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18話:共闘



「冒険者のレオンさんですね? 仲間はそこのお嬢さん一人だけですか?」

「えっ、ぁ……もう一人アシリギって奴が居るけど、あいつは岩の上で絵描いてて……」

「ああ、あの人ですか……」


 女神官はまず状況を確認する。そして冒険者であるレオンから戦力を聞き出し、遠くの岩の上で観察しているアシリギのことを発見する。だが彼が今は戦闘に参加する気がないことをすぐに理解すると、竜の方へと視線を戻した。


「なら貴方達は出来るだけ散らばならないようにしてください。あとお嬢さんの方は氷魔法が使えますね? それで防御を宜しくお願いします」

「お、おい! マリー。まさかこんな冒険者共と共闘するつもりか!? 僕は選ばれし勇者だぞ!」


 女神官がレオン達に指示を出していると、勇者がそれに不満の声を上げる。

 プライドの高い彼からすれば選ばれた自分は選ばれた仲間とだけ戦う。それ以外は役立たずと考えているのだ。だが女神官は鋭い目つきで彼のことを睨んだ。それに驚き、勇者は思わず一歩後ろに下がる。


「勇者様、今私達にそんな余裕はありません。既にこちらはアンジュとロックが戦闘続行が不可能な程負傷しています。ここは生き延びる為にも、共闘するべきです」

「ぐっ……う、ぅ……!!」


 女神官はきちんと状況を理解し、自分達が今からどのような行動をするのが最善かをしっかりと考えていた。正論を言われた勇者も彼女に反論することが出来ず、辛そうに歯ぎしりをする。言葉が見つからず、まるで子供のように悔しがっていた。

 異論がないことを見て女神官もこれ以上議論する気はなく、クロア達の方へと顔を向ける。


「ということで、お二人は構いませんか?」

「あ、ああっ……もちろんだ!」

「私も、構いません……!」


 レオンとクロアからも了承を取り、女神官は満足そうに頷く。そして杖を握り直すと、眼前で咆哮を上げている竜の方に視線を向けた。


(とは言っても、やはりあの芸術師の力は貸して欲しいものですね……出来れば早くスケッチの方を終えて欲しけれど……)


 協力関係は築けたものの、伝説の竜を相手に考えればまだまだ戦力不足。勇者という切り札はあるが、それはまだ不完全な手札であり、満足に効力を発揮することは出来ない。ならばもう一枚必要なのだ。その頼りとなるのは、やはりアシリギであった。だが彼はまだ戦う気が起きていない。そもそも戦うつもりもないのだろう。女神官もそれを理解し、諦めたようにため息を吐く。


「人間風情が。どれだけ徒党を組もうとも絶対たる竜の前では全てが塵同然よ!!」


 再び竜は動き出し、翼を動かして突風を巻き起こす。辺りに残っていた岩が吹き飛ぶ程の風圧が押し寄せ、まるで竜巻のような勢いを纏う。

 それを見て瞬時に女神官は杖を地面に打ち付け、光の壁を展開する。全員その後ろに隠れ、突風の影響から逃れようとした。


「ぐぅぅぅ……ッ!!!」


 光の壁にとてつもない重圧が掛かり、女神官も自身の魔法が不安定になるのを感じる。だが何とかそれに耐え、必死に杖を握り締めた。

 やがて突風が収まり、何とか竜巻の攻撃を切り抜ける。だが竜からすればその攻撃は準備運動に過ぎず、今度は前足を動かして鋭い爪をクロア達に振り下ろした。


「斬り刻んでくれる!!」

「ッ……飛翔、雪魔鷹アイスホーク!!」


 今度はクロアが前に飛び出し、鋏を振るって巨大な氷の鳥を三羽創り出す。一羽目で竜の爪の勢い緩め、二羽目で完全に相殺する。そして三羽目は竜の頭部へと向かっていき、直撃すると氷の大爆発を起こした。


「ぬぐぅ……!?」

「今です!」


 氷の爆発を以てしても竜には大したダメージにならない。だが僅かに動きを止め、隙が出来た。その瞬間勇者が飛び出し、得意の聖剣を振るう。


「うぉぉぉおおおおおお! 正義の一撃ジャスティスフィニッシュ!!!」


 聖剣が神々しく輝き、光の斬撃が放たれる。それは竜を覆う程巨大で、眩い輝きであった。珍しく威力が出たのか竜も怯み、衝撃波によってその巨体が僅かに後ずさる。


「むぅぅぅ!? 小癪なぁあ!!」

「今日は調子が良いですね。勇者様」

「当然だ! 僕を誰だと思ってる!?」


 竜の頑丈な皮膚に傷を付ける程ではないが、かすり傷程度ならば出来た。それだけも竜にとっては耐え難い屈辱であったようで、口から炎を揺らめかせ、怒りを露わにした。


「調子に乗るな! 虫けら共が!!」


 姿勢を低くしてピンポイントでクロア達に炎を吐き出す。それに気付いたクロアと女神官は同時に防御魔法を唱え、氷の壁と光の盾を出現させる。炎はそれに直撃し、二本に別れて後方へと飛んでいく。


「くっ……うう!!」

「踏ん張ってください! 破られれば丸焼きにされますよ!」

「わ、分かってます!」


 横方向から襲って来る熱風に耐えながらクロアと女神官は必死に耐え続ける。殆ど目を開けていることも出来ない程炎の威力は凄まじく、満足に呼吸も出来なくなる程であった。


「う……あっ!」


 やがて炎が収まり、同時に氷の壁も溶け消え、光の盾もバラバラに散っていく。クロアと女神官も限界だったようで、攻撃が収まったことを知るとその場に膝を付いた。


「はぁっ……はぁ……今のは、危なかったですね……」

「くっ……ここまで強いだなんて」

「二人共、一旦下がってくれ! これ以上正面からやり合うのはまずい!」


 体力を消耗している二人の前にレオンが立ち、再び煙幕玉を投げる。辺りが煙に包まれると同時にクロア達は一度後方へと下がり、身を隠せる場所がある岩場へと移動した。


「ぬうっ……また同じ手を。芸の無い蠅共め」


 竜は舞っている煙を見て忌々しそうに尻尾を地面に叩きつける。だがすぐにクロア達のことを探そうとはせず、翼を振るって煙を払っていた。流石に何度も炎を出し続けれていれば疲労するのか、それとも竜特有の余裕なのか。動きはゆっくりとしたものとなっている。


「はぁ、はぁ……やばいな! 何なんだあの化け物は……! 僕の必殺技が効かなかったぞ!?」

「だ、大丈夫ですか勇者様? ご無理をなさらず」


 一旦岩陰へと避難した勇者は己の攻撃が通用しなかったことにショックを受け、女騎士がそれを励ましていた。

 勇者自体はまだ中途半端な実力だが、仮にも竜と同じ伝説の聖剣。その攻撃でも竜の皮膚にかすり傷程度の影響した与えられなかった。その事実に他の仲間達も衝撃と恐怖を覚えていた。



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