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 高校生になってひと月が経ち、やっと新入生というそわそわした雰囲気も落ち着いてきた。俺は中学と同じサッカー部に入り、クラスでも楽しく過ごしていた。今年も牧田さんとは同じクラスになれなかったけど。

 俺一組、牧田さん八組。ちなみにクラスは八クラスある。つまり、端と端。教室は同じ階だけど、使う階段も逆だし、もちろん体育が合同だったりもしない。入学式の日、牧田さんとクラスが離れたことを知った時の俺の絶望感といったらなかった。今度こそ、今度こそ同じクラスになって、隣の席になったりお弁当交換したり勉強教え合ったり水着姿見たり一緒に登下校したりというあははうふふな展開を期待していたのに!

 

 ついでに付け加えておくと、あの後輩とは二週間程しか続かなかった。さらに言っておけば、今まで付き合った彼女たちとは全員キス止まりだ。キスまではどうにかできるが、それ以上はダメだった。主に俺の本能が。というかその先に進む程長く付き合わなかったというのが正解か?

 

 とまあ長くなったが、こんな感じで俺は偶然牧田さんを見かけるハッピータイムを心待ちにしながら高校生活を送っているわけである。



 しかしそんな些細な楽しみを心の支えにしていた俺に、橘から信じられないメールが届く。


「牧田さんパーマかけたみたい。くるんくるんがくるくるになってて、けっこう可愛い。」


 ああそうだ、橘も同じ高校なんだ。そして牧田さんと同じクラス!なんと羨ましい…。初日にがっかりする俺があまりにも不憫だったのか、親切な橘は時々クラスでの牧田さんの様子を教えてくれる。それにより、卒業式の日に迎えに来たのがいとこだというのも知った。本当に安心した。橘とは同じサッカー部なので、いつもは部活帰りに話すくらいなんだが、それがこうやってメールを送ってきたということは、牧田さんがかなり変わったということなんだろう。まずい、これはまずすぎる。

 今まで牧田さんの第一印象といえば、その大仏のようなくるんくるんの髪だった。それが普通のふわふわくるくるの髪になったら…。優しくて一生懸命で健気な牧田さんだぞ?絶対やばい。絶対可愛い。絶対男に目をつけられる。絶対にだ。賭けてもいい。

 心配になった俺は、こそこそと八組に近付き、「橘のところに用事があって来ました」みたいな顔して教室に入り込んだのだが…


 そこには天使がいた。


 ふわふわの黒髪、少しつりあがった目、恥ずかしそうに染まる頬、すべすべの膝…は今は関係ないか。とにかく前よりもさらに可愛くなった牧田さんがそこにいた。

 こりゃだめだ。ぶっとい杭を心臓に打ち込まれたような衝撃だ。俺でさえこうなのだから、他の男どもだって平常心ではいられないはずだ、いやそうに決まっている。

 どうして俺は一組なんだ!同じ八組だったら他の男どもに牽制しつつ、思う存分牧田さんを堪能できたのに!あああああもう!!

 後ろ髪引かれる思いで自分の教室に戻り、牧田さんの可愛さを思い返してはにやりとし、悪い虫がつくんじゃないかと心配するという終わらないループにはまり込んでしまった。



 しかしこれは序章に過ぎなかったのだ。俺が危惧したとおり、可愛い俺の(予定)牧田さんに目を付けたやつがいたらしい。

 あれから二週間後、またしても休み時間に橘からメールが。


「牧田さんがクラスの男に呼び出された。多分告られるっぽい。」


 な ん だ と


 そりゃもう急いで橘の携帯番号を呼び出し、事の次第を聞き出した。それにより、牧田さんはグラウンド横のいちょうの木の下に呼び出されたことがわかった。その場所は告白の定番スポットだと部活の先輩が言っていたので多分間違いない。

 どうしよう。牧田さんがOKしてしまったら。彼氏なんかできたらもうお終いだ。俺は死ぬ。


 今までで一番速く走ったんじゃないかと思うくらいのスピードで現場へ駆けつけ、牧田さんと虫の姿を確認した。そして二人から見えないけれど会話は聞こえるくらいの場所へ素早く移動する。どうやら話し始めたばかりのようだ。


「――――――それで、その、牧田さんのことが好きなんだけど。付き合って欲しい。」


 おいそこのお前、俺の目の前で牧田さんに告るなんていい度胸じゃねえか。ここで男を素早く観察する。顔○、真面目さ○、身長◎、めがね○―○、清潔感◎。なんてことだ、見た目チャラい俺とは違って好感をもたれそうなやつだった。…牧田さんのタイプってどんなんだ?まさかこいつみたいなやつじゃないだろうな?

 戦々恐々としていた俺の耳に、牧田さんの言葉が入って来る。


「…気持ちは嬉しいけど、ごめんなさい。」


 聞いたか?牧田さんの断りの言葉を!けっ、ざまーみろ!

 なんて散々心の中で虫をこきおろしていた時だった。


「好きな人がいるから付き合えません。」


 

 


 今幻聴が聞こえたような。「好きな人がいる」とか言っていた?


 好きな人?すきなひと?SUKINAHITO?


 それってあれかな、好き好き大好き愛してるとか言っちゃう相手がいるってこと?



 


 NNNNOOOOOOOOOOOO!!!!!!



 

 

 俺は灰になった。ああ、このまま風に吹かれて無くなってしまいたい…。今までは俺の勘違いで済んでいたが、今回は本人の口から「好きな人がいる」発言が出たのだ。あああ。


 まさかまさか牧田さんが片思いしているなんて!!その相手の男を殴り倒したい!牧田さんに片思いされるとか…羨ましすぎる!


 しかし牧田さんに好きなやつがいると知ってびびってしまった俺は、またも戦う前からしっぽを巻いて逃げることしかできなかった。石になったように固まった俺は、二人が立ち去った後もそこを動けず、偶然通りかかったという二年の先輩からの告白を上の空で聞き流し、しかしなぜかその先輩と付き合うことになってしまったのだった。




 ドキドキした。だって初めての告白だったから(岡野君のは一方的に知っただけだもん)。

 岡野君が私を好きだと言っているのを知らなければ、もしかしたら今日告白してくれた小林君を好きになっていたのかもしれない。小林君は穏やかで優しくて、私もあまり緊張しないで話せる貴重な友達。


 でも私が好きなのは岡野君だから。


 もう岡野君は私のことなんて忘れちゃったと思うけど、でも私が好きでいるのはいいよね?

 岡野君の彼女たちみたいに可愛くなりたくて、思い切ってパーマかけてみたけど、岡野君はどう思ったかな?何回か橘君のところに来てたから、たぶん視界には入っていたと思うけど。


 岡野君に「可愛い」って言われたら、きっとすごく嬉しいだろうなあ。



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