表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第五章-終章】シドという名の冒険者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/108

84. 愁いを帯びて 【登場人物まとめ・地図】

カツッ カツッ カツッ カツッ

白く輝く長い廊下を、迷いなく歩く。


金色の髪をさらさらと靡かせ、浅葱色(あさぎいろ)の眼は真っすぐに前を見つめている。

後ろには2人の近衛が付いてるが、それもいない者として歩いていた。

この人物は最近まで床に臥せっていた、このアルトラス国の次期国王となる予定の、“クリストファ・ツウィン・アルトラス”王太子殿下である。


今は執務中の為、装いは豪華ではないが、シャツとジャケットにパンツという簡易装束であっても、良質な素材を使っている物だと判る。

別に贅沢をしたい訳ではないだろうが、国の威厳という物が付いて回る事であるし、生まれた時から贅沢な物を身に付けている本人には、これが贅沢とも思っていないのかも知れない。


そして彼は、1つの大きな扉の前で止まった。この扉の両脇にも、2人の近衛が立っている。


コン コン コン

「クリスです」


その声に中から扉が開き、2人の近衛がそれを開けている。クリストファは、それが見えないかの様に扉を抜けると、机に向かっている人物の前で足を止めた。


「お呼びですか、陛下」

「うむ」


声を掛けられた者はそう返事をすると、重厚な机の前に設えてある豪華なソファーへとクリストファを促し、自らも腰を掛ける。

すると、2人の前へ紅茶が音もなく置かれる。

陛下と呼ばれた者はそれに頷くと、目の前のクリストファへ、彼と同じ浅葱色の眼を向ける。


「クリス、もう体調は良いのか?」

「はい。もうすっかり良くなり、以前よりも万全な程。お気遣いをいただき、ありがとうございます」

そう返すクリストファは、テーブルから紅茶を取るとそれを口に含む。


「それは良かった。あの薬のお陰だな」

「はい。その様です」

クリストファは、それを当たり前の様に言ってみせる。

その様子を見ている“メルクリウス・ロド・アルトラス”国王は苦笑した。


「それで、クリスの今行っている企画は、進めているのか?」

「はい。私が戻りましたので、再開しております」

「クリスはもう少し、十分な休息を取った方がよかろう…」

「いいえ。王都をより良くするため、私が身を()にして働く事は当たり前です」


このクリストファは、仕事に全力を注ぐタイプである。次期国王としての自負と責任を、しっかりと果たそうとする謹厳実直な人物なのであった。

ただ、今回の件については、国王は不安を抱えている。


「クリス、大森林の件は考え直さぬか?」

「考え直す事などございましょうか。国民たちに、より良い環境をもたらす事は、国の永遠の課題でもあります。その為の一つとして、行っているだけです」


このクリスは少々真っ直ぐ過ぎる故、彼の周りには、もう少し柔軟性を持った思考の者を配置せねばな、と国王は心の片隅で考える。


「そうか…だが、クリスが倒れた事の噂も、聞いていない訳ではあるまい。この国に伝わる事であるからな」


「あれですか…今回は偶々、私の体調が悪くなっただけで、それにあの薬も既に手元にありますので、問題はないでしょう。“大森林との契約”とは、お伽噺の世界です。呪いであるという事は、事実ではありません」

そう言い切って、クリストファは真っ直ぐ国王を見る。


「それにあの大森林には、魔物も多く住み着いておりますし、住処を小さくすれば魔物の数も、自ずと減って行くでしょう。一石二鳥です」


そう話すクリストファは、自信を漲らせている。


そしてこの件は4カ月前に、議会での承認も得られている為、3か月程前から人員を集め、計画を進めてしまっている事でもあった。

その時にも国王は、この計画を通さぬ様に国の記録を調べ、その伝承についても調べてはいたが、余りに古い事であった為か確かな記述もなく、皆を説得するまでには至らなかったのである。


王家は代々、アルトラスの伝承と共に“大森林との契約を守る様に”と、親から聴かされて育つ。

しかし、クリストファにはその伝承そのものが、お伽噺として聴こえてしまっていた様であった。


それにこの工事は、王太子が初めて立案して行う事業となる為、彼もこれを完遂させようと、必死なのである。

勅命で計画を中止させる事も出来るが、親としての甘い気持ちで見守っている事を、国王自身が重々承知していたのだった。


クリストファは話を終えると、再び近衛の開ける扉を抜け、自室の執務室へと戻って行った。


それを見送ったメルクリウス国王は、ソファーから机へ戻る。

そして背後にある大きな窓を見つめ、呟く。


「何事も起こらねば良いが…」



-----



シドとリュウは街道を南下して、昼を過ぎた頃にスチュワート領へ入った。


スチュワート領は、王都へ行く為には通過する中継地点となる事も多く、サトリアーネからの商品も当然、スチュワートを通って王都まで運ぶ事となる。


そしてスチュワート領と王領の境には、この国最大の河が流れ、その河は王領の水源として、豊かさを手助けしている。しかし、数年に一度は河川の氾濫がある為、王領の治水工事はその都度、しっかりと成されている様であった。


スチュワート領からその河を渡れば、王都は目の前と言っても良い距離となるのである。

そして、このスチュワート領にもダンジョンがあり、冒険者達も良く訪れている場所でもある。

隣のシュナイ領にも<ハノイ>はあるが、スチュワート領のダンジョンはそれよりも規模が小さく、気軽に入れるダンジョンなのである。


今回このスチュワート領へ来た事もあり、シドはそのダンジョンへも行ってみるつもりだ。

一応、ダンジョンの近くまで行く事があれば、立ち寄ってみようと思っているシドは、案外律儀なのかも知れない。


「今日は、次の町まで行こうと思っている」


太陽が低くなるまでには、まだ2時間はある。

先程通過した所に分岐があり、途中の町に寄ることも出来たが、そこは通過をしてその先へと進んできた。


「少し急いでる?」

「…そう言う訳でも無いが、何か余り良くない感じはするな。少しソワソワする、とでも言うか…」

「そっか。兄さんの勘は当たりそうだからね。任せるよ」


「ああ。では今日は、次の町で泊まろう」

「了解。その町は流石に、昨日みたいな宿はないよね」

リュウは笑いながら、そう話す。


「ああいう宿は大きい街か、王都位でしかないだろうな」

「小さな町に、あんなに高級な宿があっても、誰も入らないもんね」

「そう言う事だな」


2人は昨日の宿には大満足であったが、また同じ様な宿を取りたいかと言えば、“数年に一度のご褒美なら”という感じの様だ。やはり普通の宿の方が落ち着くよねと、庶民的な2人なのである。


「今度は、宿がすぐに見つかるかな?」

「シムノンとは違うから、すぐに見つかるだろう。町の規模としては、“ヨナ”位だと思うぞ」


「ヨナかー。何だか懐かしいね」

「ああ。もう随分と昔の様な気がするな」

「そうだね。あれは出会ってすぐ位の時だったね」

「そうだったな」


あの時は色々とあって、ヨナは思い出深い町となっている。

シドとリュウはそれから少しの間、当時に思いを馳せていたのであった。



2人が今歩いている道は、スチュワート領内を縦に二分する様に通っていて、そこを次の分岐で西へ入る。

この分岐のすぐ先に、“ベスク”という町が見えてきた。


その町の手前には畑が広がり、まだ作業をしている者もいて、人々の動きを感じる。

今の季節は、イモ類や青く細長い野菜などを栽培しているらしく、それを掘り起こしている人達も見える。

リュウは楽しそうに、それを眺めて歩いていた。


そして2人は、ベスクの町に到着する。


ベスクの町中の道は、中心に通っているのではなく、町の北側を添う様にして、東西に延びる形になっていた。

そこがメイン通りの様で、食料品店や飲食店などの、カラフルな店が建ち並んでいる。

そして宿屋はその通りの最奥となっていて、旅人の動線を考え、店の前を通らせる造りとなっていた。


店の前を通りながら、早速リュウが目を輝かせている。リュウはまんまと、この町の思惑にはまった様である。

その姿に目を細めながら、シドは町の雰囲気も確認していた。


小さい町の割に、旅人が多い様だ。

憶測ではあるが、王都の人員募集を聞き、そこへ向かう者もいるのだろう。男性が多いので、多分そう言う事なのだと思う。


シドとリュウは偶々目に留まった、この町では大きい部類の宿へ入ってみる。するとこの宿には空きがあり、2人部屋をすんなり取る事が出来た。


宿の者に聞けば、この町の宿屋は4軒。

シド達が泊まる宿は朝夕の食事付で、主に商人達が利用する事が多いらしい。

そしてここ以外の宿は素泊まりとなっている様で、旅人はそちらを利用する者が多いとの事であった。

“なるほどな”と思い、今度から食事付の宿を先に探してみよう、と心に留めたシドである。


さて、宿を取れたのは良いが、今の時間はまだ夕食にも早い。その為2人は、町の中を散策する事にした。

2人は来た道を戻り、メイン通りを歩く。


途中、甘い匂いが漂えばそれに反応する者がいて、シドは苦笑しつつもその店に次々と寄っていく。

外の畑で採れた、赤イモで作ったしっとりとした菓子や、可愛らしい形の飴などを購入し、リュウは嬉しそうにそれを持って歩いている。シドは飲み物類を購入するなどして店々を満喫し、宿へと戻ったのである。


こうしてシドとリュウは、スチュワート領初日を、ベスクの町に一泊したのであった。




◇◇◇◇◇


――【追加・登場人物等のまとめ】――

▶主人公「シド(シルフィード)」…頑なにC級冒険者として活動する剣士(ソード)、189cm、スラリとしているが筋肉質、くすんだ金髪を後ろで束ねている→茶色く染める、切れ長の翠眼、顔半分が髭で覆われている→髭を剃る、23歳、出身ファイゼル領

<魔法=風魔法、スキル=身体強化・迷宮再生(ダンジョンリペア)亜空間保存(アイテムボックス)集中(フォーカス)硬化(インデュレイト)走査(スキャン)精神感応(コネクト)借受(ボロー)一撃(ヤーク)転移(テレポート)浮遊(リビテーション)神の慈悲(プリエール)

---

▶B級冒険者「リュシアン・ブルフォード」…貴族令嬢、シドとはアーマーベア討伐で出会う、21歳、剣士(ソード)、160cm、新緑色の長髪をサイドで編込んでいる、蒼眼、シドの彼女

<魔法=治癒魔法・水魔法、スキル=軽量化(レウィス)防楯(エスクード)

★後F→D級冒険者「リュウ」と名乗りシドと行動を共にする、茶色く染めたショートカット、16歳の男の子設定、シドとのパーティはD級“グリフォンの嘴”

---

●ラウカンの街 バーネット領の北東、熱い湯が湧き出ている観光地

○冒険者ギルド

 ・冒険者ギルド職員「ソフィー」…23歳、ナイスバディ、他のギルド職員と共にシド達を愛でていた

 ・C級冒険者「ロバート」…C級パーティ“ケルベロスの尾”リーダー(後に解散)、41歳、裏葉色の髪に蒼色の眼、剣士、175cm(後、消息不明)

 ・C級冒険者「コナー」…C級パーティ“ケルベロスの尾”メンバー(後に解散)、40歳、赤茶の髪と髭に蜜柑色の眼、ぽっちゃり型、176cm(後、消息不明)

○街人

 ・商人「オロン・カルナイ」…カルナイ商会を経営、50歳位、黒眼に黒髪、生地の薄い服を着ている、今まで人に騙され続け信じる物はお金だけという寂しい人、自分は嘘をつかないと誓っている

---

●ウィルコックの街(後に迷宮<ガニメテ>を発表する)バーネット領の西、領の都

○冒険者ギルド

 ・ギルドマスター「クロード」…49歳、元冒険者で斧使い(バトルアクス)

 ・ギルド職員「カロン」…33歳、受付からギルマス補佐まで何でもこなす有能な職員

○街人

 ・薬屋…シド達から“マンイーターの種”を受け取り王都へ送った、占いも出来る

---

●アンガスの街(迷宮<ストラマー>)サトリアーネ領の北東

○冒険者ギルド

 ・ギルドマスター「フリップ」…45歳、淡藤色の髪に灰色の眼、180cm、事務員の様な見た目の割に実は戦闘も得意

 ・C級冒険者「エッジ」…25歳、藍色の髪に藤色の眼、そばかすがあり人懐こい性格

---

●シムノンの街 サトリアーネ領の南西

 ・宿屋「白鱗閣」…1名様1泊で銀貨10枚(最上階)、部屋も食事も大満足致します



▼シド達は、地図北部“サトリアーネ領”の西「シムノン」から出発します▼

(見え辛くてすみません)

挿絵(By みてみん)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 暴走、ってか脳筋とか猪とかそんな王子 国王はもっと強く抑えなきゃだな ヘイヘイ、大森林!なにやってんの!切った木から血が噴き出るとか現地の人間全員体調不良起こすとかまでやらないとこの王子止…
[一言] 現実なら開発の結果熊が街中に出没するシチュエーションだな 熊以上のものがいる世界だけど
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ