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クライマックスなう!~彼女の秘密とおれのうそ~  作者: このはな
3.彼女のひみつとおれのうそ
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 つまり、こういうことだ。

 ただの専業主婦だとばかり思っていたおれの母ちゃんは、結婚前の若いころオケラヅカ歌劇団のオケラジェンヌだったのだ。しかも伝説のスターだった。

 それから十六年後、堀越の写メにうつりこんだ、憧れの王子さまと瓜二つのおれを発見し、桃ちゃんは驚いた。いてもたってもいられず、堀越を通じてスカウト。仕事にかこつけて、おれを新しいキャラクターのスケッチ・モデルに起用する。

 かいつまんで言うと、そのような経緯であった。


「だったら、はじめから真実を教える気はなかったんですね。春夏冬さん、隠すつもりだったんですか?」

「佐古くん……」

「口コミ宣伝という答えに、新キャラの開発。ミスリードさせようと思ったんだ。おれを雇った本当の理由を知られたくなくて」

 桃ちゃんが息を呑んだ。

「おれ、一生懸命考えて答えを出したのに。それ、ずるくないですか?」


 しばらく無言になる。

「佐古くん」

 桃ちゃんは、つと顔をあげると、くちびるを尖らせた。

「だって、佐古くんったら、かわいいんだもん。お肌だってすべすべでキレイだし」

「ひえっ、マジですか?」

 こんな反撃に出るとは。はっ、反則だよっ。大いに焦りまくる。

 桃ちゃんは、悔しそうにうなずいた。

「マジだよ。パン太郎のイベントのときまで、佐古くんが女の子だったらいいなあと思ってたぐらいだもん」

「えっ、そんなに思いつめていたんですか?」

 おれは「あー」と長いタメをつくってから話した。

「もしかして、あのとき控室に入ってこなかったのは、そのせいなんですか? おれが女の子だと、疑っているんですかっ?」

「ううん、もう疑ってない。むしろ、その逆」

 桃ちゃんは即座に否定した。

「佐古くんが男の子なのはわかってる。控室のドアを開けたとき、見ちゃったから」

「はあ」

「やっぱり男の子なんだなあって、がっかりしたの。そう思ったら、自分のやったことが急に恥ずかしくなって。逃げだしてしまったの……」

 あー、そうだったのか。

 おれのせいじゃなかった。弾みでやってしまっただけなんだ。

 彼女にペットボトルを投げつけられた理由がわかって、ホッとした。


「だけど、お願いだから、誰にも言わないでね! わたしが佐古くんの顔、すごく好きなことっ。歌野さんと重ねて見てたことっ」

 と、これ以上ないぐらい真っ赤な顔をして懇願する彼女。

「年甲斐もなく大人げないことして、わたし後悔してます。ごめんなさい、佐古くん……」

 さらに消え入りそうな声で言う。

 おれの胸に、ずきゅん、と痛みが走った。


 桃ちゃんが親切にしてくれたのは、おれ自身にではなく、おれの顔にだったのか。

 かなりややこしいが、これほど明快な理由はない。すべて納得がいく。

 ただ、一言。ミーハー魂、おそるべし。


 失恋確定か……。

 がっくりとうなだれる。


 だが、待てよ。


「顔が好きだ」と言われて悪い気はしない。「顔だけが好きだ」と宣言されるよりは、断然いい。

 そうだ、ポジティブに考えよう。こんなときほど、背筋を真っ直ぐピンと伸ばすんだ。


 おれは胸を張って、桃ちゃんを見下ろした。

「いやです。おれ、口が軽いから。今だって、ほら! こーんなに口がむずむずしちゃったりしてー」

 などと言って、うそぶく。もちろん、彼女の秘密をばらす気はない。


 すると、次の瞬間、

「佐古くん、ひどい! こんなにあやまってるのにっ」

 おれのおでこを目がけて、桃ちゃんの腕がサッと伸びてきたのだ。

「また、でこピンですか? ダメですよー。おれ、打たれ強いんですから。ちっとも利きませんって!」

 余裕で軽く、ひょいっと避けた。


 いや、避けたつもりだったのだが。デスクの足に自分の足を引っかけてしまった。

「あっ!」

 バランスを崩し、両腕を左右に広げ、片足立ちになりながらも、必死に耐える。

「とっ!」

 やはり重力には逆らうことができず、ぐらっと前にからだが傾いた。

 その先には、なんと桃ちゃんが。


 薄紅色の艶やかなくちびるが目に入る。


 もっ、もしや……!

 このパターンはっ!

 ぶつかった拍子にキッスをしてしまう、嬉し恥ずかしの黄金パターンではっ。

 

 よっしゃあ、クライマックスなう、だっ!

 ドンと来おーい!


 彼女と目があう。

 そして……


 ――このあと、どうなったのかは、おれと彼女だけが知る♡



おわり


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