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15 魔貴族サキュラ その1

 レイは剣を鞘にしまって誤魔化してみることにした。


「え~? そうですかね? 聖剣ですかね?」

「間違いない! ワシが古代図書館の文献で見た聖剣の記述と同じだもの」

「その本を参考にしたレプリカ作って見ちゃいました。とか?」


 ガーランドもさらに短くなった剣をしまう。


「嘘をつくな。そこらの剣で俺の剣を斬れるか。聖剣で間違いない」


 お前のせいじゃないかこの野郎と睨むレイ。


「あ、いや、すまん……本当にルシア殿には届かない斬撃だったのだ。貴公ならわかっているだろう」


 侯爵が興奮して、またテーブルをバンッと叩いた。


「おお! リク以来の真の英雄の再来だ!」

「ちょっ、ちょっと待ってください。真の英雄とか大げさな~」

「聖剣を抜いたものは伝説の英雄だ」

「そうかな~? 誰か別の人が聖剣を使っても同じなんじゃないの?」

「文献には聖剣は抜いたものにしか力を貸さないとあったぞ」

「……」


 事実だった。

 レイは一度、聖剣をアンジェに貸してみたのだ。

 特別な効果は発揮されないただの切れ味の良い剣だった。

 ティファがいうには魔神結界も破れないらしい。


「しかし、魔族の王が復活した気配もない。なぜ聖剣は抜けたのじゃろうか? まさか新しい魔族の王が?」


 どうやら侯爵は魔族の王ヴァサーゴを倒すためだけの武器と思っているらしい。

 それも間違ってはいないが、魔貴族は数千年前のことなので文献にはほとんど残っていない。

 リクと魔族王の戦いは二千年前でティファの戦いはそれより遥か以前なのだ。


『レイさん』

「ん?」

『この人は権力者なんですよね』

「ああ、大きな領地を持っている」


 イセリア王国は封建制で領地を持つ貴族となれば、王のようなものだった。


『なら正直に打ち明けてはいかがでしょうか? 悪い人には見えませんし、魔貴族の打倒に大きな力になります』


 ティファの悪い人には見えませんは全く信用ならない。

 彼女に悪く見える人など世界中を探しても存在するのだろうか。

 だが、侯爵が協力してくれれば、魔貴族の打倒が有利になることは間違いないだろう。


「わかったよ。話してみる」

『はい!』


 一同はレイが独り言を言い出したのを不安そうに見ていた。

 ルシアが泣きそうな顔で言った。


「レイ……私が馬車から突き落としちゃった時に頭でも打たなかった?」

「あ、いや。皆さん、私は正常です。今から重大なことを話すのでお人払いをお願いしてもよろしいでしょうか?」


 侯爵が目配せした。

 食事の給仕をしていたメイドや衛士が去っていく。

 侯爵の最低限の護衛としてガーランドは残ったが、レイも戦力にはなるし、まあ良いかなと判断した。


「実は聖剣です……すいません」


 侯爵が笑顔で言った。


「うむ。やはり、そうか。レイドのは真の英雄だぞ。なにを謝ることがあろう」

「謝らないといけないことはあるんです。侯爵に勝手ながら頼みたいことも……」


 レイの深刻な様子に侯爵も話を聞く体勢を作った。


「ふむ……聞こうか?」

「実はこの聖剣ティファって子が転生した姿なんです」


 侯爵とルシアが声をあげる。


「「えええ?」」


 ガーランドも声こそ上げなかったが、驚いていた。

 レイが聖剣を侯爵に差し出す。


「ちょっと持ってくれませんか?」

「ああ」


 侯爵が聖剣を受け取る。


「うわ。小さな声がした」

「私、以外でも直接触れれば、彼女の声を少し聞けます」

「なるほど……古文書にある命ある剣とはこのことか」


 レイは「私も持ちたい」というルシアに「後で」と制してはじめから話すことにした。


「実は私、娘達にいじめられているんですが……」

「ちょっと待って。いじめてる娘達って誰よ?」

「お前」

 

 ルシアがレイのタキシードの襟をしめる。


「いじめてないじゃない! しかも、また女を拾ってきて!」

「く、苦しい。今、首をしめてるじゃないか」

「侯爵の前で言わなくたっていいでしょ~」


 侯爵が止める。


「えーい。話が進まん。ルシア殿、まずは話を聞こう」

「す、すいません」

 

 レイが三人の少女を半ば養女として育てたところから話す。そしてそのうち一人が毒に侵されてしまい霧の森の聖なる泉の聖水を取りに行ったくだりまで話すと侯爵が号泣する。


「ううぅ……レイ殿こそ、まさしく英雄じゃ……」


 レイは侯爵が激情家なのだと思った。

 もちろん正しいのだが、侯爵は家出した自分の娘のことをレイに拾われて毒に侵された少女と重ねたのだ。


「つ、続けていいですかね?」


 ガーランドが言った。


「まあ、侯爵はたまにあることだ。早く続きを」

「あ、あぁ」


 デュラハンとの死闘でミスリルの剣が折れたことや聖剣を抜いて倒したこと、そしてティファが言うには聖剣を抜くと魔貴族が復活することを話した。

 そして最後に聖剣を再び封印すれば、人類にとっては平和を延長することができるのに、レイがティファを見捨てることができなかったことを。


「ご、ごめんなさい」


 だが、この場にはレイを責めるものは一人もいなかった。

 侯爵が大きく頷く。


「騎士団員達が言うようにレイ殿こそ当世一の英雄だ。ティファ殿を見捨てる者が英雄になれようか?」


 ルシアも笑っていう。


「レイには呆れるわね。現実的に考えてとか言ってるくせに女の子はすぐ助けちゃうんだから」

「だけど魔貴族が復活しちゃったんだぞ?」


 いつの間に剣を新しくしたのかガーランドが居合で斬る真似をして剣を鞘に戻す。


「どうせ魔貴族はいずれ復活してしまうのだろう? なら俺がいる時代に復活してよかったな」


 侯爵がガーランドに怒る。


「ガーランドよ! まずはレイ殿とルシア殿に謝罪しろ!」

「うっ。申し訳ない。レイ殿、ルシア殿」

「ワシからも謝罪する。処罰を与えたいところだが、武人ゆえ戦場を死に場所とさせてくれんか?」


 庶民が大貴族に頭を下げられれば許さざるをえない。

 それに20年も昔は自分もガーランドとさして変わらなかっただろうとレイは思う。


「いやまあ、二度とルシアにあんなことをしなければ。それに死なれるのも困ります」

「ありがとう。レイ殿はやはり英雄だな。ガーランドはともかくレイ殿がいるこの時代に魔貴族とやらと戦えという神の導きだろう。もちろんワシも全力で支援するぞ」

「侯爵! 助かります」

「当然だ。とりあえず我々の知っている伝承とティファ殿の話を突き合わせてみようではないか? なにか魔貴族を打倒するヒントが見つかるかも」


 侯爵が叫んだ。


「誰かおるか!」


 すぐにメイドと衛士が走ってくる。


「はい」

「すぐにこの城にあるだけの歴史や伝承に関わる本や文献、古文書を持ってくるのだ。そうだ。それと地図もいるな」


 侯爵は魔貴族打倒の味方になってくれたようだ。


 ◆◆◆


「なるほど。大分、状況が整理されてきたな」

「そうですね。今から7千年ほど前に魔族の王ヴァサーゴと魔貴族をティファさんと仲間が封印した。そして封印継続のための触媒として聖剣になった。さらに2千年ほど前に魔族の王だけが復活して英雄リクがそれを倒した」

「ティファ殿の話と我々の伝説には符号する点も多い。おそらく間違いなかろう」


 侯爵とルシアが話している。二人は伝説や伝承に詳しい。


「さらに魔貴族の名前と人数もわかった。ルシア殿」

「はい。魔貴族は魔神の体からわかれました。魔神の頭である魔族の王ヴァサーゴは既に死亡していますので、残るは魔神の右腕のダガン、魔神の胸のサキュラ、魔神の左腕のノエラ、魔神の右足のジオ、魔神の左足のカーイ、魔神の下半身のステラの6人ですね」


 ガーランドが疑問を口にした。


「リクは魔族の王ヴァサーゴを封印したのではなく倒したんだよな。魔神結界とやらがあるのに聖剣を使わずに一体どうやって?」

「ティファ、わかるか?」


 レイがティファに聞く。


『わかりません……ただ……』


 ティファが言うには魔神結界は自分で一時的に解くことができるのではないかということだった。


『しかし、解く意味がわかりません』

「魔力の消費が大きいとか?」

『特性のようなもので、魔力を消費してるとは思えません』


 レイはティファに聞いたことをガーランドに伝えた。


「なるほど。しかし、リクが魔族の王を倒しているならなにか方法はあるんだろう。それなら俺が斬ってやる」


 今度は侯爵がレイに聞く。


「ふむ。後は魔貴族がどこにいるかだ。ティファ殿はある程度は魔貴族の魔力を感じられるのだな?」

「はい。昔はもっとはっきり感じたと言っていますが、今は魔貴族の力が弱くて薄ぼんやりとしか感じられないと」

「位置はわかるのか? 方向は?」

「どうやら封印が解けてから、ずっとかなり近くにいるらしくて、それが邪魔して他の気配がわかりにくいそうです」

「どこにいるかがわかればの~」


 侯爵が地図を広げる。レイも知っている世界地図だ。

 ところがティファがおかしなことを言い出した。


『え? 私が知っている地図と違う……いえ、私の知っている大陸がない』

「なんだって?」


 レイが声を出すと一同の注目が集まる。

 レイがティファの話を説明をしようとしたところ衛兵が駆け込んできた。


「侯爵!」

「なんだ。今、忙しいのだ」

「それが、アドレア伯爵が面会を求めていて。この城に来ております」

「なんじゃと?」

「しかも50騎ほどの騎兵を引き連れています」


 アドレア伯爵家もイセリア王国のテーリア地方を領地に持つ大貴族だ。

 最近、爵位をエリースという若い当主に世襲した。

 

「約束もなく……無作法な。だが、テーリア領主が相手では会わざるを得まい。レイ殿、少し待っていてくれ」


 侯爵がそう言うと衛兵が言った。


「いえ、そのアドレア伯爵はレイ殿にお会いしたいと」

「なにっ!? レイ殿、アドレア伯をご存知なのか?」


 レイも驚く。


「い、いえ。知りません。会ったこともないです」


 その時、城から悲鳴が聞こえてくる。


「ぐわああああああああああ!」

「ぎゃああああああああ!」


 ガーランドは腰の剣を手をかけた。

 騎士団長のグレンが駆け込んで来た。怪我をしている。


「は、伯爵が乱心です。城内に無理やりっ」

「なんじゃと!?」

「信じられない強さでここも保ちませぬ。急ぎお逃げを」

「い、意味がわからぬ」


 伯爵が動揺していると羽根帽子を被った身なりのいい少女か少年かわからない人物が入ってきた。


『魔貴族です!』

「だろうな」


 レイも侵入者に凄まじい圧力を感じている。

 傷ついたグレンが剣を抜いてその人物に向かっていこうとした。


「侯爵、皆さん、お逃げを! 狼藉者、覚悟!」


 レイがグレンの肩掴んで止める。


「グレンさん。現実的に考えて無理だ。下がっててくれ」

「レイ殿……」


 侵入者が怪しく笑う。


「レイさんだね。よろしく。アドレア伯と名乗るよりも魔貴族サキュラと名乗ったほうがいいかな?」


 既にルシアとガーランドは戦闘態勢に入っていた。レイも聖剣を静かに抜いた。

傲慢ヴァサーゴ 魔神の頭 ×英雄リクの手で死亡

憤怒ダガン 魔神の右腕

嫉妬サキュラ 魔神の胸 エリース・アドレア伯爵(イセリア王国のテーリア地方領主) ◯同盟 

怠惰ノエラ 魔神の左腕 イセリア王国 エストレ地方 都市ダホス アルカサダンジョン

強欲ジオ 魔神の右足

暴食カーイ 魔神の左足

色欲ステラ 魔神の下半身


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