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クライマックスなう!~彼女の秘密とおれのうそ~  作者: このはな
1.トホホなおれのバイト始め
6/27

 そのとき、あるフロアに気づいた。今まで通って来たところとちがい、そこだけが煌々(こうこう)と明かりが照っていて、大勢の人の気配がしたのだ。

「できた!」

「よし、こっちも頼むっ」

「チェックよろしく!」

 ――ん?

 飛び交う会話を偶然聞いてしまい、妙に気になってしまったおれ。電灯の明かりにひかれた虫のように、ふらふらと引き寄せられ、室内をのぞいてしまった。

 ただならぬ様子の人たちがデスクの上のパソコンに向かい、何やらキーボードをたたいている。殺伐とした雰囲気だ。だれもが真っ直ぐモニター画面を見つめ、何かをさがしているようだった。

 そんな中、ひとりの女性に目がいった。

 さっき会議室で、おれをスケッチした女性だ。他の人と同じようにパソコンを操作している。

 へえー、ただスケッチするだけの人じゃなかったんだ。

 普通の会社員みたいな仕事をしているところ、はじめて見たな。

 いったい、ここはどんな仕事をするところなんだろう。


 と、彼女のかたわらに男が立った。

 男はかがんでモニターを見つめると、ひそひそ彼女に話しかけた。

 二人はどんな話をしているんだろう。仕事の話だとは思うけど。彼女の顔が男のからだに隠れてしまったため、おれの方からは表情が見えない。うなずいているらしく、時折、彼女の頭が揺れている。

 もしかして、さっき、おれに見せたような笑顔で話をしているんだろうか。

 彼女がどんな顔をして、あの男と話をしているのか、なぜか気になる。怖いもの見たさというか、なんていうか……。


 男が急に立ち去り、彼女の姿が見えた。

 いきなり、こっちを向く。

 おっ! おおうっ?

 キッとにらまれるような予感がして、おれは一目散にその場を逃げ出した。


「おい、堀越」

 堀越に追いついて、たずねてみた。

「さっきの、あそこのフロア、なんだったんだ? なんかすごかったけど」

 堀越はきょとん、としたあとに「あー、あそこね。見たのかー」とうなずいた。

「バグをチェックしているんじゃないかな。納期が近いと、いつもああいうふうなんだ。気にしなくていいよ」

「へ、そうなん?」

「おう。うちビルは大きいけど、社員は二十人ぐらいしかいないからな。総動員して仕事をこなす場合があるんだ。吹けば飛ぶような小さな会社のさがだよなあ」

「そんな。吹けば飛ぶようなって……」

 どんなに小さくても、会社は会社じゃん。

 と、言おうとして気がついた。


 ああ。だから、おれをバイトに雇ったのか……。


 ん? 待てよ。バイトなら、他にもあてがあるだろう。どうして、堀越は、おれを誘ったんだ?

 バイトを雇おうとして、たまたま目についたヤツがおれだった。という話ならば、わかるが……。

 そういえば、なんでおれを雇ったのか、まだ理由を訊いていなかったな。


 堀越を呼び止めようと、声を出した。

「あのさ、ちょっと訊きたいことがあるんだけど――」

 しかし、だれかの声にさえぎられてしまった。

陽一郎よういちろうさん、いらっしゃい!」

 かわいらしい、弾むような女の人の……というより、女の子の声。

「あっ」

 気づくと、数メートル離れたところで、給湯室と表示された扉が開いていた。笑顔を浮かべた女性が、おれたちに向かって手を振っている。

 ふわふわの綿菓子みたいな、ウエーブがかった髪が印象的な彼女。

 もし彼女がラノベのキャラだったら、髪の色はまちがいなくピンクだろう。そう思った。



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