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31話:盗賊との遭遇

 


 イデアの街はアルファルマを出て北に真っすぐ進んだ方向にある。アルファルマに滞在していた旅人や商人もよくイデアを次の目的地にする傾向があり、交流も多い。ただし道中は平原が少なく、高低差の多い丘などが連なっている為、簡単には辿り着けない場所にある。馬車を使うか、安全で進みやすい遠回りな経路を使うのが基本的な移動方法となる。

 今回アシリギとクロアは歩きでの移動を選んだ。それも遠回りではなく、馬車が使う経路と同じ真っすぐの道のり。途中森や山があるそれなりに険しい経路であった。


「はー、疲れたぁ。アシリギー、何で馬車じゃなくて歩きを選んだのー? 結構きついんだけど」


 途中で川が流れている森の中で休憩を取り、クロアは経路についての不満を述べる。

 小柄な彼女からすればこの経路はかなり険しく、足に疲労が溜まる。荷物も多い為、はっきり言ってもう限界であった。


「この時期馬車は値が張るから借りるのは難しいからな。それにこの辺の道はまだ見てなかったから、スケッチにはもってこいだろ?」

「もー、結局絵が描きたいだけってことでしょ」

「まぁ、要約すればそういうことだ」


 そう言いながら今もアシリギは周りの風景を観察してスケッチを取っている。彼からすればまだ足を運んでいない場所は全て天然の資料と同様なのだ。

 そんな通常運転過ぎるアシリギを見てクロアはため息を付き、汚れていた手を川で洗ってハンカチで拭く。


「こんな調子で大丈夫なの? 日が暮れちゃうよ」

「大丈夫だ。途中で村があるから、そこに泊る」


 イデアまでの道のりには途中に小さな村がある。そこは商人などもイデアに向かう途中に滞在することがある為、アシリギも厄介になるつもりだった。


「クルル、クルルルッ」

「お、珍しい。黄金鳥が居るぞ」


 ふと木の枝に一羽の鳥がとまる。尻尾が長く、黄金の羽毛で覆われた美しい鳥。だがその瞳はどこかツリ目のようになっており、人を小馬鹿にしたような顔にも見える。


「わー、すっごい綺麗な鳥だね。人族の大陸にはこんなの居るんだ」

「ああ、でも気を付けろよ」

「へ?」


 クロアは思わずその美しい羽毛に目を奪われるが、アシリギは警戒して荷物を黄金鳥から離す。すると次の瞬間、黄金長は凄まじい速さで木を飛び降り、クロアの足元まで移動すると彼女が持っていたハンカチを奪い取った。


「クルルルゥ!」

「え、あっ! ちょっと……!? ハンカチ盗られた!」


 クロアが反応する暇もなく、黄金鳥はまた木の上に登ってしまう。そしてクロアから奪ったハンカチをくちばりで突いたり引っ張ったりして遊び始めた。


「美しい金の羽で有名な黄金鳥。だが別名は盗み鳥。美しい見た目に反して人の物を羨ましがり、盗んで自分の物にする性格の悪い鳥だ」


 そう説明しながらアシリギはこんな状況でも余裕でスケッチを続ける。むしろハンカチを奪う瞬間の黄金鳥を描いており、良い絵が見れたとご機嫌だった。


「もー、返してよー! 鳥さーん!」

「クルルルーン」


 クロアは慌ててハンカチを取り返そうとするが、大声を上げても黄金鳥は全く気にせず、ハンカチを弄って楽しんでいた。

 仕方なくアシリギは金の筆で綺麗な刺繍の施されたハンカチを創り出し、それで黄金鳥を誘う。すると黄金鳥はそれに反応し、クロアのハンカチを放るとアシリギのハンカチを奪ってどこかへと飛び去ってしまった。

 クロアはハンカチを取り返せたことを喜び、アシリギはやれやれと首を振りながら筆をしまう。そうしてようやく再出発しようと歩き出した時、突如彼は動きを止める。


「……ん?」


 アシリギの様子を見て不審に思ったクロアも背負おうとしていた荷物を置いたままにし、警戒する。


「どうしたの?」

「いや……なんか、気配が……」


 何か妙な感覚がした。何者かに見られているような、気になる感覚。それが何なのかを探ろうとアシリギは周囲の気配を読み取る。すると、あることに気が付いた。


「----あ、まずいコレ」


 アシリギがそう呟いた瞬間、突如風を切る音と共に矢が飛んでくる。すぐさまアシリギはその場から跳んで矢を避けた。


「……ッ! なにこれ!?」

「見りゃ分かるだろ。攻撃されてんだ!」


 更に矢は何本も飛んでくる。アシリギはその矢を避けながら飛んでくる方向を確認し、クロアを引っ張って近くの岩に身を隠した。それでも矢は放たれ、アシリギ達のすぐ傍の地面に突き刺さる。

 かなりの精密射撃に、矢の本数からしてかなりの人数。それを読み取ってアシリギは忌々しそうに舌打ちをした。


「運が悪いな。盗賊共だ」

「え、ええ!? 盗賊? それって、まずくない?」


 岩から顔を覗かせ、矢の飛んでくる方向を見て敵の様子をアシリギは確認する。敵はボロボロのローブに身軽そうな格好をした盗賊達。奇妙なことに、盗賊達は顔に長い角を生やした鬼のお面を被っていた。盗賊にしては随分と派手な見た目である。


「ちっ……よりによって〈鬼の盗賊団〉かよ。面倒臭い奴らに目を付けられたな」


 人目見ただけで分かる特徴的過ぎるお面。それを見てアシリギは彼らが鬼の盗賊団と呼ばれる集団だと気が付く。それは最近巷で有名な厄介な盗賊団のことであった。


「鬼? なにそれ。オーガとか出てくんの? というかどういう盗賊っ?」

「はっ、そんなの気にするな。お前は覚える必要なんてない」


 不安げな顔をしているクロアの額をデコピンと叩き、アシリギは懐から金の筆を取り出す。そして矢が飛ん来る中、勢いよく岩から飛び出した。


「これから滅びる盗賊団の、名前なんざな!」


 金の筆を振るい、空中に金の線を描く、すると描かれたものは光り輝き、アシリギ達の目の前に巨大な壁が出来上がった。




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