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悪魔の館  作者: 北キツネ
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タツトが地下から出るとそこには防具に身を包んだ消防士が立っていた。

周囲には火は無いが、今も煙が上がっているため一部がまだ燃えているようだ。

そして消防士はタツトへと駆け寄るとマスクを外して声を掛けた。


「すぐにここから脱出するぞ。煙に巻かれたら命に関わる。このマスクを着けなさい。」

「はい。ありがとうございます。」


タツトは言われて差し出されたフルフェイス型のマスクを受け取り顔に装着した。

消防士はちゃんと装着されている事を確認するとタツトを誘導して外へと向かって行く。


「ここで何があったんだ!?」

「ここで行われたイベントに参加している時に猟奇殺人者に乱入されまして。色々とあってこの有様です。」


廊下を進んでいる最中にもそこかしこに犠牲となった人の手足が転がっている。

消防士もそれを見て息を呑むと外に出るまで無言になってしまった。


「俺はこれから更に生き残りが居ないか確認してくる。」

「頑張ってください。」


すると消防士はタツトの飄々とした態度に変な顔になりそのまま行ってしまった。

その心中には恐怖の果てに精神を病んでしまったのだろうと思っていたが、そこは口に出さずに呑み込んだようだ。

そして、外に出てすぐに別の消防士が駆け寄って来ると毛布でくるんでテントのある方向へと連れて行った。


「みんなお待たせ。」

「タツトさん!」


そこにはアケノ達も集まっており生き残った全員が揃っていた。

ただ奥の方では偶然で生き残れた女性が5人居るようだが、全員がベッドに横になって眠らされている。


「あそこのは?」

「彼女達は館から逃げ出した後に手が付けられなかったのでミヤさんが眠らせてくれました。」

「お前・・・いったいどれだけ変な物を持ち込んだんだよ。」

「役に立ってるから良いでしょ。」

「それよりもそちらは上手く行ったのか?」

「ああ。意外と話せる奴で助かったよ。」

「そうなの?それで何をお願いしたのよ。まさか自分だけが幸せになる様な事じゃないわよね。」

「その男はとんでもない願いを口にしたのだ。」


すると先程まで誰も居なかった場所に突然1人の男が姿を現わした。

見た目だけなら好青年だが登場の仕方から人間でないのはここに居る全員が分かっている。

そして傍にある椅子を引き寄せて座ると尊大な態度で足を組んだ。


「我はサタン。今回の事を計画した真の主催者である。今はそこに居るタツトの願いによってこうして現世へと顕現する事が出来た。」

「どういう事ですかタツトさん!もしこの人が魔王なら世界は滅びてしまいますよ!」


するとアケノはタツトの腕を掴むとその顔を睨むように見詰めた。

その様子にタツトは微笑みサタンは大きな声を出して笑い声をあげる。


「まあ待ってくれ。俺がサタンをこの世界に顕現させたのには理由がある。」

「そうだ。そいつは俺をこの世界に顕現させたが、それには条件が付いている。」

「サタンにはこの世界に居る間は善人として人を助けるように願った。」

「しかも期間はその男の血が耐えるまでだ。その後は好きにしても良いと言われてな。泣く泣くその提案を受け入れたのだ。」

「そ、そうだったんですね。まさかサタンにそんな願いをするなんて思いませんでした。」

「我もこんな願いをされたのは初めてだ。今までは全能のカリスマ性が欲しいや、国の支配者になりたいなど、自身の欲求を満たす事ばかりだったからな。しかし、一部に関してはお前の願いは正しかったと言えよう。」


そう言ってサタンが指を鳴らすとアケノの体に黒い光りが灯った。

しかしそれはすぐに消えてしまい見た目では変化があるようには見えない。

それでも本人にとっては大きな変化があり、その顔は驚きで染まっている。


「胸の苦しさが消えました!」

「まさか!」


ミヤは置いてあるカバンから聴診器を取り出すと人前である事も気にせずにアヤネの服の下から差し込んで音を確認する。

するとさっきまでは聞こえていた異常音が消え、正常な心音と呼吸音が聞こえてくる。


「サタンが病人を助けたって言うの!?」

「だから善人を助けるのが契約なのだよ。」

「え?なら・・・私は・・・本当に・・・。」

「魔王サタンの名において宣言してやろう。お前の病は既に治っている。これからはタツトの子供をバンバン産まねばお前たちが生きている間に我がこの世界を滅ぼしてしまうかもしれんぞ。ハーハハハ!・・・『スパーン』イテ!」

「急に何言ってるんだ!」


するとタツトは何故か傍のテーブルに備え付けられていたハリセンを手にすると見事な動きでサタンの後頭部を叩いた。

サタンは後頭部を擦りながらタツトに恨めしそうな目を向けるとニヤリと笑って爆弾を投下する。


「お前、我に願いを言う前に真先にそこの女の事を考えていたではないか。」

「お前何言ってるんだ!」

「そこの女もタツトがここに来た時に頭の中がお前で一杯になっていたぞ。」

「な、何を言ってるんですか!?」

「てっきり両想いだと思っていたのだが、これでは仕方ない。流石に数十年では忍びないのでリリスを再召喚して子供でも作らせるか。」

「ダメーーー!タツトさんは死ぬまで私と居てくれるって約束したんです!誰にも渡しません!」

「ちょ!何言ってるんだ!?あの時は恋人に立候補してくれただけだろ。」


するとタツトの左右からミヤとクレナイが挟み、その肩に手を乗せる。

その顔には揃ってニヤケた顔が貼り付いており、向かいにいるシロウは何故か火炎瓶とライターを取り出していた。


「女の子にここまで言わせといて逃げられるとでも思ってるの?」

「男は諦めが肝心であるぞ。人生の先輩である俺がレクチャーしてやろう。」

「リア充は爆発すれば良いと思います。」


するとサタンまで立ち上がるとタツトの手を力強く握り締め、アケノの手はまるで1輪の花にでも触れるように優しく持ち上げる。

そしてそのまま互いの手を触れさせるとまさに悪魔の笑みを浮かべて言葉を呟いた。


「汝らに魔王の祝福あれ。神や悪魔が如何にお前たちを引き裂こうとしたとしても、女が許すまで死さえも二人を別つ事はない。」

「おい!それの何処が祝福なんだ!?」

「祝福です!」


タツトがサタンへと声を荒げているとアケノが触れている手を握って返した。

その顔には先日までの慎ましい雰囲気は消え去り、まるで獲物を狙う肉食獣の様な表情が浮かんでいる。


「おいサタン。アケノが豹変してしまったぞ。」

「まさに狩りを楽しむ獣のような目だな。さて、我はそろそろ人助けの為に旅立つとするか。」

「おい!お前の責任だろうが!」

「お前こそ男としての責任を取れば良いだけだろう。」


そして2人の醜い言い争いはしばらく続き、結果としてアケノと連絡先の交換をする事になった。


「それでは私は家に帰ってお父さんとお母さんに連絡をしてきます。」

「俺も一旦は家に帰るよ。着いたら連絡をするから。」

「私もです。」


その後二人はそれぞれに別れると一月ほどは平和な日が戻っていた。

しかし呪い・・・祝福の力はとても強く、その頃には大きな変化が起きようとしていた。


「ねえ、タツト。ずっと売れ残ってたお隣のお家がようやく売れたそうよ。」

「へ~。これでこの周辺は売れ残りはなくなったね。」

「そうね~。昨日ちょっと会ったけど気の良い両親と娘さんが居たわよ。何でもタツトと同じ大学に入学するらしいわ。もうじき挨拶に来るそうだからお出迎えお願いね。」


タツトは母親に言われて寝そべっていたソファーから起き上がると仕方なく服を整えて準備を行った。

しかしアケノの件があるので出会いという面では期待が持てず、今日も彼女とのやり取りは絶好調だ。


「なんだかアケノの奴、今日はやけにウキウキしてるな。」


いつもはあまり絵文字やスタンプを使わないアケノが今日はそれらを多用している。

そのためとても女の子らしくなっており、タツトもそれに合わせて返信が鮮やかに変わっていた。

ただし昨日から時々送られてくる風景写真だけがちょっと意味が分からない所である。


「なんだか見覚えがある気がするんだよな。」


送られてきている写真を順に見て行くと、最初は分からない所ばかりだが次第に分かる様な気がしてくる。

しかもとても近所で最後は歩けば10分も離れていないショッピングセンターのような気がしていた。


「まあ、系列が一緒なら何処も似た様なもんだよな。」

『ピンポーン。』

「タツトー。来たみたいだから出てあげて。娘さんも一緒だと思うから粗相がないようにねー。絶対に粗相をしないのよー。」

「分かってるから2回も言わないでよ。相手に聞かれる方が恥ずかしいだろ。」


しかし扉を開けるとそこには見覚えのある女性が朗らかな笑みと共に立っていた。

その横には同じ様に朗らかな笑みを浮かべた男性も立っていて、両方とも一児の母と父とは思えない若い見た目をしている。

そして、その2人に挟まれる様にして立っているのは紛れもなくアケノであった。


「あれ?もしかして家族旅行とか?」

「酷いよタツト。今日からお隣さんだよ。」

「フフフ、直接会うのは初めてね。貴方が娘のフィアンセで良いのかしら。」

「あの、色々と話が見えないんですけど。」

「まあ、詳しい事は中で話そうか。もちろん入れてくれるよね。」

「もちろんです。」


そしてアケノは家族と共に中へと入ると居間へと向かって行った。

ただ急な来客で椅子が足りず、タツトとアケノは体を寄せてソファーに座り、その他は食卓の椅子へと座っている。


「それでは説明に入ろう。まず、私の務めている会社が買収されてね。急にこちらの会社へ移動になった。」

「あの・・・全然話が見えません。」

「その会社だが先日社長が急に代わってね。新社長がサタン。副社長がリリス。役員にミノタウロスとラミアという変わった名前の方が在籍しているんだ。」

「・・・もう分かりました。色々とすみません。」

「いや、ハッキリ言って恨んでいるとか怒っていないんだよ。以前の会社も色々と負債を抱えて倒産も時間の問題だった。それに会社を移って給料は上がったしサービス残業は無いしで雇用条件はまさに天と地ほどの差がある。そのおかげでこうして銀行からお金を借りて家も買えた訳だしね。」

「ただちょっと場所の指定があっただけよ。でも家具は買い揃えてくれたしキッチンは最新の物を入れてくれてるの。」

「お母さんは専業主婦だけど料理上手で本も出してるのよ。」


そう言って見せてくれた物はタツトも一度は手に取った事のある程に有名な物だった。

更に言えばキッチンの傍の本棚にはこれではないが同じ作者の本が何冊か置いてあり、ここの家では基本の味付けとなっている。


「アケノのお母さんは有名人だったんだな。」

「ウチの家計はお母さんが回してくれてたから。」

「お父さんも頑張ってたんだぞ。」

「知ってるよ。でもお母さんに頭が上がらないんだよね。」

「グフ!」


その言葉に父親は呆気なく撃沈されてしまいテーブルへと沈んでいった。

その事からこの家族の中で決定権があるのは母親で間違いなく、その目は既にタツトへと向けられていた。


「それで、先程の話の続きですがアケノから話は聞いています。こちらとしても娘が良いなら反対はしません。どうか娘をお嫁にしてあげてください。」

「しかし、俺はまだ二十歳の大学生ですよ。将来も決まってないのにそんな大盤振舞をしても良いのですか?」

「その言葉だけでも貴方がアケノを高く評価しているのが分かりますから問題ありません。少し前まではウエディングドレスを着せる事も諦めていたのです。それが出世頭であり、アケノが決めた相手なら親としては大賛成です。」

「それなら有難く頂きます。俺としてもアケノなら申し分ありませんので。」


タツトはそう言ってアケノの肩に手を回すと自分へと引き寄せた。

その突然の展開にタツトの母親だけは付いて行けず周囲をキョロキョロとしている。

しかし、今の会話の中でタツトには1つだけ分からない事が存在していた。


「それで俺が出世頭なのは誰に聞いたのですか?」

「それは夫の会社の新副社長であるリリスさんからです。どうやらあなたは彼女から高い信頼と評価を受けているようですね。」

「そこでどうして俺を睨むのかは分かりませんけど、それは買い被りですよ。」

「リリスさんは貴方が卒業したら何処に逃げても絶対に逃がさないと言ってましたよ。そういえば傍に居た役員のラミアさんも頬を染めて似た様な事を言ってましたね。」

「だからどうして俺を睨むんですか?話を聞いているならその2人が人間でないと知ってるでしょ。」

「しかし、悪魔だからこそ老いない事は大きなステータスです。今後は気を付けて・・・。」

『ピンポーン。』


するとそこで再びチャイムが鳴らされ来客を知らせて来る。

そこでタツトの母親が気を利かせて立ち上がると玄関の方へと向かって行った。


「は~い。どちら様ですか?」

「タツト様にお届けものです。」

「・・・この声は!母さん開けちゃダメだ!」


しかしタツトの言葉は既に遅く、扉は開け放たれた後だった。

そして外には赤いレディースーツに身を包んだリリスと、ゴスロリ調のメイド服に身を包んだラミアが立っていた。


「お招きに感謝します。」

「お邪魔します。」

「え?」


そして、2人は家の中にズカズカと上がるとそのまま居間へと、正確にはタツトの許へと飛び込んでいく。

ただし、その姿は既に人ではなく、背中に翼を持った美女と、下半身が蛇の美少女である。


「やっぱりお前等だったか。それで、なんでリリスは昼間に出歩けてるんだ?お前はバンパイアだろ。」

「サタンにお願いして空を曇天に変えてもらったのよ。それに今の時代にはUVカットをする手段なら幾らでもあるのよ。」

「良いから離れろ。それにメイド。お前は姿を考えろ!家の床が抜けたらどうするんだ!」

「その時はこの家を新築に建て替えるだけです。そうすれば皆で住めるようになります。それに貴方とキスを・・・ファーストキスを貰った時に私の血を混ぜて仮契約をしました。今のタツトは仮と言っても私の主です。私を好きにしても良いのですよ。」

「それなら私はセカンドキスを貰ったのよ。その時にちゃんと私の血を与えたのだからあなたは私のご主人様なの。」

「キス・・・貰った!?」

「落ち着けアケノ。あれは貰ったんじゃなくて奪われたんだ!だから横腹を抓るな!」

「なら私はサードキスを貰いますね!」


するとアケノはそのまま顔を近付けるとタツトの唇を奪った。


「これで・・・。」

「なら私はフォースキスを。」

「狡いわよラミア!それなら私はフィフスキスを!」

「何で二人とも私のタツトにキスをしてるんですか。まあ、私はシクスキスを。」


ここまで来ればキスの大バーゲンとなっていた。

タツトの方はと言えば既にラミアによって拘束され体が動かせず、抵抗も出来ない状態にされてされるがままだ。

主と言われながらも命令も聞いてもらえず、タツトが諦めるのに時間は掛からなかった。

そして、しばらく玩具にされたのちに解放されるとようやく会話が再開された。


「それで、お前等は何をしに来たんだ?」

「大まかな話は聞いたと思うけど、簡単に言えばあなたにツバを着けに来たのよ。」

「ああ、俺の純情は存分に穢されたよ。」

「そういう意味じゃなくて、タツトをうちの会社に入れるためによ。それにこれから色々と大変だろうから護衛も必要でしょ。」

「護衛?何のためのだよ。」

「だってあなたはどんな形であれサタンを現世に解き放ったのよ。」

「既に関係各所はその事実を知って動き始めています。宗教団体は既に貴方の首に懸賞金を掛けていますし、悪魔崇拝者は教祖にしようと動き始めました。神と天使に至っては命だけでなく魂の消滅まで画策しているようです。悪魔と他の魔王たちも強い興味を持って動き始めています。」

「もしかして俺って狙われてる?」

「サタンの顕現にはそれだけの影響力があるのよ。これから世界が面白くなりそうね。」

「俺は全然面白くないんだけど・・・。」

「でも私達と本契約すれば大丈夫よ。サタンの呪いで魂は貰えないけど、消滅するまで一緒に居られるようになるわ。こんなサービスはもう一生ないわよ。」

「俺はその一生がもうじき終わりそうなんだが・・・。」

「大丈夫です。私もあと少しの命でしたけど頑張れば道が開けました。」


しかしアケノの励ましはタツトにとって何の解決にもなっていない。

そして彼も最後は諦めて溜息を吐くことしかできなかった。


「まあ、何とかなるか。そういえば何で俺がサタンを顕現させたことになってるんだ?」

「「・・・。」」

「もしかしてお前等!」

「あちらで自慢したのがまずかったみたいね。」

「でもサタン様も色々な所に乗り込んで大々的に叫んでいました。私達に会社の乗っ取り・・・ゴホン。経営を任せて世界中を飛び回っていたので困りものです。」

「お前等に個人情報保護法はないのか!?」

「「だって悪魔ですから。」」



その後、タツトは学生の間に色々な経験を積まされ、立派な悪魔使いサラリーマンの道を歩いた。

あの時に出会った他の仲間ともなんやかんやで再会を果たし、バイオレンスな人生を生き抜きましたとさ。


【お終い】

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[一言] いい意味でカオスで面白かったです! ただ、全然怖くはなかったけど……。
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