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魔法書を作る人  作者: いくさや
後日談猫

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217/238

後日譚猫8 歓迎会

一話前に活動報告で書いたSSを転載しております。

よろしければご覧ください。

 8


 その場所に対する第一印象、というか最初の感想は。


「何もないな」


 だった。

 公爵邸跡地。

 もう十年以上前に僕のロケット頭突きでできたクレーターはそのままだ。

 どうも第八始祖の軌跡として残されているらしい。敷地には柵が設けられて簡単には入れないようになっていて、正面の位置には記念碑まである。


『オーズベルク公爵邸跡地

 第八始祖シズが逆賊ケンドレット家の一派を制裁した場所。初めて魔法を使用した場所は学園という点は揺るがないが、その類稀なる威力の魔法を初めて披露した場所でもある。

 たった一度の魔法でこれ程の破壊を為しながら、敵対した逆賊を一人も殺める事無く収めた事実からも、第八始祖シズの非凡さと慈悲深さが感じ取れる』


 とか、そんな事が書かれていて、恥ずかしいです。

 違います。僕、その時は気絶してました。殺すつもりなんてなかったのは本当だけど、死者が出なかったのは偶然です。慈悲じゃありませんー。

 美化されてるんだろうなあ。


 どうにも第八始祖シズの軌跡として、僕の破壊の傷跡が各地で記念というか、観光スポットになっている。

 結果的に、都市間を最短距離で結ぶ各地の『シズ街道』は役に立っているから見ない振りできるけど、こういうスポットはちょっと居た堪れない。


 魔の森で僕が二十倍『流星雨』で壊滅させた場所なんて、今は花畑になっていて、流星の花園とか呼ばれてるんだって。うわー、メルヘン!


 さすがに夜は誰もいないけど、昼間はかなりの人が観光に訪れると噂で聞いている。

 そんな場面を目撃した日には、僕は膝から崩れ落ちるかもしれない。

 うん。これからも昼間は絶対に近づかないぞ。夜だけだ。

 いや、こんな何もない場所なんて好んで来たりしないけどね。


 まあ、やってしまった事は仕方ない。

 その時その時でやれる事をしてきた結果だ。それを人がどう評価するかは自由だろう。

 意識と気持ちを切り替えよう。

 と、したところで欠伸が漏れた。


「ふあぁーーあ。んー。眠い」


 既に東の空から夜の気配が遠のき始める時刻。

 夜空が藍色へと色調を移し始めていた。

 一日徹夜したぐらいでダウンするような鍛え方はしていないけど、眠気がなくなるわけじゃない。

 早く終わらせて帰ろう。


 手元の地図に視線を落とす。

 一晩の内に『日影の底』の潜伏場所はかなり壊滅できた。

 宿屋や酒場に商店、娼館や空き家まで。実に多彩な隠れ蓑を用意していたけど、どれも小細工なしに突撃しておいた。


 いやあ、出るわ出るわ。

 自称警備員さんたちを蹴散らした先には構成員。

 こちらも見事なラインナップが揃っていた。いかにも小物っぽいチンピラから、場数を踏んだ厳つい強面に、幹部の風格を持つ正装の年配。

 そんな人たちに、(実体験と言う名の)師匠直伝の殺気を叩きつけて、情報を吐かせるという簡単な作業なのだけど、なにぶん数が多かった。


「裏づけぐらいしか情報、出てこなかったかあ」


 既にクレアやルネ、王様から聞いた話ぐらいしか情報が出てこない。

 あれは悪党の意地でしゃべらなかった、とかじゃないだろう。単純に知らされていないだけだ。


 並の殺気でもケロッとしていたロマンスグレーの幹部に、対魔神用の殺気をぶつけたら半狂乱になって暴れ出したんだけど、それでも知らないの一点張りだったし。

 最後なんて涙やら鼻水やら、色んな体液を垂れ流しながら、どうか信じてほしいと頼み込んできたぐらいだし。

 あれが演技だとしたら闇組織から足を洗って、劇団の門を叩いた方がいい。きっと名優になれる。


 そうして虱潰しにして得た成果は『横の繋がりが薄い』という事ぐらい。

 指示は上からの連絡員が不定期にやってくるだけ。定期連絡はそもそもないし、結果報告の義務もない。

 連絡員もバラバラ。どう考えても一般人にしか見えない人間が指示書や伝言を持ってくるのだとか。


 実際、自分の管轄以外だと他の幹部の実態も知らないという。

 どういう組織だ、それって感じ。

 幹部と言っても下請け会社の社長みたいだ。

 大会社の傘下ではあるけど、他の同じような子会社とは関わりがないみたいな?

 やっぱり、おじいちゃんにやられた時の事を警戒しているんだろうな。先人に倣って真似してみたけど、対策済みらしい。


「まあ、どちらにしろ悪事は働いていたんだから、潰したのは無駄じゃないけど」


 どうやら王様が手配してくれたらしい騎士団が、僕の斬り込んだ先を制圧してくれるので手間が省けたよ。

 王国としても介入する口実ができた上に、重要人物を確保できたのだから、お互い様なんだろうけどね。


 潜伏先の施設の実態を知らないまま利用している一般人もいたのは申し訳なかったけど、その辺りのフォローも騎士団が請け負ってくれて本当に良かった。

 いや、下手すると例の麻薬の犠牲になっていた可能性があったから、感謝してほしいとは言わないけど、納得してほしいな。


 ほとんどの丸印に×が付いたのを確認して、地図を畳んでポケットにしまう。


「やっと来てくれたよ」


 いつの間にか。

 柵の向こう側に十人近い人間が現れていた。

 全員が似たような黒衣を纏っている。ふんわりと余裕のあるデザインで、着用者の体格はおろか、性別さえも読み取れない。

 この時間に、この服装。観光客ではあるまい。

 僕を狙った襲撃者じゃなかったとしても、邪教徒の黒ミサとかだろう。


「まさか八割壊滅するまで出てこないとは思わなかったけど、よかったの?」


 話しかけても返事はない。

 まあ、こっちも期待していないからいい。


 向こうも自分らが誘われているのはわかっているだろう。

 それでも誘いに乗って来たのは、罠と知っていても仕掛けるメリットがあるから、かな。

 『日影の底』は僕の戦力を把握したがっているから、こうやって派手に暴れてから一人っきりになれば来てくれると思ったんだ。


「会話するつもりはない、と」


 柵を軽々と乗り越えてくる十人。

 その何気ない身のこなしで腕前を感じ取れた。

 全く音も立てない挙動。ぶれない重心。荒事を前にしても凪いだ気配。

 一般的な武人とは異質の風格。


 暗殺者、かな?

 それも個人じゃない。暗殺集団。

 揃いの出で立ちに加えて、計ったように同じタイミングで抜いたナイフは同型で黒塗り。


「もしかして、連絡員って君たち?」


 唯一の上層部――首魁との繋がり。

 そこに腕利きを集めるのは理解できるけど、暗殺集団を使っているのだとしたら発想がおかしいぞ。


「―――」


 やはり返事はない。

 代わりに放たれたのは、正面と後方左右からの同時襲撃だった。

 なんの合図もなく仕掛けられた連携攻撃には舌を巻くしかない。


 襲撃者三人の腕前は高い。

 速い踏み込みからの、無駄のない最速の攻め。


 正面は顔狙いと見せかけての下段薙ぎ。

 気配で読み取るに、後方右は頭上への振りおろし。

 後方左はシンプルな腰だめで構えての胴体狙い。


 同じタイミング。

 上・中・下段。

 横・縦・突きとまったく違う軌道の攻撃。


 残りの七人はいつでもナイフを投げ放てる構え。

 襲撃の隙間を抜けようとした途端に鴨撃ちされるだろう。


 そこまでを一瞬で読み取り、判断を下す。

 魔法を使えば対処は簡単だけど、手の内をみすみす曝したりしない。

 既に武技は見られているのだ。それだけで対処しよう。

 精神を研ぎ澄まし、一瞬を見極めて動く。


「――見えた」


 一歩踏み込むだけ。


 その踏み込みで、足を切りつけようとしているナイフの持ち手を踏み砕く。

 同時に頭上からの腕と、突き込んできた腕を見ないまま、それぞれに手を当てる。

 後は相手の勢いを他方に誘導するだけ。


 それだけで後方の二人は錐揉み回転しながら宙に舞い上がり、腕を踏まれて動けない正面の一人の頭上に影を落とした。


「はいっと」


 素早く足をどかすと三人が激突して、積み重なった。

 痛みに呻いているところを上から踏みつけて、動きを封じておく。


 うーん。受け流しはできるようになったけど、武王だったら受け流すだけじゃなくて、もっと勢いをつけて落としたりできたんだよな。

 まだまだ、僕も修行が足りない。


「まだ来る?」


 僕の手には三本のナイフ。

 接触の瞬間を狙って投げ放たれていたナイフだ。

 刀身にはぬめりが見て取れる。毒かもしれない。良かった。ちゃんと柄を握っておいて。


 彼らの腕前なら僕には敵わないのは理解できているだろう。

 既に襲撃の気配から、逃走の流れに雰囲気が変わっている。


「来ないならこっちから行くよ?」


 トン、トン、トンと足元の三人の顎先を蹴る。

 これでしばらくはまともに動けないはず、だと思ったら急に苦しみ始めた。


「がっ、ぎいぃ―――」

「まさか……毒? 自決!?」


 定番の奥歯に仕込んでおいた、とか? 暗殺者通り越して忍者かよ!

 まったく。


 腰後ろのバインダーに杖を当てる。


「いけ。『大地の歌』」


 解毒の回復魔法の赤い光に包まれる三人。

 なんの毒かは知らないけど、僕の二十倍凝縮した魔法で治せないわけがない。魔力凝縮の派手な光が薄れると、暴れていた三人がぐったりと脱力する。

 息は……してる。大丈夫かな。

 麻薬とか話に出てたから、念のため用意しておいて正解だった。


 舌でも噛まれたらたまらないので、続けて雷の属性魔法を放つ。

 間違って凝縮の方を使ったら消し炭も残らないから、ちゃんと確認してから発動させた。

 我ながらわざわざ直してから、痛めつけるみたいでとんだドS野郎だな。


「って、そっちのお仲間を助けてるってのに、これはどうなの?」


 再び投げつけられたナイフを叩き落とす。

 教育者として正座させて説教したいところだけど、肝心の文句をぶつけるべき相手は既にいない。投擲と同時に散り散りになって逃走済みだった。

 追いかけるのは簡単だけど、逃げ方が如何にもわざとらしいんだよな。残された微妙な痕跡とか、これ誘ってるよね?


「うん。今日のお仕事はここまで」


 首魁に繋がるかもしれない人間は三人捕まえたし。

 何も罠に自ら突っ込む必要はないし。


「もう終わってるし」


 いや、実は気づかれないうちに斬っていたとかじゃないよ?


 夜明け前の貴族街に硬い足音が響いていた。

 慌ただしくも規律を感じる靴音。

 つまり、王様の命令で辺りを巡回していた騎士が、僕の二十倍凝縮『大地の歌』を見て駆けつけたわけだ。


「どうせ戦力探るなら、全員で掛かってくればよかったのにね」


 暗殺者の本分は闇夜に紛れての不意打ちだ。

 正面からの戦闘で騎士が後れを取るわけがない。昔ならともかく、おじいちゃんに鍛えられた彼らなら特に。


「不審者、発見!」

「貴様ら! 止まらんか!」

「隊長、抵抗する模様です!」

「全員、抜剣! 一人たりとも逃すな! 叩きのめせ!」


 僕も見つかっては面倒だ。

 あくまで僕と王様の繋がりは秘密。

 気絶した暗殺者は置いて、僕は包囲網を抜け出した。

 騎士と暗殺者の戦いは予想通り、騎士の優勢で運んでいる。個人の戦技では暗殺者に分がありそうだけど、堅実に人数をかけて囲い込み、数的有利を味方にして戦っていた。


 それでも相手は暗殺者。毒や奇手を使い、現状を打開しようとしている。

 うーん。ちょっと騎士に思い切りが足りないかな? 警戒するのはいいけど、踏み込みが甘いぞ。


「くっ……。仕方ない。お前ら、不覚を取った者は『風神』式特別訓練――『焼き鉄靴』だぞ!」


 そう隊長らしき男が怒鳴った途端、空気が変わった。

 騎士たちの目が死んだ!? 何故に!?


「嫌だ、風が、風が……」

「すいませんすいませんすいません……」

「動かないと死ぬ。殺される。いや、生きたまま嬲られるんだ」

「もう立てないのに、無理なのに、勝手に体が起き上っちゃうのおおおおお! いやああああっ!」

「あれに比べたらあああ! 毒なんてえええ! 罠なんてえええええっ!」


 怖っ。


 徐々に語気が荒くなっていく騎士たち。

 それに比例して魚類を彷彿させた空虚な目に、焼けるような闘志が燃え上がっていく。

 いや、あれは闘志なんて健全なものじゃない。憎悪とか、八つ当たりとか、そういう類の親の仇にでも出会ったような人の目だ。

 自分たちがどうしてこんな理不尽に遭わなければいけないのか。こんなに苦しいのは誰のせいか。目の前で自分たちを邪魔する連中のせいだ。許さん。絶対に許さん。必ずこの報いを受けさせてやる! みたいな?


「「「「「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!」」」」」


 名状しがたい咆哮が爆発した。


 恐れを知らぬ大胆な突撃に暗殺者たちが次々と沈み始める。

 中には毒を受けて倒れる騎士もいるけど、仲間の仇だとばかりに尚も勢いを増して襲い掛かっていた。

 理性を失っているように見えても妙な連帯感で繋がっているのか、倒れた仲間は的確に後ろに下げられて、回復魔法を施されていたので一安心だ。


 戦局は決した。


 スレイア王国はいつから騎士団に狂騎士(バーサーカー)を飼うようになったんだろうか。

 ……見なかった事にしよう。そうしよう。


「……さて、王様経由で情報を吸い上げればいいかな」




 スレイア王国騎士団名物、『風神』式特別訓練『焼き鉄靴』とは。


 その源流は『風神』セズの特訓法にある。

 序盤は相手にひたすら攻撃させて、疲れたところから容赦ない反撃を叩き込むという基本方針。倒れても、吹き飛んでも、力尽きても、巧みな風の属性魔法で引き起こされ、強制的に訓練が続けられたという。

 『風神』引退後は、騎士団独自で再現しようとした結果、『風神』役を十人がかりで実行する特別訓練へと昇華した。訓練中は騎士団員が壁となって逃亡も挫折も許さず、無理やり立たせるという過激な訓練。

 その姿はまるで命尽きるまで踊り続けるようにも見え、古い拷問方法である焼いた鉄の靴に似ている事から『焼き鉄靴』と呼ばれるようになった。

 この特訓を乗り越える事で、弱兵と侮られていた騎士団は大国に相応しい実力を手に入れたという。

久しぶりに■■使ったw。

喪女以来。

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