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クライマックスなう!~彼女の秘密とおれのうそ~  作者: このはな
3.彼女のひみつとおれのうそ
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 翌日。学校が終わると、すぐバイトへ向かった。

 今度こそ誰にも邪魔されたくなかった。固い決意を持って、会議室のドアノブを握る。

 ドアをあけるのと同時に、前方を見据える。桃ちゃんがいつもの席に座っているのが見えた。


「春夏冬さん、おれ、わかってんですからね。宿題の答えがっ」

 会議室へ入るなり、桃ちゃんへ詰め寄った。声に力が入る。

「答えはズバリ、口コミ宣伝ですね!」

「佐古くん……」

 桃ちゃんはびっくりしたように目を見張ったあと、おれの名をつぶやきながら見上げた。


「ネットでパンダ傘について調べたら、一発で正体が判明しましたよ。あの傘は、よい子の動物園シリーズの新商品でした」

「うん、それで?」

「おれ、考えました。一介の高校生が、しかも男がですよ。あんな傘をさして街中を歩いたらどうなるか。もちろん、いい笑い者です。ていうか、実際そうだったし!」

 あのときのことを今思い出してみても、めっちゃ恥ずかしいー。

 おれは室内をうろうろ歩きだした。

「パンダ傘をさした男子高校生、つまり、おれを目撃した人たちは、家族や友達、恋人などにも話したはずです。今日、変な奴を見かけたよと」

 行き止まりの壁まで行ってしまったので、やむなく振り向いた。桃ちゃんは胸の前で腕を組んでいる。

 彼女を目指して、おれは歩みをすすめた。


「広告でパンダ傘を見つけたら、あの変な高校生が持っていたのは、この傘だった! と興味をさそわれますよね?」

「おそらく」

 桃ちゃんは、こくんとうなずいた。

「口コミの宣伝効果はハンパないもの。通常の広告と比べたら効果は高いし、宣伝費も安く抑えられるしね」


 とうとう白状したな。


「やっぱり……」


 言わずにはいられなかった。気づいたときには、すでに愚痴をこぼしていた。

「ひどいじゃないですか、春夏冬さん」

 おれは彼女の前に立った。

「親切に傘を貸してくれたのは、打算があったからなんですね。そうとも知らずに、おれは喜んだりなんかして……」

「ごめんね、佐古くん。お詫びのしようがないわ」

 桃ちゃんも立ち上がった。

「でも傘がないと風邪をひくんじゃないかと思ったのは本当よ。ボールの跡が痛いんじゃないかと心配したことも」

「それだけじゃありません。おれと母ちゃんがそっくりだったからだ。あの星川なんとかと」

 ついに核心に迫る言葉を口にする。

「どうなんですか、春夏冬さん?」


「あ、あのね……」

 一瞬、手をあげて抵抗する気配を見せたものの、あきらめたらしい。桃ちゃんは途中で手を下ろした。それから、ぽつりぽつりと話しだす。

「凛々しくて、男らしくて。本当に王子さまみたいだったんだよ。歌野さんは、わたしの初恋の人だったの」

 熱に浮かされているかのような発言に、思わずぎょっとする。

「へっ、初恋の人……?」

 そこまで思い入れがあるとは予想していなかった。

 だけど、桃ちゃんは気にもとめず、話を続けた。

「でもね、男役のトップになってからは、たったの一年でやめてしまって。わたし、すごく悲しかった……」

 さっきと打って変わり、どよよーんとした重い雰囲気に。

「あ、春夏冬さん。そんなに気を落とさなくても」

「退団した理由が、やっとわかった。佐古くんの年齢と、ちょうど時期が重なるもんね」

 おれのなぐさめの言葉など、彼女の耳に入っていないようだった。

「子供だっただけに、すごくショックだったんだよ。急にいなくなった理由がわからなくて」


「ふ、ふうん」

 返事のしようがない。

「ははは……」

 視線をそらし、苦笑するしかなかった。



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