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いきなり飛んで社会人となった二人の話。
「ふふっ」
「何笑ってんの?思い出し笑い?」
「そうそう。ほらこの写真、中学生の頃の。一緒に見ようと思って持ってきたんだ。」
「うわー懐かしい!体育祭と修学旅行と…なんだこりゃ、授業風景?」
「まだまだ一杯あるよ。今度ね、薫ちゃんが結婚するんだって。式と二次会にお呼ばれしたの。それで、メモリアルムービー作るから写真ありませんか?って幹事さんに頼まれたんだ。」
「薫ちゃんって…ああ、江川さんか。相手は?あの生徒会長?」
「ううん、会社の先輩だって。薫ちゃんのドレス姿キレイだろうなー。背が高いからマーメイドとかも着こなしちゃいそうだし、でもふわふわなのも似合いそう…。」
手元の写真には懐かしい「牧田さん」がたくさん写っている。同時に、すげえ好きだったくせに声も掛けられなかったあの頃の自分も思い出す。…ほんとよく両想いになれたよな。それで社会人三年目となった今でもこうやって俺の隣にいてくれるなんて、当時の俺が知ったら驚くだろうなー。
俺たちも今年で二十五。そろそろ同級生の結婚の話もちらほら聞くようになってきたし、実は俺もタイミングを窺っているところだったり…。一生に一度のプロポーズだから、いろいろシチュエーション考えてたけど…思い立ったが吉日って言うし。…よし。
机のチェストからさりげなくあるものを取り出して、ベッドに座って写真を見ていた紘乃の後ろからぎゅっと抱きつく。少し驚いたようにピクリと動いた体を強めに拘束し、その耳元に声を落とした。
「紘乃は?」
「え?何が?」
「…ウェディングドレス。どんなのがいい?」
「………え?え?!」
「紘乃。俺のためにウェディングドレス、着て欲しい。それで…俺の嫁さんになって。」
緊張で紘乃の顔が見れない。僅かに震える手で彼女の左手を取り、こっそり用意しておいたキラキラした指輪を薬指に通す。
まばたきも忘れた様に自分の手を見つめる彼女の顔をそっと上げさせ、目を合わせて彼女と俺自身に誓うように言う。
「牧田紘乃さん、一生大切にします。俺と結婚して下さい。」
言った。よし言えた。しかし彼女の返事を聞くまではこの動悸は治まりそうにない。
…あれ、そろそろ何か言ってくれないかな。なんかもう五分くらい過ぎた気がする(実際は数秒だろうけど)。うおっ!泣いちゃったよどうすんの?!だめ?俺じゃやっぱ頼りないからダメ?!
「……する。淳哉君と結婚する。淳哉君のお嫁さんになりたい!」
そうして今度は紘乃から俺の首に両腕をまわしてぎゅっと抱きついてきてくれた。
…してくれるって、結婚。俺の嫁さんになってくれるって。
すげえ。なんかよくわかんないけどすげえ。幸せ突き抜けて茫然って感じだけど、なんかこう…好きだー!って気持ちが止まらない。
紘乃の顔を見たら、やっぱり嬉しいって感じの笑顔で、きっと俺も同じような顔してんじゃないかな。
指輪をはめた手を絡ませてそのままの勢いでベッドに押し倒し、「好きだ!」とか「愛してるー!」とか後から考えたら完全にテンション上がりきってたなって感じの高揚感とともにいっぱいキスした。
あああー、すげえ幸せ!でもこれからもっともっと幸せになってやる!
「淳哉君はどんなドレスがいいと思う?」
「えっ、俺も意見出していいの?」
「うん参考にね。」
「!!試着だけでもして欲しいのがあるんだけど!」
「………ミニは却下だから。」
「………………なんで。」
+:+:+:+:+:+
「淳哉ー!牧田も!結婚おめでとーな!」
プロポーズから約一年。漸く結婚式を迎えることができた。
俺の隣にはつい先週「岡野紘乃」になった俺の奥さん。くうっ、イイ響きだ。バージンロードを義父と歩いてくる紘乃の神々しさといったら…マジでキレイだった。ドレスはプリンセスラインとかいうタイプで、ふわふわの綿あめみたいなやつ。ちょっと童顔な紘乃にはぴったりで、試着に(なぜか)同席していた母親たちも一押し。式の時のティアラとベールも良かったけど、披露宴と二次会のピンクのバラで作った花冠とそれとお揃いのブーケもマジ可愛かった。ちなみに披露宴のお色直しは、サーモンピンクのカラードレス。これもまた似合ってたな。あーいい嫁さんもらって良かった。
ま、そんなこんなで今は二次会の真っ最中なわけなんだが。俺の長年の悪友である橘を筆頭に、中学の同級生に囲まれて非常に居たたまれない気分に陥っております。
「いやーそれにしても膝フェチの淳哉君が牧田と結婚とはびっくりだね。」
「ほんとほんと。高校の時付き合い始めたって聞いた時はまさかここまでとは想像もしてなかったよな。」
「あれー?でも淳哉君いろいろと他にお付き合いあったんじゃありません?」
「ですよねー、なんか純愛貫きましたみたいな顔してるけど(笑)」
「なんか大学生の時フリーになったって聞いたんですけど(笑)」
「まあまあ、皆気持ちは分かるけどあんまいじめんなって!」
「そうそう、はいグラス持ってー!淳哉君の執念に完敗!!違った!乾杯!!」
「「「膝フェチばんざーい!」」」
「お前ら素直に祝えねえのかよっ!!」
もうほんとこいつらヤダ!
「ふふ、楽しそうだね。皆さん、今日はありがとうございます。」
おお!俺の天使!
すぐさま紘乃の隣にぴったりとくっつき、腰に手を回す。橘達が呆れてるけどいいや、だって新婚さんだし。
「…そういえばさ、牧田っていつから淳哉のこと好きなの?」
ぽつりとこぼした橘の一言により、紘乃に視線が集まる。
「俺も中二からってのしか聞いてない。きっかけは?」
「えっ!淳哉も知らないの?!めっちゃ知りたい!」
「もう十年以上も前のことなんて時効だよ!言っちゃいなよ~!」
まさかここでこんな質問が来るとは思ってなかったんだろう。顔を真っ赤にさせて視線を彷徨わせ、ものすごく戸惑ってるのが分かる。紘乃は恥ずかしいかもしれないけど…知りたい。
全員の目線で知りたいオーラをバンバン送ったところ、やっと観念したのかまだ赤い顔のまま小さい声で話始めた。
「……中二の二学期に体育の授業で怪我して保健室に行ったときに、皆が話してるの聞こえて。それで。」
え、それじゃ全然分かんないんだけど。と思ったのは俺だけじゃないようで、皆の頭の上にはてなマークが見えるようだ。
ただ橘だけはピンときたらしく、いやらしい顔でにやにやしたと思ったら突然爆笑し始めた。
「あーははは!そっかそっか、あの時か!いやー紘乃ちゃんは可愛いねー!」
「………だから言いたくなかったのに。橘君は相変わらずのSだね。」
そこで大学の友達に声を掛けられて紘乃は移動してしまったんだが…マジでそれっていつ?
「はああー笑ったぁ。お前ら思い出してみろ。淳哉に初めて牧田のこと聞いたのいつだった?」
「………よし待て思い出せそう。」
「……そうだよ体育で校庭だ!」
「……確かに保健室の近くで話してた!」
「……そうだよ、それで淳哉が牧田のこと好きだって話してた!」
「……え、ってことは牧田は淳哉が膝フェチだって知ってたってこと?」
「……それでも好きになっちゃったわけ?」
「淳哉、顔真っ赤だよ。」
「お前らほんとうるせーーー!!!」
ついに言ってしまった。今まで恥ずかしくて淳哉君にさえ言えなかった、私が岡野君を好きになったきっかけの話。
あきれてないかな?自分のこと好きだって聞いただけで好きになっちゃうとか変に思われないかな?いやいや今更引かれてももう夫婦になったわけだし、うん。
付き合い始めてからの十年、いろいろあった(途中お別れしたこともあったり)けど、こうやって改めて夫となった彼を見て、やっぱり間違ってなかったと思う。確かに片思いしている時は苦しかったり切なかったり、でも些細なことが嬉しかったり。
だけどその頃も今となってはいい思い出と言える。岡野君を好きになって、恋人になって…たとえ両想いになっていなかったとしても、大人になってから私はこんなに素敵な人が好きだったんだって幸せな気持ちになれたと思う。
だからずっとあの頃の気持ちを忘れたくない。もちろん彼への愛情は今の方が大きいけどね。
ああ、まだ皆にからかわれてるみたい。顔が赤いよ、旦那様。
ずっとずっと大好きだよ。これまでも、これからも。
fin.
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これで本編は完結です。今後は小話をいくつか投稿予定です。
他にもこんな話を読んでみたいというリクエストなどあれば、感想・メッセージでお願いします。
ちろ




