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魔法書を作る人  作者: いくさや
後日談猫

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209/238

後日談猫1 挨拶

活動報告に書いていた猫猫しいSSを転載いたしました。

未読の方はそちらをご覧になってから最新話を読まれるようお願いします。

 1


 さて、王都に家族旅行はいいとして。

 あちらには拠点も用意してあるし、昨日まで仕事でそこを利用していたのだから、すぐにだって使える。

 不在の家も村人と学び舎の生徒に任せれば、管理してくれるので心配ない。


 問題があるとすれば準備か。

 出張の多い僕はすぐにできてしまう。

 最近は村にずっといるリエナも旅慣れているので、そんなに時間はかからない。


 けど、娘たちと、息子は別だ。

 今までは出かけると言っても麓のラクヒエ村ぐらいまで。初めての長期旅行にテンションが上がりまくっている。

 仲良くあれがいる、あれがいらない、と三者三様の宝物入れをひっくり返して相談していた。

 最終的に全員分の服や雑貨をまとめているリエナがジャッジしてくれるだろう。


 全員の準備が終わるまでしばらくかかりそうかな。


 うん。武人像は置いておこうね。ほら、彼は基本的に動けない人だから。

 末娘が玄関に飾られた武人像の手を握ってじっと見つめて来るので、ないないしてもらう。

 しょんぼりして姉たちの所に戻っていく娘を見送って、僕は村の方にあいさつに回ろう。

 そもそも帰ってきた挨拶がまだなのだ。




「あ、先生、ちーっす! おっかえりー! いつ、戻ってきたの?」


 家を出たところを丁度、知り合いに発見される。

 乱暴な言葉遣いで手を振ってくる女性。


「ただいま、レイア姫」

「姫はやめてくれよ、先生。もうそんな歳じゃねえから」


 二十歳を過ぎて『姫』は嫌みたいだ。


 狼の毛皮を加工した外套の下は、動きやすそうな普段着。

 腰の後ろには使い込まれた双剣。

 遊びに行くにも、狩りに行くにも相応しくない不思議な組み合わせに見える。


 が、これが彼女の戦闘服だったりする。

 狼の毛皮の外套。これは以前討伐した狼の魔神から剥ぎ取った一品で、裁縫の得意な妖精族に仕立ててもらったのだ。

 金属鎧よりもよっぽど頑丈で、それでいて軽く、当然動きを邪魔しない。

 武王も倒した魔王の牙を加工した剣を持っていたし、そういう習慣があるのかもしれないので好きにさせている。


「今朝帰ってきたんだけど、今度は家族で王都に行ってくるから」

「え? そうなの? オレ、組手したかったんだけど」


 ううむ。そう言われると後輩の育成を任せきりにしていたので申し訳なくなる。

 現在、レイア姫には後輩の武技指導を任せているのだ。


 そろそろブランでは武王選別戦が始まるはずだし、気合が入っているのは理解できた。


「いいよ。まだ準備に時間が掛かるだろうし、学び舎に行こうか」

「いいの? やったー! 今日こそ先生に勝つからな!」


 うーん。

 見た目こそ褐色美人に成長したけど、色恋とかはまだまだ先なのか。

 その辺り、武王になるまで考えないのかもしれない。


「ほら、先生! 早く早く!」


 背中を押してくる教え子に苦笑し、僕は学び舎に向かった。




 学び舎の校庭は広い。

 元から基礎訓練に、武技修練、魔法実技の全てを想定して用意したからだ。

 なにぶん規格外の人間が多いので、広めに用意しておかないと事故が怖い。


 そんな校庭のど真ん中でレイア姫がぶっ倒れていた。

 尻を高く上げた姿勢のまま地面に突っ伏していて、ちょっと人には見せられない格好になっている。


「本当に強くなったね」

「あーい」


 返事が心もとない。完全燃焼してしまったのだろう。

 実際、最後の連撃はかなりやばかった。防御に専念していても食い破られそうになって、慌てて反撃して流れを止めようとしたら逆にカウンターを返されて、最後は直撃しそうだったので、武器破壊を敢行させてもらった。

 双剣の側面を杖で強打して、刃を粉砕。角度と威力がポイントです。


 で、突進を空かして背中を蹴った結果、顔面ダイブという結果に。


「うん。とりあえず、立とうか? スカートがまずい事になってるから」


 周りでは見学中の生徒たちがいる。

 美人教師の短いスカートの中身に興味を隠せない男子生徒が、女子たちから冷たい視線を浴びていた。君たちも懲りないね。風呂覗きで殺されかけたのに。


「あー。壊れちまった」


 もそもそと起き上がるレイア姫はあぐらを組んで、柄だけになった双剣をぼんやり見てる。だから、あぐらも駄目だって。


「でもさー、先生にはちっさい頃にもっと恥ずかしい目に遭わされたし」


 ぐぬう。尻叩き事件を持ち出すか。

 周囲の生徒たちからも疑惑の目と、噂する声が聞こえてきた。

 発言した当人は気にしていないのか、壊れた刃を拾うと立ち上がり、ひとつ頷いた。


「よし! もっとすげえ武器を手に入れるぞ!」

「あ、ごめん。勢いで壊しちゃったけど、弁償するよ」

「それじゃダメなんだよ、先生。武王戦には自力で手に入れた武器しか使っちゃいけねえってルールがあるんだ」


 そうなんだ。それで倒した魔物や魔王を素材に武器作成してたんだな。


「壊されるぐらいなんだから、まだまだなんだな!」


 僕が納得している間にレイア姫は前向きに意識を切り替えていた。


「じゃあ、ちょっと学外実習にするから。お前らー、今からブランに実習に行くぞー! すぐに準備しろー!」


 生徒たちから非難か悲鳴か判別のつかない声が上がった。

 ブランの辺境に残った魔物を狩るという実習だ。本来なら国境越えとか問題がありそうだけど、そこは仮にも姫。ほとんど顔パスにできる。

 が、今回は違うようだ。


「山脈越えコースな。十日で超えるぞ?」


 どうやら山脈を縦断するつもりのようだ。今度こそ生徒から悲鳴が上がり、非難の目は僕に集中する。

 うん。きっかけづくりしたの、僕だしね。

 しょうがない。ここはひとつ、口を挟ませてもらおう。


「レイア姫」

「だから、姫じゃねえって」

「うん。ちゃんと引率するんだよ?」

「おう。任せとけ!」


 これで大丈夫だ。

 なにやら絶望的な表情の生徒たちがゾンビみたいな足取りで校舎に向かって行った。


「先生も旅行が終わったら来てくれよな」

「了解。気を付けてね」


 もう呼吸も戻ったのか、元気に生徒たちを校舎へ追いやるレイア姫を見送る。

 すると、入れ替わりにやってくる青年。

 レイア姫と同じく武技の指導役。


「やあ、シン」

「……勝負だ」


 成長期でぐんと背も伸びて、見事な細マッチョになり、精悍な顔つきになってイケメンさんだけど、彼も内面は変わらないな。

 どうも僕を倒した時にこそ長年の想いをレイア姫に伝えると決意しているらしく、機会さえあれば挑んでくる。

 シン青年の純情は応援してあげたいんだけどね。結果がどうなるかはともかくとして、伝える事は有意義だろうし。


「いいよ。やろう」


 まあ、だからといって手加減なんてしないけど。


 結果、シン青年も地面に沈む事になった。

 期せずしてその突っ伏した姿は先程のレイア姫に酷似していた。

 ファンらしい女子生徒が悲鳴を上げている。イケメンだからね。そりゃあ人気があるよ。まあ、多くのファンが『ちっとも気持ちに気づいてもらえない不憫な』シンを応援しているのだから、羨ましがられてはいないようだった。


「また、勝て、なかった」

「総合して優秀なんだけどね。どうしても突き抜けた一手が足りない、かな」


 そうやってアドバイスを送ると、悔しげながらも礼儀正しく挨拶し、トボトボと校舎に帰っていくシン青年。

 これから隠れて素振りでもするのだろうか。それとももう一人の師匠であるうちのおじいちゃんに相談しに行くのだろうか。

 でもなー、最近のおじいちゃんはすっかりボケてきちゃったからなー。


 さすがに『風神』のセズも老いには勝てなかったのか、ここ数年は村の自宅でぼうっとしている事が増えた。

 ひ孫を連れて遊びに行くと、ニコニコと眺めているんだけど。


「やっぱり、猫ダンスで興奮しすぎたのがいけなかったのかなあ」


 思えば、誕生祝いに披露したダンスで喜びすぎて倒れたのが最後の一押しだったような。

 そうだな。旅行に行く前にラクヒエ村に寄って、様子を見に行こう。


 この後の予定を考えていると、校舎から他の面々が出てくる。どうやら生徒たちが報せてくれたのだろう。


 元学長先生から紹介された教師に、樹妖精の里で一緒に鍛錬した防人さんや、ルインの所から寄越された若い竜など。

 年齢も種族も違うけど、僕の学び舎を支えてくれる教え手たち。

 彼らは駆けつけて来るなり、


「「「覚悟しろ、この野郎!!!」」」


 猛々しく咆えるのだった。


 うん。まあ、僕の所に来るような人はこれぐらい負けず嫌いじゃないとね?

 いや、単純に留守がちで、事務や運営面は特に押しつけているからかもしれないけど。

 うーん。噂を聞きつけてきた地方領主のバカ息子を、泣いて許しを請うまで叱りつけたのがいけなかっただろうか。それとも、抜き打ちで『雷帝』と組手をさせた事だろうか。狩ってきた甲殻竜を校庭でさばいた方かもなあ。

 その後始末、投げちゃったんだっけ。

 色々と文句があるみたいだけど、多すぎて聞き取れそうにない。


 ともあれ、僕の返事も決まっている。


「いいよ。まとめてかかって来い!」


 手に馴染んだ杖を手に迎え撃つのだった。




 教師陣の指導を終えて、生徒たちに回収されていった教師陣を尻目に、そのまま魔人村の村長であるヨルムさんを訪ねた。

 相変わらずの訛った話し方で、村の方も問題ないと説明された。


「王都はどげんですか?」

「ちょっと変な空気なんだ。どうも古い闇組織みたいなのが復活したとか、なんとかでね。妖精の誘拐とか、暗殺とか、やばい薬が出回ったりとか、少しずつ増えてる」

「あげな戦いから十年も経っとらんに……」


 人の業の深さと言うべきか。

 スレイア王国が魔族の脅威を感じたのは腐蝕の魔神の一件のみ。それも十年という時間が恐怖を薄れさせ、ふざけた欲望を抱く人間が増えてきた。

 旅行中はそういった嫌な光景は見させたくないものだ。まだあの子たちには早すぎる。

 暗い話題に気持ちが沈みそうになっていると、背後から誰かが突撃してきた。


「シズだー!」


 紫髪の幼女――テトラか。

 成長も老化もない魔人なのでテトラの見た目に変化はない。元気に突撃してくる様子も相変わらず。

 雰囲気は解消されたけど、今度は話にならなくなって困っているとリゼルに襟首を持ち上げられ、そのまま回収されていった。


「じゃあ、またしばらくお願いします」

「んだ。てえした事はできねが、始祖様のお家はぜってえ守りますだ」

「弟子一号も、任せた」

「……こいつら、持ってくか?」


 リゼルが腰の後ろの異界原書を見せてくる。既に異界原書はリゼルに継承したのだ。

 魔族と異世界の理にまつわる真実を聞かせた時は大変だったけど、今ではリゼル以外にこれを任せられる人はいないと思っている。

 まだ僕にも使用権限はあるけど、そうホイホイと受け渡ししていいものじゃない。


「大丈夫。火力はちゃんと揃えてるから」

「いや、師匠がそっちを使わねえように返そうかって提案したんだよ」


 ……弟子からの信頼が痛い。


『ダメダメ。どうせこいつの事だからもっと力技で解決とかやりだすに決まって『いいよー! やるよー! 山とか吹っ飛ばすよー!』よっしゃ! いっちょ気合いれっか!?』

「黙れ?」


 バシンと異界原書を叩いて管理者兄妹を黙らせるリゼル。

 うん。仲良くやれているようでよかった。


 まあ、今のリゼルなら異界原書がなくても大概の相手には後れを取らないだろうけど、何かと爆弾の多い魔人村なのだ。

 僕が留守にしている間は万全の態勢で控えていてほしい。


「信頼してるよ。弟子一号」

「わかってるよ」


 拗ねたようにそっぽを向くリゼル。その頭を乱暴に撫でる。


「戻ったら組手やろうな」

「俺が勝ったら認めるって、約束忘れんなよ」


 ああ。その時はちゃんと名前で呼んであげるよ。

 弟子卒業の証にね。

 それがこれからもずっと長く続く君の祝福になるように。

 魔人だって、偽物だって、後ろめたい思いを捨てられるように。

 僕がもらったように。


 リゼルは僕の自慢の弟子だから、自信を持て、と。


 大人しくしていたリゼルが震えだすと、撫でていた僕の手を払いのけてくる。顔を赤くしているので内心がとてもわかりやすい子だ。


「わあったから! もう準備できてんだろ! さっさと家に帰れよ、師匠!」

「はいはい。じゃあ、よろしくね」


 外に出るとそろそろ空が夕暮れに染まりだしていた。

 さすがにもう支度はできているだろう。




 家の前に家族が整列する。

 大きな荷物は僕が持ち、リエナは息子を抱えているので、その分も僕が持つ。

 子供たちもそれぞれお手製のリュックを背負って、猫耳としっぽを立てていた。

 最後に戸締りを確認して、一人一人を見回す。


「リエナ」

「ん」

「ソレイユ」

「にゃあ!」

「ルナ」

「にゃ!」

「ステラ」

「なー!」

「レギウス」

「だー」

「タロウ」

「ぴぃ」


 元気な返事に頷いて返す。


「じゃあ、出発。今日はラクヒエ村にお泊りだ」




 そうして、歩きなれた山道を下って到着したラクヒエ村では、村人総出で人探しが行われていた。

 ちょうど、魔人村へと来ようとしていたらしいラクと行き会う。


「シズ、大変だ。セズさんがいなくなった!」


 『風神』セズ失踪の一報だった。

楽しい家族旅行?

彼の生涯に安息の二文字はあまりありませんよ?


そして、さらっとお子様たちの名前を披露。

日本名にすると、

長女『ひなた』

次女『月』

三女『星』

でしょうか。


長男はお察しの通りです。あの方のお名前をそのままではありませんが。


子竜? ペットの定番ですよ?

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