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岡野君と橘君の会話
◆別れました(大学二年冬)
「……………別れた?」
「……………別れました。振られました。」
「……泣くなよ。」
これが泣かずにいられようか。生活費を切り詰めて、どうにか交通費を捻出して東京へ通った日々。それもこれも紘乃に少しでも会いたいという健気な男心だったはずなのに…。
「へえ。他に好きな男ができたとか?」
「違う!!紘乃が好きなのは今でも俺なの!」
「…じゃあなんで別れたんだよ。」
「……………。」
はああああ。今思い返しても泣ける。紘乃の口から「別れてください」なんて言葉が出てくるなんて。
あんな悲しそうな顔、させたくなかった…。
「だから別れた理由が何なのか聞いてんだよ。自分の世界に浸るな。」
「………橘。傷心の親友にかける言葉はもっと選べ。今の俺は些細な言葉の刺で満身創痍になれる自信があるぞ。」
「なんだその自信。最初の方は真面目に聞こうと思ったけど、お前前振り長すぎ。……で?結局理由は?」
「………俺に無理させたくないんだって。」
そう、別れるというそんな時でさえ、彼女は俺の心配ばかりしていた。確かに、できるだけ紘乃に会いに行こうとバイトはぎっちり詰め込んでいたし、学校の課題も手を抜くこともしなかったから体力的にきついものはあった。でも紘乃がこっちに来てくれることだってあったし、何より大好きな彼女に会うためなんだ。多少の無理は仕方ないと思っていた。
だけどそう思っていたのは俺だけだったみたいだ。
「淳哉君は自分では気付いてないかもしれないけど、顔色悪いし体も細くなった。会いに来てくれるのはすごく嬉しいけど…無理のしすぎはダメだよ。」なんて言われてしまった。あの時の紘乃の泣きそうな顔…。胸が痛い。だけど、紘乃と別れてから初めての何も予定のない休日、ずっと布団から出られなかった。その時やっと実感した。俺の体がものすごく疲れてたんだって。これじゃ紘乃が心配するのも無理ないよな。
「『お互いが重荷になるなら、もう別れよう。」って言われちったよ…。」
「…………そっか。別れたくせに惚気られてる気分になるのはどうしてだろうな。お前の顔がにやけてるからか。」
「うーーーん、さっき紘乃に会ってきたからかなあ??」
「……………おい、ちょっと待て。お前ら別れたんだよな?」
「ちょっと違うかな。別れたは別れたけど、ちゃんとお互いが好きだってことは確認してんだ。ただ、彼氏彼女っていう関係になっちゃうと俺がまた無理しそうだからさ、友達以上恋人未満みたいな?」
「……殴っていいか?いいよな?あんだけ暗い雰囲気背負ってるから慰めてやろうかと思ったけど、必要ないよな。あの涙も無駄だったってことだよな。しかも今牧田のこと考えてるだろ。そのデレデレした顔をしまえ!!」
「いやーだってさー、会うの二カ月ぶりだったから衝動が抑えられなくてさー。ついつい手がでちゃうんだよね、いやもう別れたって言っても実質恋人だし?『今は付き合ってないんだからダメ』とか涙目で言われてみ?止まんねえだろ。就職は絶対こっちでするから、そしたらまた彼女になってもらうんだー。」
「………お前、いっぺん岩にでも頭ぶつけてこいよ。」
(迎えに行くから待ってて。…でもやっぱり我慢できないからしょっちゅう会いに行こうかな)
◆復縁しました(社会人一年目)
「……………復縁した?」
「しました☆あっ、ちなみにあと二、三年したら岡野紘乃になるから。」
「はあっ?!プロポーズまでしたのか?!」
「いやそれはまだだけど。でも紘乃以上に大事にできる人なんていないし、ずっと一緒にいたいと思えるのも紘乃だけだから。」
「(またこいつは懲りずに俺に惚気るのか)はいはいおめでとー。」
「もっと気持ち込めろよ!」
無事大学を卒業して、宣言通り地元に戻ってきた俺。そしてやっと紘乃とよりを戻すことができた!いや別れてる間も、頻繁に帰省して会ってたんだけどさ。やっぱ『友達』と『彼女』じゃ全然違うしね。
まだ勤め始めたばっかりで、俺も紘乃もばたばたしてて思ってたより会う時間がないけど、それでも近くにいるっていうのが安心できる。会う時間がないって言っても、家の近くでちょっと会うくらいならけっこうしてるし。でもおおっぴらにいちゃいちゃできないのは悩みだな。お互い今は実家暮らしだし。やっぱ独り暮らししようかな…いやいっそのこと同棲しちゃう?!それいいかも!
「おい!また頭がどっか行ってんぞ!話聞いてんのか?!」
「……なあ橘。同棲ってさ、どう思う?紘乃も同意してくれるかな。ああでもやっぱりご両親にちゃんと挨拶してからの方がいいか…。」
「…うん、なんかもういいや。ただ、言わせてもらうと、社会人一年目で同棲始めるのはやめた方がいい。うちの兄貴はそれで彼女とダメになったからな。」
「マジか。なんでだ?」
「自分のことでいっぱいいっぱいになるからだって。ただでさえ慣れない環境で頑張らなきゃいけないから、お互いに気遣えなくなって、喧嘩ばっかりだったらしい。」
「………そうか。じゃああと一年は我慢するか。でも俺と紘乃だったら大丈夫な気も……はあああああ。」
「(こいつほんとに分かってんのかな。)」
(いつか君と同じ家に帰りたい)
これで完結です!
皆様、お付き合いくださりありがとうございました(●^o^●)




