罪は嫉妬。僕は嫉妬の魔貴族だから本能を抑えるってレイさんとルシアさんの関係で例えたんだ」

「わかるような、わからないような。他の魔貴族は人を苦しめたり、殺す本能を抑えないのか?」

「抑えないだろうね。人を殺さないのは僕だけだと思うよ」


 レイは自分の目を真剣に見つめながら話すサキュラが嘘を言ってるようには思えなかった。


「同盟……結んでくれるかな? 代償も支払うつもりだ」

「代償?」


 サキュラが二組の指輪を取り出す。

 赤い宝石と青い宝石がはめ込まれている指輪だ。

 それをルシアと侯爵のほうに見せる。


「ルシアさん、侯爵。この指輪を知ってるかい?」


 ルシアは知っていた。


「拘束の指輪と解放の指輪!」

「そう。スキルを使えなくさせる拘束の指輪と解放の指輪だ。僕は魔神結界スキルが使えなくなる指輪をはめる。そしてスキルを解放する指輪はレイさんがはめればいい」


 レイは少なからず動揺した。


「お前の魔神結界が使えなくなるってことか?」

「うん。レイさんが納得して解放してくれるまでね」

「わかってるのか? 魔神結界がなかったらお前はガーランドに負けていたかもしれないぞ」

「アンジェさんやルシアさんにも負けてしまうかもしれないね」


 レイはティファに聞いた。


「すまん。ティファ。とりあえず、もう少しだけ人間になるのは待ってもらってもいいか?」

『はい。私はレイさんに持ち運んで貰うだけで嬉しいですから』


 レイは剣を鞘に収める。


「指輪はどうやって使えばいいんだ?」

「サキュラの魔神結界と言いながら僕に赤い指輪をはめてくれ」


 レイがルシアを見る。ルシアが頷いた。指輪の使い方は正しいということだろう。


「どの指でもいいのか?」

「構わないけど、婚約指輪と同じ左手の薬指がいいなあ」

「ふ~サキュラの魔神結界」


 レイはため息をついてからサキュラの薬指に指輪をはめた。

 すると指輪が薬指に溶け込んで消えた。


「レイさんも薬指に指輪をはめといて。サキュラの魔神結界といえば、僕はまた使えるようになる」


 レイも指輪を薬指にはめると、薬指に溶け込んで消えた。


「うふふ。これで婚約だね」


 レイがサキュラの頭を拳で叩く。


「いたいっいたいっ」

「ほ~本当に魔神結界は無くなったみたいだな。ルシアも殴っていいぞ」

「ご、ごめんなさーい」


 レイが手を差し出す。


「でも、とりあえず、お前を信じることにする。同盟、結んでやるよ」

「ありがとう」


 サキュラがレイの手を握り返す。


「すぐに魔神結界も解放してやってもいいんだけどな」

「え? 解放してくれるのかい?」

「ダメだ。少なくとも魔貴族の一人を倒した後だ」

「ケチー」

「なら他の魔貴族の場所を教えろよ」

「一人は知っている。場所は王国のエストレ地方の都市ダホスだ」


 レイとルシアが同時に驚いた。ルシアが聞く。


「まさか都市ダホスのアルカサのダンジョン?」

「うん。そこに魔神の左腕、怠惰のノエラがいるよ」 


 ルシアが驚いた理由。それはダボスがレイとルシア達が出会ったダンジョン都市であるからだ。

 レイも冒険者として青春の時を過ごしたダンジョンに、また潜ることになるとは思わなかった。

次回は第三章です。

のんびりした三姉妹の話やダンジョン都市に向かう旅の話を入れようと思っています。


第二章までの評価、感想、ありましたら更新の励みになりますので是非お願いします。



傲慢ヴァサーゴ 魔神の頭 ×英雄リクの手で死亡

憤怒ダガン 魔神の右腕

嫉妬サキュラ 魔神の胸 エリース・アドレア伯爵(イセリア王国のテーリア地方領主) ◯同盟 

怠惰ノエラ 魔神の左腕 イセリア王国 エストレ地方 都市ダホス アルカサダンジョン

強欲ジオ 魔神の右足

暴食カーイ 魔神の左足

色欲ステラ 魔神の下半身


アルサカのダンジョンにいる魔貴族をジオからノエラに変更しました。

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