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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第三章】共に生きる者

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59. 出現

シドとリュシアンは階層を下り、今は最下層にあるダンジョンの扉の前にいた。

「用意は出来たか?」

先程リュシアンへ、オーツの剣を渡してある。

「ええ」

2人の眼差しは、真剣だ。


「リュシアンは必ず防楯(エスクード)を入れておいてくれ。防楯(エスクード)は魔力の消費が少ないから、気軽に使えるだろう」

「それだと、私だけの防御になってしまうわ」

「俺の事は気にしなくて良い。俺も水魔法を借りる事も出来るし、何より硬化(インデュレイト)もある。何かあれば後で回復(ヒール)を掛けてくれれば問題ない。それよりも魔力ポーションは持っているな?」

「ええ。5本は用意してあるから、何とか凌げると思うわ」

「そうだな」


シドとリュシアンが話をしていると、シドの頭の中に又声が響く。


≪再生者よ…先にスキルを渡しておく。“転移(テレポート)”を付与した。戦闘に役立つだろう≫

「…そうか…礼を言う」


≪礼には及ばぬ。我が無理を言っておる事は、少なからず理解をしておるからの。そのスキルは魔力を使い発動するもの。魔力が切れれば転移は出来ぬと、肝に銘じておくと良い≫

「解った。気を付けて使わせてもらう」


≪そしてその魔力の使用量は、距離に比例する。目視出来る場所への移動では微量。だが、遠距離となれば魔力を大量に使うと心しておけ。そして見た事のない場所にも行けぬ≫

「そうか…」


≪まだ補足がある。我の使う“空間転移(トランスフェレンシア)”とは違うもの故、他の物のみを移動させる事は叶わん。必ず己自身を含み移動させるものと留意しておくとよい≫

「承知した」


シドが<ボズ>からの説明を聴いた後にリュシアンを見れば、“まだ何かあるの?”という顔をしていた。


「今、ボズに“転移(テレポート)”のスキルを付与された。今から使えるから、防御も何とかなりそうだ」

そう言ってシドは苦笑する。

「あはは…。今回はまた大層なスキルだね…」

「…そうだな」

2人は顔を見合わせる。


では行くか。


「<ボズ>また後でな」

≪武運を祈る≫


そう言うとシドは扉に手を添えて、重たい扉を開いた。



-----



扉の先には<ハノイ>の最下層よりも大きな空間があった。そして2人が空間に入った途端扉は閉まり、最奥に紅い塊が現れた。


『ガァァァァーーー!!』


2人を感知したサラマンダーが咆哮する。

その時にはもう紅い塊はトカゲの様な姿で、巨体をこちらへ向けていた。


それを捉えたシドとリュシアンは、目線を交わすとその50m程の距離を一気に駆け出した。


リュシアンは軽量化(レウィス)防楯(エスクード)を、シドは集中(フォーカス)以外の使えるスキルを全て入れる。

集中(フォーカス)には時間制限がある為、この戦闘にはタイミングをみて使う必要がある。


一気に距離を詰めた2人だったが、サラマンダーが炎を吐き出した事で、2人は横へ逸れる。

遠くにいるリュシアンを見れば、左手には防楯(エスクード)を展開していた。


水槍(アクアランス)!」

リュシアンの持つ剣先から放たれた魔法は、魔物に当たり衝撃が起こる。


―― ドーンッ!! ――


今度は反対側からシドも放つ。

爆風(ウインドボム)!」


―― ボンッ!! ――


大したダメージではなさそうだが、左右から繰り出される魔法に魔物は苛立ったのか、口から扇状に火球が放たれた。


―― ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ! ――


シド達が避けたそれらは、壁に当たり爆音を立てる。

≪出る!≫

その音が鳴り止まぬうちに、シドは一瞬で魔物の横へ転移すると、両手の剣を薙いだ。


――ザシュッ!――


シドの剣は浅い傷を付けて魔物を横切るが、その気配に気付いた魔物の尾がシドに迫る。


だがシドは瞬時に移動してその攻撃を躱すと、元の位置へ戻り風魔法と水魔法を送り出す。

風の刃(ウインドブレード)!」「水槍(アクアランス)!」


シドが下がった事に気付いたリュシアンも、続けて魔法を放つ。

先程シドからは、転移(テレポート)を使う際にはリュシアンに声を送ると、予め話されていたのである。


水圧爆撃(アクアリウム)!」

その放たれた巨大な水の塊が、魔物を襲う。


2人は魔物との距離を取りつつ、魔法で攻撃を繰り返す。この魔物とは、距離が詰められないのだ。

サラマンダーは炎を吐き出したり、魔法を使って炎球を放つからである。


≪距離が詰められないな。しかも奴は硬いぞ≫


2人は左右に別れて離れている為に、声は届かない。リュシアンを見れば、シドの声に頷いていた。


≪今のパターンで続ける。出る!≫


シドはそうリュシアンに伝えると、転移で魔物の横に出て、剣を振い戻る。続けて魔法を連発して放った。


―― ドドドーンッッ ――



戦闘は延々と続く。


今回は互いに魔法の攻撃がメインとなっている為、魔力が先に無くなるのは当然シド達だ。

サラマンダーは<ボズ>から魔素(マナ)を奪い取っている為に、無尽蔵に魔法が放てるのである。


(厄介だな…)


リュシアンを見れば魔力も少なくなってきたのか、肩で息をしている。

相手の攻撃を避けながら魔法を放っているので、余計に負担が掛かるのだろう。


≪リュシアンは、そろそろ魔力ポーションを飲んでおいた方が良いだろう?その間は俺が対応する≫


リュシアンがその声に少し後退したのを見てから、シドは魔物の正面に転移する。


魔物の顔に魔法を一発当てると、横へ回り込み剣を振う。

だが、それに気が付いていた様に、サラマンダーの前足が横なぎに振われた。

更にシドは、それを躱してまた正面に出ると、集中(フォーカス)を入れて両手を一文字に振った。


――ザシュ ザシュッ――


シドの剣はサラマンダーの顔に当たり、一筋は左目に傷を付けたらしい。


『ガァアアア!!』


大きな咆哮を上げたサラマンダーから、シドへ向けて火が放たれる。それを間一髪で避けたシドは、距離を取って転移で後退する。


リュシアンを確認すれば補給ができたらしく、頷いていた。


先程よりも怒り狂っている魔物が、無差別に連続して炎を放ちだす。

そして壁や地面に当たったそれらのせいで、一瞬にして視界が悪くなり周りが見えなくなった。


「キャー!」


リュシアンの悲鳴で彼女の近くに転移すれば、サラマンダーがリュシアンに迫り攻撃を仕掛けていた。

サラマンダーの前足が、リュシアンを連撃で襲っている。


それをリュシアンは防楯(エスクード)と剣で必死に防いでいたが、力で押されて後退を続けていた。

「くぅ…」


シドは、その脇腹を目掛けて剣を振りかぶる。

だが、それに気付いていた魔物が尾を使い、シドを横に吹っ飛ばした。

シドは体を丸めて、次に来る衝撃に備える。


―― ドコーンッ! ――


そのままシドは、壁に当たり落ちた。


「シドっ!!」

気付いたリュシアンが声を発するも、直ぐに返事が返ってくる。


≪問題ない。気を散じるな≫

リュシアンの頭にそれが響いた頃には、もう魔物の横にシドが居て、再度剣を振りかぶっていた。


「ハッ!」

シドは声と共に剣を薙ぎ、迫って来ていた尾を切り落とした。


――ザシュッ――


その一振りでサラマンダーの尾の半分が飛んだ。


『ガウゥアァー!』


サラマンダーが吠える。

そして標的をシドへと移したサラマンダーの口から、炎が噴射される。


シドは風衣(フロー)を入れて一気に上空へ跳び上がると、それを躱してそのまま魔物の頭上から落下する。

そして2本の剣を突き立てる様にして、サラマンダーの頭へと狙いを定める。

“キーンッ” シドの剣が呼応するように鳴いた。



―― ズズシュッ ズン! ――



硬いはずのサラマンダーの頭に、シドの剣が突き刺さる。


『キョガァアーー!!』


サラマンダーは大声を上げてゆっくりと体を地面へ着けると、そのまま動かなくなった。

頭に乗っていたシドが2本の剣を抜き取り、地に降りた。


2人は魔物から距離を取り、後退する。

すると、サラマンダーがチラチラと瞬き、溶ける様にして姿を消した。



やっと終わった…。



結局は最後の一刀は“一撃(ヤーク)”が発動し、貫けるはずのない硬い頭を貫いた事で、サラマンダーを倒す事が出来たのだった。

シドはスキルを切ると、リュシアンに向き直る。


一撃(ヤーク)が出たぞ」

シドはリュシアンに報告をする。


「そっか。最後のアレは“一撃(ヤーク)”だったんだね…」

「ああ。やっと出たな」


そう言って2人は疲れた笑みを交わしたのだった。


いつも拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

誤字報告も併せて感謝申し上げます。


また、“ブックマーク・☆☆☆☆☆・いいね”を頂きます事、モチベーション維持に繋がりとても感謝しております。


これからも冒険者シドにお付き合いの程、よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
増えるスキルに、こんがらずに工夫して戦うシド、かっちょ良く、楽しく拝見しています。弟の演技ハンパないパートナーさんの運動能力も大概ですが…。初回転移戦闘についていくの凄いな…(汗 今話で、シドに、昇級…
[良い点] 戦闘の描写が良い。 [気になる点] サラマンダー、せっかく倒したのに何にも無いの? [一言] 面白いです。
[一言] 風任せが根を張ったらハッピーエンドだなぁ
2023/11/06 07:01 退会済み
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