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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第二章】動き出す者達

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25. 夜明け

シドは暗闇の中、目を開けた。ここは何処だろうか。

暗くて余りよく見えないが、目が慣れてきたのか、薄っすらと浮かび上がる周りの様子から、どこかの部屋であろう事が分った。

俺は何をしていたのだったか…記憶がなかなか繋がらない。ゆっくりと体を起こすも、あちこちが軋んだ様な感じがした。

(寝すぎたのか?)


“ガタリ”

とその時、傍で音がした。


人の気配があった事には気付いていたので驚きはしないが。誰だ?


「シド、気が付いたのね」

「………」

記憶が繋がっていないので、何と答えれば良いのか分からずにいると、1つ小さな灯りが付いた。顔を見ればリュシアンだ。


(ああそうか…俺は森で、サーペントとやり合ったんだったな)


そんな事を思い出していると、リュシアンの顔が近付いてきた。

「大丈夫?」

傍でそう声を掛けられる。

「ああ…何だか面倒を掛けた様だな。すまなかった」

その言葉にホッとした様に目じりを下げたリュシアンは、話してくれた。


リュシアンが倒れていた2人を治療し終わると、サーペントは倒れていて、俺も傍で転がっていたらしい。俺の体には毒が回っていた様で、リュシアンが急いで解毒し体の傷も治してくれた。そして町の人達を呼んできて、俺と倒れていた2人を運んでもらった、と言う事だった。


「貴方、何をしたのよ…1人でサーペントを倒すなんて。普通は2人以上で討伐するものでしょう?私が入るまで持ち耐えてねって、言ったのに…」

「悪い、ちょっと先走ったようだ」

「本当よ…次は、気を付けてね」

「そうだな、善処する。…それでここは何処なんだ?」


灯りを頼りに部屋を見るも、見覚えのない部屋だ。

「ここはヨナの薬屋がやっている、治療院の部屋なの。薬師の人が貸してくれたわ」

「そうか…それで、今はもう夜なのか」

「ええ。貴方は1日近く眠っていたのよ」

「…そうか。ちょっと疲れたから、よく眠れたんだな」

「ばかね、何を言っているのよ。…本当に心配していたのよ?」

「あぁ…すまなかった」


「それで、どこか痛むところはある?一応、魔法で治癒はしたのだけど」

「いや、大丈夫だ」

「それなら良いわ」


「………。一つ聞きたいのだが、リュシアンは治癒魔法が使えるんだよな。森では話を流したが、治癒魔法が使えるのに、何故アーマーベアの時は使わなかった?」


「それは…私の魔力量は多くはないの。あの時は、もうアイテムを使い切って、その上魔力も殆ど残っていなかったのよ。アーマーベアを追っている途中でも、魔物が出ていたから。でもそれで、本番で魔力が足りなくなっては、本末転倒なんだけれどね」


「なるほどな」

「本当に、私もまだまだね…」

「でも今回は、俺を治してくれたんだ。礼を言う、助かった」

「それはいいのよ」

薄っすらと微笑んだリュシアンの影が、灯りの揺らぎに合わせて揺れた。


「それで、サーペントは?」

「問題ないわ。仕留めてあったから、ヤリフの街に回収を頼んだの」

「そうか。では明日、出発できるな」


「…貴方、体は良いの?もう1日、滞在しても良いのよ?」

「問題ない」

「…わかったわ」

「予定を狂わせてすまなかった。少々しくじったな」

「本当よ…死んでしまうかと思ったわ…」

リュシアンの影がまた揺れる。


「それよりも…リュシアンは眠ったのか?」

「…眠れる訳ないでしょう」

「もうすぐ夜明けだろう。明日の為に少し眠ってくれ。また歩き通しになるかも知れないからな」

シドの言い様に、リュシアンが苦笑したのがみえる。

「わかったわ。隣の部屋で眠るから、何かあったら起こしてね」

「ああ、お休み」

「…お休みなさい、シド」


リュシアンはそう言ってから、灯りを持って部屋を出て行った。その時にシドは、灯りに光った自分の剣を見付け、本当にすっかり迷惑をかけてしまったなと、ベッドに横になりながら反省しつつ、また眠りに引き込まれて行った。



-----



シドはベッドの上で再び目を開けた。部屋が薄っすらと明るくなっている、もう朝なのか。そう思い、シドは起き上がる。まず初めに、自分の体の感覚を確認するも、問題はない。


まだリュシアンは、眠っているのだろう。辺りは静かだった。

眠りを妨げぬよう、シドは静かに扉を閉めて外を目指す。知らない場所だが、大きくはない建物らしく、外へと続く扉はすぐに見つかった。


気配を消して外に出る。外は夏の空気を纏い始めていて、少し生温い空気をはらんでいた。もうすぐ真夏がやって来る、陽も長くなるだろう。

そんな何でもない事を考えつつ、建物の庭へ出た。


徐に手にしていた剣を見る。リュシアンがサーペントから回収してくれたらしい。最後は剣を握る力も尽き、剣を手放してしまった。この剣を見離してしまった気がして、心の中でコイツに謝っておく。

そして、朝の鍛錬を始めた。



「兄さん、もう大丈夫なのかい?」

シドの額に汗が滲みだした頃、そう声を掛けられた。

人が近づいてくる気配はしていたが、話しかけられるとは思っていなかった。


「ああ」

シドは、振っていた剣を止め、少し汗ばんだ顔を相手に向ける。見ると、白い清潔そうな長い羽織を着た年配の女性が、こちらを見ていた。

多分この人が、薬師だろう。

薬師に建物をかりていると聞いていたせいもあるが、女性の雰囲気でそう思ったのだ。


その女性はシドの返事を聞くと、薄っすらと笑みをたたえ一つ頷く。


「そうかい。冒険者は体が出来ているから、回復も早いんだね」

一人納得する薬師に、シドは話しかけた。


「部屋を貸してもらった様で、感謝する」

「あぁ、気になさんな。この町の者を助けてくれたんだ。当たり前だろう?」

「そうか。それであの場に居た者達は、大丈夫だったか?」

「彼らも無事さ。彼女が治療してくれて、命に別状はない。だが体力はまだ回復していないから、家で大人しくさせているよ」

それを聞き、シドは頷いた。


「まぁ…あの2人よりも兄さんの方が危なかった様だからね。自分で治癒した彼女も、ずっと心配していたよ。ちゃんとお礼を言っておくんだね」

「…そうする」


薬師は頷き笑顔を浮かべた。

「彼女を大切にするんだよ」

そう言って掌を上げた薬師は、朝食を持って行くから部屋で待っていろと伝え、庭を出て行った。


シドは言われた通り素直に部屋へ戻ると、部屋にシドが居ない事を心配していたリュシアンに怒られ、朝食を運んできた薬師に見つかって、笑われたのだった。



-----



店が開き始める時間になった頃、治療院と呼ばれる小さな建物に、昨日見た顔が現れた。

道を走って呼びに来た“彼”だ。そして、昨日の顛末を話してくれた。



「俺達は、狩人をしているんだ。普段は西の森で獣を獲ったりしている。だから、昨日も早朝から森に入っていたんだ。そして移動している時、いきなり魔物の気配が猛スピードで近付いてきて、逃げる間もなく、あそこで対峙する事になっちまった」

話を聞いている皆は、神妙な顔で頷く。


「弓で追い払おうとしてみたが、全く意味も無くてな。仲間が捕まっちまって、俺は一人、助けを呼びに町へ戻ったんだ」


ここまで黙って聞いていたシドが、声を発する。

「どうして俺達を追ってきた?」


「俺は前日、たまたま宿の前にある飲み屋で飲んでいて、兄さん達が宿へ入るところを見ていたんだ。“ああ、冒険者なんだろうな”って、雰囲気でそう思った。それを思い出して宿へ行ったら、もう出発したと言われたから、町の外へ向かって追いかけて、あそこで追いつく事が出来たんだ…何とか間に合って良かったよ」


彼はそう言ってから、本当に安堵した様に息をついた。


「西の森には魔物は出ないのか?」

シドは彼に尋ねる。


「いいや、魔物は出るさ。狩人は、魔物が町に来ない様に駆除する仕事も兼ねている。この辺りでは大物は出ないから、3人で組んで対処しているんだ。この町には冒険者ギルドも無いし、何かあると拙いからな」

シドは頷いた。


「でもまさか、サーペントが出るとは…。俺はもう、この町はおしまいだと思ったよ」

彼が初めて見たであろう大型の魔物は、よりにも寄って“サーペント”だった。動きも速く、捕食する量も多いであろうアレを見ては、そう思うのも至極当然である。


ましてや、アレが出てから他の街に助けを求めたところで、援軍が着いた頃には町は壊滅しているだろう。たかが魔物1匹だが、されど魔物1匹だ。


「だけど、却って兄さんにも酷い怪我をさせちまった様で、申し訳なかったな…。しかしアレを2人で倒すなんて、兄さん達は凄い冒険者なんだな。本当に助かったよ、俺達の恩人だ。有難うな」


本当はシド一人で倒したのだが、そこは言わないでおく。


「たまたま運が良かったからな。皆が無事ならそれで良い」

そう答えるに留めた。

隣でリュシアンが、呆れた目をシドに向けていたのは見えていない事にした。


こうして彼は、一通りの経緯と感謝の意を伝えると、足取りも軽く帰って行った。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] ギルドを通していないとは言え冒険者に依頼をしたなら対価が発生すると思うのだが? しかも命かけて倒さなければいけない程の依頼なら尚更だと思う。
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