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「いったい、何をしたっていうんだよ……」
ひとりごちたあとに、おれはうなだれた。足元がぐらんぐらんと揺れているような気がする。その場にへたり込む。
なんてこったい!
大きな声で叫びそうになってしまった。けど、ここは病院だ。ぐっと歯を食いしばり、耐えるしかなかった。
そうだ。落ち着いて考えてみるんだ。
桃ちゃんが逃げるように去ってしまったのには、ちゃんとしたわけがあるはず。まずは、それがなんなのか知らなければ……。
いま一度、彼女の会話を思い出そう。どうして、こうなってしまったのか。その原因を探るのだ。
さっき、桃ちゃんはなんて言ったんだっけ。
確か、おれが「中に入ったらどうですか?」と訊いたんだ。そうしたら、彼女は「佐古くん、汗をいっぱいかいてるから……」と言って……――。
げげっ!
おれって相当、汗臭いのか? ペットボトルを投げつけられるほど、ガマンできないとかっ?
だとしたら、やばいかもしんないー。めちゃくちゃ、へこむよう。ううっ。
鼻をクンクンさせていた、ちょうどそのとき、携帯の鳴る音がした。のろのろと立ち上がり、椅子に掛けておいたコートのポケットから携帯を取り出す。着信画面を見ると、堀越からであった。
グッドタイミング。堀越は野球部だから、デオドラントについて詳しいかもしれない。よっしゃ、訊いてみよう。
喜び勇んで、携帯を耳にあてる。
「もしもし?」
堀越の声が飛び込んできた。
『おい、佐古っ。大変やぞ! 非常事態やっ』
「は? 非常事態……?」
非常事態と言うことだけあって、堀越は焦っているようだった。こんなにも動揺してる堀越、未だかつてお目にかかったことがない。
なんか、嫌な予感がする……――。
「あー、もう。どうしたんだよ。なんかあったのか? おれの方だって困ってるところなのに」
すると、堀越は『おまえのことなんか、後回しだ』と冷たく言い放った。
『なあ、落ち着いて聞けよ。さっき会社の方に連絡があってだな』
堀越の声が一段と低くなる。
「お、おう」
『おまえちの母ちゃん、倒れたんだと。救急車で運ばれたらしいぞっ。早く中央病院へ行け! そっちから行った方が近いだろ?』
「なっ、なんだって……?」
携帯がおれの手から滑り落ちた。




