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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第五章-終章】シドという名の冒険者

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92. 英雄の存在

シドとリュウは、“デュラハンの兜”の3人と別れた後、ダイモスの街の中心近くにあった、“虹色の雨”という宿に辿り着いた。


そこはその辺の安宿ではなく、快適な空間が保たれた部屋となっており、流石にA級が利用するだけの事はあるな、という感想の宿であった。

シドとリュウは部屋に入ってから、今後の事を話し合っている。


「僕達が歩いてきたスチュワート領では、まだ魔物の被害は無かったよね?」

リュウが、疑問に感じている事を聞いてみる。


「そうかも知れないな。俺達は今回の移動中に、魔物と遭遇はしていない。だが、ウドの街の冒険者ギルドには、魔物討伐の依頼が、まだ沢山残っていた」

「え?そうだったの?」


「ああ。護衛依頼は残っていなかったが、魔物の討伐依頼は、まだ貼ってあった。その時は、C級以上の冒険者が少ない街なのかとも思ったが、今考えると多分、そういう事なのだろうと思う」


シドとリュウは、そこで黙り込む。

大森林から少し離れているウドの街でも、魔物が増えていると言っていた。2人が見えている所以外では、もう既に、何かが始まっているのかも知れない。


「王都に行くの?」

リュウはこの先を尋ねる。


「……いいや。王都はやはり避けよう」

「じゃあどうするの?暫くはここにいる?それともアルフォルト領へ、南下する?」


「…ノックス領へ出ようかと思っている」

「大森林の南だね…」

「ああ。王都は、王都のギルドが人員を集めるだろうから、南部が手薄になってくる可能性がある」


「…誰かに会ったりしない?」

「それは分からないが、今はどちらを取るか、だ」

「魔物の心配か、知り合いに会う心配か?」

「ああ」

「だったら魔物に決まってるね」


「そういう事だな。これから王都には、今まで以上の混乱が生じて、B級以上の招集が掛かるだろう。そうなれば他の所が手薄となる」

そう言ってシドは、リュウと視線を合わせる。


「俺達はD級パーティだ。王都のギルドから招集が掛かっても、それは俺達には及ばない…という事だな」

「自分達の行きたい所へ行く…」

「ああ。強制はされないからな」

「そうだね」

そう言って2人が頷き合った時、部屋をノックする音が聞こえた。


コンコン

「ブライアンだ。いるか?」


2人は顔を見合わせると、シドが席を立って扉へ行く。すると扉には、ブライアン一人が立っていた。

「俺達の部屋まで来れるか?」

「ああ。構わない」

シドがそう返事をすると、リュウがシドの隣まで来て、そのまま3人はブライアン達の部屋へと向かった。




3人の部屋は、シド達の取っている部屋よりも大きく、居間と寝室がわかれている様である。

シドとリュウが室内に入ると、ボーナムとアドニスが座っているソファーへと促される。


「悪いな、来てもらって」

「いや、構わない」

「それで、早速なんだが」

そうボーナムが言って3人は、シドとリュウへ視線をよこす。


「先程、ギルマスには報告を上げてきた。ダンジョンの件と、当然ウロボロスの件も、だな」

それにシドとリュウは、ただ頷いて返す。


「で、その話をした途端、ギルマスも色々と合点がいった様だった。直ぐに全冒険者ギルドへ、連絡をすると言っていた。そこには王都も含まれる訳だな」

そう言ったボーナムと残り2人は、そこで苦笑いをした。


「これは推測だが…。そうなれば、王都はB級以上に招集を掛けるだろう。王都を護れと。だが大森林は王都にだけ面している訳では無い。王都にばかり、上級が固まっても意味がないとは思うが、それが分かっていても俺達は、行かなくてはならないだろう」


ボーナムが言う事は、シドとリュウが先程まで話していた事だ。それ位は皆、思い付く事である。


「ああ。そうなるだろうな。だから俺達は南へ行く事にした」

シドは3人へそう話す。


「そうしてくれると助かる。俺達に選択肢はないが、君達は自由に、行先を選ぶ事が出来るからな」

と、ブライアンも同意してくれる。


「それで、さっきは伝えられなかったが、ここまで来たからには、ウロボロスの事も話しておく」

そう言ったのはボーナムだが、他の2人も頷いている所をみると、皆でシドとリュウに話そうと、決めたようである。


「ウロボロスの名は、A級に昇格した時、ギルマスから聴かされる事だと、先程話したと思う」

ボーナムはシド達を見て、覚えているかを確認すると、話を続ける。


「言ってしまえば、A級になるまで、その存在すら知る事のない魔物で、これは大森林との契約の中に出てくる魔物だ、という話だ」


「契約…」

シドがその言葉を重ねる。


「ああ。契約に際し、これを破れば厄災が起こる。大森林を守護するもの“ウロボロス”が眠りから覚め、人々を混乱へと導くであろうと」

「それが出てくれば、混乱どころではないと思うが…」


「ああ、王都は壊滅するだろう。まず最初に、契約者の末裔に矛先が向く事になるだろうからな」

「そのウロボロスは、そんなに強いのか?」


シドの問いに、ボーナムは渋い顔をする。

「強さについての言い伝えはないらしいが、森の守護者という名が付いている位だ。弱くはないだろうな」


「大きさや、その魔物の特徴は?」

「何も伝わっていないと。ただ名前だけの魔物。だから今までは、いるかも分からない魔物である為、公には出来ず、A級になった者にしか話されていなかった」


「名前だけ…という事は」

「対峙してみない事には、何も解らん。という事だな」


ボーナムがそう言うと、A級冒険者の3人は困ったように眉を下げた。

A級の冒険者が、ここまで露骨に不安を表しているのは、異常ともいえる。

だがいくらA級の冒険者とは言え、所詮はただの人間だ。皆不安であるのは、同じ事なのである。


「まぁ、王都で招集が掛かれば、“アルフォルト公”も出てこられるだろう」

ボーナムのその言葉に、シドの肩がピクリと揺れた。


「あの…。アルフォルト公はもう、冒険者を引退されているのでは、ないのですか?」

ここでリュウから声がした。

3人はリュウへ、視線を向けて微笑む。


「アルフォルト公は、公爵にはなられたが、冒険者の籍はそのままになっている。A級の“〈英雄〉ネレイド”は、そのまま継続で、今も緊急事態になれば必ず、お出ましになるはずだ。それが王家との約束だからな」

ブライアンはそう言うと、嬉しそうに笑った。そこで隣にいるアドニスから、ちゃちゃが入る。


「ブライアンは“〈英雄〉ネレイド”に憧れて、A級まできたんだ。だからもし会えるなら、今回の事はブライアンには“ご褒美”みたいなもんだな」

アドニスはニッコリ笑って、シドとリュウを見る。


「おい、アドニス。ご褒美とは不謹慎だぞ?」

アドニスとブライアンは、重くなった空気に風を入れてくれたらしい。

しかし話を戻せば、先程ギルドで話し合った事は、そのアルフォルト公が出てくるまでを想定して話した、という事の様で、シドはブルリと身を震わせたのだった。


「あぁ。これは別、と言う話でもないんだが…」

ボーナムがシド達を見る。


「今日、王都まで護衛で出ていた冒険者達が魔物に襲われ、その一行は全滅したとギルドで聞いてきた。今まで護衛の依頼は気楽な物だったが、今はそういう事も、言えなくなっている様だな」


「全滅…」

リュウが呟く。


「兎に角、魔物の出現が、今までに例を見ない程の数となってきている。2人も気を付けておいてくれ」

ボーナム達は真摯な眼差しで、シドとリュウを見据える。


「ああ。肝に銘じる」

シドはそう返すと、3人へ翌日にこの街を出る旨を伝え、2人は自室へ戻って行ったのであった。




「なぁ。あの2人、D級パーティの様だが、あれは等級詐欺ではないのか?」

ポツリと言ったアドニスに、残る2人は苦笑する。

この3人は国内でも数少ない、A級冒険者なのだ。他人の強さを多少なりとも、見極める目を持っているのである。


その為この3人は、シドとリュウと会ったダンジョン内で、すんなりと後を任せた訳でもあるし、D級を名乗っている事が、不思議に感じられていたのだった。


「まぁ、何か事情でもあるんだろうよ。そのお陰で、彼らに安心して南を任せる事が出来るんだ。自由に動けるB級以上の存在は、そうそう居ないからな」

「そういう事だな」


3人はそう話すと、次の話題へと移っていったのであった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] よくある、腐敗したギルド組織じゃないのがいいな [気になる点] これは目立ちすぎたよなぁ ギルマスに話通したって事だしな・・・ [一言] そろそろ逃げ切れないかな?
[良い点] 何度も繰り返すようですが、A級パーティーもギルドマスターも理性的でよい判断だと思います。 A級パーティーだからこそ知りえる情報を特権として隠匿するまわでもなくきちんとその他の情報とすり合わ…
[気になる点] >A級になるまで、その存在すら知る事のない魔物で へいへい、シドくん。書物で見かけたって言ったよね 相手もA級だし「自由に動けるB級」とか言われてるし、隠しきれなくなーい?なーい? […
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