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少し読みにくい部分があるかと思いますが、ご了承ください。
◆君だけ(高二春)
「岡野先輩!!」
サッカー部の練習も終わり、着替えて靴を履き替えていると、突然俺を呼ぶ声。えー誰だよ。紘乃が待ってるんだよ。下校デート邪魔すんなよ。
内心面倒くさいと思いつつ振り返る。いや、もしかしたら委員会の連絡とかかもしれないし?まあできるだけ早く終わらせてもらうけど。
そこにいたのは女の子だった。さっき俺のこと先輩って言ってたし、ってことは新入生か。
なんとなーく見覚えがあるようなないような…。ああもしかして。
元カノだ。
確か中学の卒業式から一、二週間だけ付き合ってたんだよな。(そもそもそんな短期間でも付き合ってたって言えるのか?)
しかもうちの制服を着てるってことは、またしても後輩ってことか。一週間前に入学式があったばかりだというのに、既に髪は明るい色に染められ、スカートは下着が見えるんじゃないかってくらい短い。そんなんじゃ先輩から早速目つけられるぞ。
元カノから声を掛けられたってだけでも嫌な予感がしていたが、彼女のキラキラとしか形容できない眼差しを見て確信した。絶対楽しい展開ではないと。
案の定、両手を胸の前で組んでちらちらと俺の顔を見上げながら、今の俺にとっては何の得にもならないようなことを言い始めた。
「先輩と会うの、久しぶりですね。同じ地区だからどこかで会えたりするかなって思ってたんですけど…。あの、私もこの高校に入ったんです。ちょっとレベル上げたんで受験勉強頑張りました。先輩に会いたくって…。」
ほらやっぱりー!悪いけど、本当に悪いけど、今の俺には紘乃以外の女の子に割く時間はないんだよ。
「あーそうなんだ。無事受かって良かったね。悪いけど、俺待ち合わせしてるからここで…。」
「ずっと忘れられなかったんです!!あの時は先輩と離れちゃうのが寂しくて、すぐダメになっちゃいましたけど、でもまた同じ学校だから今度こそ大丈夫だと思うんです!私ともう一回付き合って下さい!」
………人の話聞けって。
「ごめんね、俺彼女いるから。すっごく可愛くて優しくて、俺にはもったいないくらいの良い子だから、君とは付き合えません。」
…え、何その顔。「まさか振られるとは思いませんでした」とでも言いたげな…。
「で、でも…私、先輩とやり直したくてこの学校選んだんです。ていうか付き合ってるのって牧田先輩ですよね?だったら私の方が可愛いし、絶対先輩のこと好きな自信あります!…私じゃダメですか?」
わずかに首を傾げて聞く後輩。絶対自分が可愛く見える角度とか研究してんだろ…。
「ダメだね。俺、あの子じゃないと無理だから。つーかさ、あの時だって別に俺のこと好きじゃなかったでしょ?ただちょっとかっこいい先輩と付き合ってみたかっただけだよね。だって俺と別れてすぐ別のやつと付き合ったらしいじゃん。一応俺と付き合ってるときに告られたんだっけ?そうやってキープしておいてすぐ他に移れるんだから、所詮その程度でしょ。」
もう何も言えないのか黙ってしまった後輩に背を向けて昇降口を出る。あーあ、紘乃待たせちゃったな。
しかしあの頃のことはやっぱ反省しないと。いくら紘乃に気持ち伝えられないからって良くなかったよなー。まあ今は(というか今も昔も)紘乃一筋ですけど。
正門の横の花壇の前にいる紘乃を見つけて走り出す。あー今日のおみやげ何だろ。
今年は念願叶って同じクラスだし、一年楽しみで仕方ない!
(入り込む隙間なんてありません)
◆惚気話はほどほどに(高二夏)
「なーなー、淳哉って彼女と付き合ってどんくらい?」
そんな唐突な質問が投げかけられたのは、夏休みの炎天下の中、やっと練習が終わって着替えている最中だった。何なんだよ、突然…と思いつつ振り返った俺の目に入ったのは、どいつもこいつも「興味津々です」という気持ちを前面に押し出したチームメイトたちの顔だった(ちなみに先輩後輩も含む)。
どうすりゃいいんだ、正直に全部話していいのか。でもあんまりべらべらしゃべっちゃうと、紘乃に嫌がられないか?滅茶苦茶自慢したいのは山々だけど…。まあこれくらいならいいか。
「去年の十月からだから十カ月くらい?つーか、何でそんなこと聞くわけ?」
「いやー、この前お前が彼女と一緒に帰ってんの見てさ。可愛いよね、彼女。癒し系?」
「…必要以上に見るなよ。」
「いいじゃん、ラブラブなんだろ?それで?彼女のどんなところが好きなんですかー?」
「先輩までやめて下さいよ。そんなの言えるわけないじゃないですか。恥ずいっすよ。」
「言っちゃいなよー!好きなんだろー?」
「………じゃあ言うけど!その代わり最後まで聞けよ!」
すうっと息を吸って、話し出す。
「まず紘乃の可愛いところは、あの笑顔なんだよ。紘乃がにこって笑うだけで癒される。マジ天使。いや女神かもしれん。あとはあのふわふわの髪もいい。俺が撫でてるとな、気持ち良さそうにするんだよ。なんか猫みたいだろ?無茶苦茶可愛いだろ?それに、料理だって上手いんだよ。俺の体調気遣っていろいろ考えてくれるしさー。な、なんか…新婚みたいな?あー紘乃がぴらぴらのエプロンで玄関までお出迎えとかいいかも。今度やってもらおっと。…あれ、どこまで話したっけ。まあいいや。あとは会話が楽しいところかな。すっごいくだらないことでも「うんうん」って聞いてくれるし、逆に紘乃の話なら何時間でも聞いてられるんだよね。むしろ会話がなくてもくっついてるだけで幸せかも。そういう子なんだよ、紘乃は。それに何と言ってもあの膝だよ!ちっちゃくてすべすべでマジ理想のひざこぞう。最近やっと少しだけ触らせてくれるようになったんだけど…あの恥ずかしそうな顔、たまんないよな。ちょっと目が潤んで顔赤くしてさ「もうおしまい…」とかもうなんなの?!ここまで耐えてる自分が信じらんないよ!でももうすぐ一年だし、そろそろいいよな?!十分大事にしてるって伝わってると思っていいよな?!……っいや違う!えーと何の話だっけ。そうそう紘乃の好きなとこな。あとはな、何にでも一生懸命頑張るとこだな。健気で優しくて可愛くてなんて、ほんと俺にはできすぎなくらいいい彼女だよ…。」
「…………そうかよくわかった。もういいよありがとな。」
「あー話してたらなんか会いたくなったから、俺もう帰る!じゃあお疲れさまでーす!」
「おい橘、あれ知ってただろ。」
「すいません、まさかあそこまで熱く語るとは思ってなかったんで。ほんと申し訳ない。」
「……もう岡野に彼女の話振るの禁止な。」
「「「……うぃーす。」」」
(彼女の好きなところ?一晩中でも語れますけど?)




