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「はい? 慰安訪問……ですか?」
「うん、そうなの。さっき連絡があって、頼んでおいた人が病欠しちゃったんだ。ボランティアでやってるから内容は自由に変えられるんだけど、みんな楽しみにしてるだろうし。はあ、困ったなあ」
桃ちゃんは、かなり残念がっているようだった。
「今回行くところは、小児科専門の医療センターだったんだよ。それなのに、パン太郎を連れていけないなんて……」
がっかりとした様子でため息をつく。
なんだよ。ため息をつきたいのはこっちの方だよ。せっかく宿題の答えを見つけて、はりきって来たのに。それどころではないじゃないか。
まいったなあ。
今さら言うまでもないが、おれって、きっと、タイミングの悪い星の下に生まれてきたんだな。うんうん。
「春夏冬さん」
おれは桃ちゃんに声をかけた。
「言いたいことはわかりました。おれがその代役をつとめればいいんですね?」
桃ちゃんの顔がパーッと明るくなる。
「えっ、やってくれるの?」
「とぼけないでくださいよ。そのつもりで、おれに話したくせに」
「へへ、ばれたか」
「それで、何をやればいいんですか?」
桃ちゃんは、にんまりと笑った。
「演出はこっちに任せてほしいの。佐古くんは、ただ手を振っていればいいわ。本当なら練習する時間が必要な技術なのよ。時間がないから、ぶっつけ本番になっちゃうけど。くれぐれも変なことを考えないでね」
それが、着ぐるみパンダのパン太郎くんだった。
もちろん、着ぐるみを装着したのは初めてだ。動きにくくて、重くて、暑くて、すごく大変なんだろうなあと街中やテレビで見かけるたびに思ってた。
そして実際、そのとおりだった。ひとつの動作をとるのが精一杯で、まったく思いどおりにいかない。視界だって狭いし。こんなのを着て飛んだり跳ねたりするのは、けっこうな重労働だ。できる人は神だね、神!
ただ手を振るだけの仕事でよかったよ……――。
と、ホッとしたのもつかの間。進行役のお姉さんがマイクに向かって、とんでもないことを言いだした。
「今からパン太郎くんがプレゼントの風船を配りに行きまあす。みんな、待っていてくださいね!」
ぬわっ、ぬわんですとっ?
そんな予定、聞いてないんですけどっ。
あわてて桃ちゃんの姿をさがす。
彼女はステージの袖のところに立っていて、苦笑いを浮かべていた。
もしかして、はめられたのかっ?




