それから1
ここからは本編完結後の二人です。
◆初登校(高一秋)
「「…おはよう。」」
なんだこれ。雰囲気がくすぐったすぎてむずむずする…!
めでたく両想いとなった俺たちの記念すべき初登校という今日。牧田さん改め紘乃の家のマンションの下、待ち合わせをしたわけなんだが…目が合わせられない。
だって!もとから可愛い可愛いと思っていた相手が、自分の彼女になったんだぞ!ますます眩しいし、ドキドキが治まらないし、どっかふわふわした感じがもう頭の中をぐっちゃぐちゃにするんだよ。ああああ、俺の彼女今日も可愛い。
「…行こうか。」
「…そだね。」
「今日…調理部あるよね?何作るの?」
「えーっとね、今日はりんごのお菓子を二種類かな。」
「それ全部俺が食べるから。他の奴にあげないでよ。」
「…うん。でもあんまり食べたら夕飯入らなくなっちゃうよ?」
「大丈夫。俺成長期だし。部活やった後だからいくらでも食べられるよ。それに…紘乃の手作りだし。」
「…そ、そうですか。ありがとうございます。」
「彼氏ですから。…手、いい?」
「!!………うん。」
(お互い反対向いて会話とか…もっと俺が頑張んないと。でもこのもじもじ感どうすれば…)
◆地元デート(高一秋)
「あっれー淳哉じゃーん!!何してんの?デート?!」
「…お前かよ。見りゃ分かんだろ。ほら!」
「何俺の前で仲良さげに手とか繋いじゃってんの?ロンリーな俺への嫌味?!…てか彼女さん可愛いね。どこで知り合ったの?淳哉やめて俺のとこおいでよ♪」
「ふざけんな。っつーかお前も知ってんだろ。中学一緒だったんだから。」
「…えーっと、ちょっと待って。……………牧田?」
「うん、久しぶり。」
「え、え、ええぇぇ!!うそっ!めっちゃ可愛いじゃん!」
「(くそ、失敗した)見るな寄るな話しかけんな。」
「つーめーたーいー♪そうだ、この後あいつらとカラオケ行くんだけど、二人もどう?」
「(は?だからデートだって言ってんじゃん)わりーけどパス!」
「えー!絶対楽しいのにー!」
「ご、ごめんね。でも私盛り上げたりとかできないし…。」
「じゃあ仕方ないか。まっ、今度カラオケじゃなくても中学の皆で遊ぼうよ、ね?」
「はいはい、そろそろ行かないとあいつら怒るぞ。またな!」
「うーい、じゃあねーまきちゃん!」
「…………おい!!」
「ごめんな、強引なやつで。後で文句言っとくから。」
「ええっ、いいよ!私こそ悪いことしちゃったよね、折角誘ってくれたのに…。」
「気にすんなって。あんなの全然気にしてないから。」
「そう?なら良いけど。」
「うん。今日は紘乃と一緒にいたいし。」
「私も…デートだから。淳哉君と二人が良かったの。」
(………悶えるってこういうことか)
◆初めてのクリスマス(高一冬)
「すごい…綺麗。」
ほうっと俺の隣でため息を吐きながら紘乃が言う。いやいや紘乃のひざこぞうの神々しさの前には、どんな星空だって霞みます!!…ごほん。
付き合って初めてのクリスマス。高校生だからそんなに金かけられないし、時間も遅くなれないしで悩みに悩んで考えたデートプラン。橘から『彼女も大満足☆クリスマスデート』なんつー特集の組まれた雑誌をいやらしい笑顔と共に渡されたことは、屈辱のひとコマとして刻み込まれている。
紘乃と両想いになってから早二カ月。ほぼ毎日一緒に登校し、時間が合うときは下校もする。デートだって何回かして彼女との距離は着実に縮まっていると思う。そんなわけでそろそろ一歩先の関係になりたい。初めてのクリスマスデートで初キス。悪くはないと思う…。ただそのシチュエーションとかタイミングがな。失敗なんか絶対にしたくないから、ここ最近は毎晩シミュレーションしてた。
そしてクリスマス当日。まずはお互いのクリスマスプレゼントを買う。本当は前から準備しておいて当日びっくりさせたかったんだけど、なんていうかその探りがうまくいかず…。「最近何か欲しいものない?」「うーん、特にないかな。淳哉君は?」みたいなもろバレバレなことを二人でしたもんだから、じゃあ一緒に選ぼうかってことになった。いいんだ、はずれがないってことだし。
二人で結構な時間をかけて選んだのは、俺は茶色い毛糸の手袋、紘乃は皮のブレスレット。あったかくてふわふわな感じが紘乃にぴったりだと思った。早速プレゼントを交換して、お互い身につける。彼女の選んでくれたものを身につけるって、なんかいいな。嬉しくなって隣を見ると、手袋をはめた両手を顔にあてて「ふふ、あったかー」なんて言ってる。ちくしょう可愛いんだよ。
気付けば夕方で、もうこんな時間かと驚く。ただぶらぶらして話してただけなのにな。
そして次はメインイベント。少し歩いた先のプラネタリウムへ。
同じサッカー部のやつに教えてもらった場所。事前に予約しておけば席の心配もないし、それにホワイトクリスマスは無理でも満点の星空の下でキスなら十分いい雰囲気だろうと、下心も多少含んでいる。「よくこんな場所思いついたね」なんて純粋に感心している紘乃に内心ぎくりとしながら、それでもここを選んで良かったと思う。
予約したのは壁側の二席。さりげなく端に紘乃を座らせ、始まるまでの時間をどこかそわそわしながら過ごした。そっと手を繋げば、きゅっと握り返されてもうそれだけで飛んで行けそうなくらいの幸福感に襲われる。その上、小声で話すから必然的に距離がいつもより近く、つい目がその唇に吸い寄せられてしまう。
紘乃とのキス…どんなんだろ。なんかすっげえやわらかくて甘そう。絶対に、一度したら離れられなくなるな。でもここ公共の場だし。たぶん紘乃のファーストキスだし。やっぱ可愛く一回ちゅってして終わりだよな。………いやいや何考えてんの、俺。
これ以上余計な時間があるとつい邪な考えが浮かんでいかん!と思っていたら、漸く上映が始まった。手は繋いだまま、しばし目の前の星空に酔う。物語は宇宙の誕生から始まり、身近な星座の話へ。そしてプログラムも後半に入り、天の川が頭上に美しく広がった時――――――――小さく深呼吸して気合を入れた。
トントンと紘乃の肩を叩く。「え?」と横を向いた彼女の後頭部を、繋いだ手と反対の手でそっと支えて、彼女に覆いかぶさるようにしてその唇を奪った。
時間にすればほんの数秒、でも俺にとっては永遠のような長さのキスの後で紘乃の顔を見れば、薄暗い灯りの中でも分かるほどびっくりした顔をしていた。思わず笑うと、きっと睨みつつ小さな声で「ばかっ!」なんて言ってきた。何これ全然怖くない。むしろめっちゃくちゃ可愛い。
さっきまでの緊張なんていつの間にかどこかに行ってしまったみたいで、その後も何回か唇を重ね、上映が終わってみれば少し不貞腐れている紘乃。やべ、ちょっとやりすぎたか。と焦ったけど、彼女の言葉でまた幸せに包まれる。
「次はちゃんと予告してからにして。じゃないと心臓持たない…。」
(このままじゃ俺の方が殺されそう)
(死因:彼女が可愛すぎて不整脈)




