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結局、桃ちゃんが戻ってこないまま、組み付け作業は完了した。
「おつかれさまでした。失礼します」
バイトの終わる時間の七時を過ぎていたため、周囲の人たちへあいさつし、いつもの会議室へひき返す。
スポーツバッグを肩に担ぎあげたのと同じタイミングで、扉が開いた。
「佐古くん、ごめんなさい! 遅れちゃって……」
桃ちゃんだった。長い道のりを走ってきたのか、彼女の息が荒い。そういえば、パンダ傘を借りたときもそうだったな。ふと思い出す。
「だいじょうぶですよ、春夏冬さん。おれたちの割り当て分は、きちんとこなしましたから!」
彼女の負担を軽くしようと、できるだけ愛想よく笑った。
桃ちゃんは、「ありがとう」と言って、白い紙袋を取りだした。
「これ! 近くの薬局になかったから、さがしまわってたの。佐古くん、使って」
「へ?」
またしても、同じパターンだ。今度は傘ではなく、紙袋か……。いくらなんでも、対応が慎重になる。
「なっ、なんですか? その中身は。まさか、またパンダグッズなんじゃ……」
桃ちゃんは、ムッとした。
「ちがうわよ。ただの湿布と漢方薬よ。さっき、佐古くん変な顔してたから。痛いのを我慢しているんだろうと思って、買いに行ってたの」
「えっ、おれのために? わざわざ?」
「だって、顔の腫れがひかなかったら、大変だもの」
パンダ傘のときと同様の答えがかえってくる。
紙袋を受け取り中身を確認したら、湿布と漢方薬の箱が入っていた。
「あ、ほんとだ」
妙な焼きもちを焼いていた自分がバカバカしくなった。
桃ちゃんは仕事を中断してまで薬を買いに行ってきてくれたというのに。おれは器が小さい、つーの。
「春夏冬さん、ひとつ訊いてもいいですか?」
「何?」
「春夏冬さんは、どうして、こんなに親切にしてくれるんですか? パンダ傘といい、この薬といい……」
尋ねるつもりはなかったのに、気づいたら口が勝手に動いていた。




