幕間 終わりの話 終わった後の話
あの日私は魔法界を支配した悪い魔法使いの本拠地に仲間たちと乗り込んだ。とっても賢いピュアウィズダム。とっても勇敢なピュアカレッジ。とっても優しいピュアカインド。そこに私、ピュアグリッターの四人。
悪い魔法使いの親玉のイーヴィルセイジのお城は魔法界にも人間界にもない、その狭間に在った。
当然見つけたからには速攻で私たちは乗り込んだ。その先にあったのは酷く醜いものだった。
魔法界において、魔法とは大きく二つに分かれているんだ。善い魔法使いの使う夢や希望、愛の力で使う魔法。悪い魔法使いの使う、自分の為に使う魔法。
そして私たちは……私は悪い魔法使いの野望を阻止してきた。自分のための魔法を自分のために使えないようにした。つまり私は魔法を歪めてきた。
お城に入って直ぐの大広間、そこに在ったモノ。それは私が歪めてきた悪い魔法使いの怨念だった。だからそれを生み出したのは私だ。私がしてきた結果生み出されたけれど、でもだからといってそれを見ても止まれません。
怨念は城の外に逃げ出そうとしていた。だけどこれを出してはいけない。
怨念によって、人間界の大切なものも奪われてしまうかもしれないから。
だから私一人この先に進むことにした。三人には城の入口の門を閉めていてもらうことにした。私が勝ったら門を開けて出してもらう。それまでの間ずっとずっと門を閉めていてくれると言ってくれたから。
私は安心してイーヴィルセイジの、悪い魔法使いの前に立ちふさがります。
私と彼女の戦いは壮絶なモノでした。城の中でなければいくつもの宇宙が消し飛んでいたでしょう。けれどここは魔法のお城、お城の外には影響が起こりません。たとえ時間が、空間が、何もかもがねじ曲がろうとも私と彼女以外には何も感じ取れないのです。
何も気にせずに私は全力で倒すために魔法を使いました。何も気にせずに出し惜しみもなし。彼女の魔法も強大で自分で言うのもなんですが神域の戦いだったと私は思います。だから気が付いてしまったのです。私の魔法が少しずつ弱くなっている。
「気が付いたようね、世界から夢も希望も、愛すらも失われようとしていると」
力の源が世界から消えようとしている、確かに私は知っています。なにせ元々私が人間界に来たのは、人間界から失われようとしているそれを取り戻すためだったからです。
「だとしても、それでも私は夢を振りまき、愛と希望を信じてもらいたい、その為に魔法を使っている!」
これがブレてしまえば私はもう魔法を使えないと分かっているから。
「だが、世界はそれを必要としていないのだ」
だからこそ私はこの事実に折れそうになる。私が頑張ってきたことは必要じゃない事だった。いや、むしろ邪魔になることだったのだ。
「それでもなおお前は夢と希望、愛の力で戦うか。助けてくれぬ人間界と魔法界のために魔法を使うのか?」
「まるで心配するみたいに聞くんだね、だったら答えるよ」
彼女の言葉はどこか、かつて自分がそうであったかのように聞こえた。だからこそ答えなければならない。
「私は変わらない、例え世界から不要だとされてもも夢も希望も愛も、絶対に私は素晴らしいモノだと思っているから」
「……そうか、その先は茨の道だぞ?」
闇に包まれていたイーヴィルセイジが真の姿を見せる。
「……やっぱりそうなんだね、貴女は私だった。そうなるかもしれない可能性」
「えぇ、私はかつての魔法煌姫、現実の前で少女ではいられなくなったもの。貴女もいずれこうなるわ、だから諦めてしまいなさい」
鏡に映った自分そっくりの顔が目の前にある。着ている服と手に持つ杖だけが私と彼女の違いだった。それほどまでに同じ姿なのは同じ存在だから、過去に存在した未来の私。魔法煌姫だった彼女は、その存在が必要なくなった。だから自由に自分のために行動した存在。きっとそれが生きるという上では正しいのだろう。でも、私はそう告げられた時にはどう返事をするか決まっていた。
「諦めないわ、私は最後まで魔法煌姫であり続ける」
決意を秘めて、だけどあくまでもいつも通り元気に笑みを向ける。彼女は忘れてしまったのかもしれない、だけど確かに私がここにいることそのものが一つの真実を示しているのだから。
「だって私が、魔法煌姫が必要とされたから私はここにいるのよ? つまりいつかの未来でなら夢も希望も……もちろん愛も必要される日がまた来る。その時、私は胸を貼って笑うの、次代の魔法煌姫に伝えてあげる、貴女の前の魔法煌姫は諦めてないぞ、だから一緒に頑張ろうって」
だから私は諦めない、それに友達もいるし。
「そう、なら……どうすればいいか分かるわね?」
「うんっ! ピピレホズレリマリハータ! 諦めてしまった彼女に……終末を!」
解き放たれた私の魔法は確かに彼女を貫き、光の中に消滅させていく。そして消滅しきったのと同じころにはグラグラと城が揺れ始める。地震ではない、この城は大地の上にはないし、外部からの影響を受けない。だから、これはこの城が消滅しようとしている前兆。城の主が、城を支えていたものがいなくなったが故の必然。
正直なところ、私自身が成り得る可能性の彼女を殺した時、彼女とともに終わったほうが良い気がしたの。彼女も言っていた通り、とっても辛いことが待っている気がしたから。だけれども、たとえ世界が必要としなくても、私は希望と夢と愛を伝える者。そんな私がそれを否定したら格好悪いじゃない。
「……ただいまを言わないと」
それに人間界と魔法界。二つの世界で私を待ってくれている人がいる。だからここで私は城を脱出するために駆け出した。そこで私の、魔法煌姫ピュアグリッターの物語はおしまい。
終わった後? 聞いてもいい話じゃないよ。
私はそのまま城の入り口、三人がふさいでくれてた門までたどり着いた。後はここを開けてもらって脱出すればいい。悪い魔法使いの怨霊はうようよいたけれど、ぱっと開けてすぐに閉めれば問題ない。
「駄目よ、すぐに閉めればいいなんて言いきれないわ」
ウィズダムは希望の欠片もない様子でそう突き付けた。賢い彼女は私の希望は通じない。
「それにもし出てきた時に私たちで倒せなかったらどうする」
カレッジは夢を見失った様子で怯えながら口にした。支えるものが失われた彼女には私の夢は聞こえない。
「だから皆のためにそこで終わって」
カインドは愛を捨ててしまった様子で冷酷に告げる。優しかった彼女はその源を失くして、私の愛が届かない。
そのまま彼女たちはどこかに行ってしまった。もう時間はない、脱出することはできない。だからせめて―。
「私がいなくなった後の世界がどうなるのかだけ、それだけを見せて。ピカリラピリラ……未来を見せよ」
私は未来を見た、どっちの世界のパパもママも……私がいたことを忘れて笑っていた。大切な友達たちも、私がいなかったことになった楽しんでいる。……どこか空虚な笑みで、だけどそれが心からのモノになっていた。
「……ごめんなさい、ただいまが言えなくて。」
それを最後の言葉としたまま、崩れ去る城の瓦礫に私は潰された。
あの日、あの時……夢も希望も、愛もない世界で。私に手を差し伸べてくれる王子様がいたら、それがもしかしたら運命の人なのかもしれない。だけど私はいらない子になってしまった。
それはこの世界でも同じ、魔法煌姫ピュアグリッターは最終回を迎えてしまったのだから。たとえ世界が違っても、魔法煌姫は、もう誰も追いかけてくれないんだ。誰にも必要とされないんだ。




