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魔法書を作る人  作者: いくさや
後日譚

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後日譚19 因縁

閑話ぐらいのつもりで書いていたのに何故かバトルに。

そして、一話で収まりませんでした。

 後日譚19


「へえ」


 打ち合わせを終えて、約束通り合流しようと歩いていて、目にした光景に感心した。

 三方を校舎に囲われた中庭には生徒たちが集まっている。

 その中心はスペースが空けられていて、二人の少年少女が模擬戦を繰り広げていた。

 一方はレイア姫。木製の双剣を自在に振う様は圧巻だ。

 見事な連続攻撃で反撃の余地を与えていない。上下左右、あらゆる角度から振るわれる連撃は、一手でも受けを誤れば怒涛のように相手を圧倒するだろう。


 しかし、相手の方が上手だ。

 木剣で的確に攻撃を受け、流し、弾き、連撃が成立するのを封じている。

 かなりの使い手だと一目でわかった。動作に無駄がなく、揺らぎもない。

 きっと、このまま彼はレイア姫の攻撃を受け続けるだろう。そして、レイア姫の攻め手が緩んだ瞬間、勝負は決する。


「たああああああああああっ!」


 レイア姫が気勢を発して、連撃の回転速度を上げる。

 少年の防御が僅かに綻びだし、双剣が彼の体を掠めた。

 が、そこまで。

 決定打には至れない。逆にレイア姫の方が加速の反動で息を乱してしまう。

 その隙を少年は見逃さなかった。連撃の隙間を通るように脇を抜けながら、初めて木剣が攻撃に振われる。

 レイア姫のガードは間に合ったけど、少年はそれも織り込み済みだったようだ。弾かれた木剣が翻り、レイア姫の双剣の根元に打ち込まれた。

 痛烈な衝撃にレイア姫のガードが乱れ、三度返す剣の切っ先がレイア姫の脇腹に当てられる。


「ん。勝負あり」


 審判をしていたリエナが二人の間に槍を差し込む。

 いつぞやのように本能的に反撃しようとしていたレイア姫が止められて、息を飲んでいた見学の生徒たちから拍手が起きた。

 さすが、ブラン。見たところレイア姫と同じぐらいの歳だろう。あれほどの腕前の生徒がいるとはレベルが高い。


「あ、先生!」

「いい仕合だったよ。レイア姫、強くなったね」


 僕に気づいたレイア姫が駆け寄ってくる。

 目の前で急ブレーキして見上げてくる頭を撫でながら、感慨深くなってしまった。


「僕の知ってるレイア姫なら反撃されたところで終ってたね。受けきれなかったけど、ちゃんと防御もうまくなってる」

「おう! 先生が教えてくれたからな! まだまだ修行しねえとダメだけどな!」


 慢心はなく、向上心があってよろしい。

 まだまだ、武王の域は遠いだろうけど、確実にその道筋を歩いている。あれほどの境地に辿り着けるのか、それはレイア姫の決意次第だろう。

 ふと、気づく。

 レイア姫と仕合をしていた少年が僕をじっと見つめてきていた。視線が合った途端に、露骨に逸らされた。


「あ、シン。こっちこいよ! 先生を紹介してやるから!」


 上機嫌なレイア姫が少年を手招きする。

 少年は複雑な表情、嬉しさとか悔しさとかのブレンドした味わい深い顔でやってきた。

 改めて観察してみる。


 黒と灰の中間ぐらいの髪色の少年だ。

 鋭い目つきで、僕を見上げてくる。

 背は僕の肩ほど。少年らしい線の細さの残る体つきだけど、しっかり鍛えられた引き締まった筋肉がついていた。

 腕まくりした学院の制服姿を見るに、たまたま通りかかったところをレイア姫に声を掛けられて、仕合を申し込まれたというところだろうか。


「先生。こいつはシン。この学院でいっちばんつええんだぜ!」

「………」


 無言で僅かに頭を下げるシン。

 どうにも僕の印象が悪いのか、やや敵対的な態度だ。


「初めまして。強いんだね、君」

「まあ」


 そっけない返事だ。

 心当たりはないんだけど。初対面だし。あ、でも、あの戦いぶりはちょっと見覚えがあるような気もするんだよな。誰かの戦い方とちょっと似ていた。

 まあ、褒められた態度ではないだろうけど、目くじらを立てるほどのことでもない。

 ないのだけど、レイア姫は不満そうにシン少年を睨む。


「なんだよ、シン。先生に失礼だろ」

「別に、俺の先生じゃねえし」

「あ? 先生はすごい人なんだからな! なにせ、第八もがもが」

「はい、待った。なにを口走るかな、この子は」


 成長したかと思えば相変わらずか。僕の素性は秘密だって約束、勢いで破らないでほしい。

 そういえば以前もブランで口を滑らせたのはレイア姫だった。

 レイア姫の口を押えて、にっこりと微笑んでみせる。レイア姫は自分のしでかしかけたミスに気づいて恥ずかしそうに顔を赤らめた。


「ん」

「リエナも仕合はしたの?」

「ちょっとだけ。レイアはまだまだ修行中」


 相手にならなかったんだろうなあ。あまり指導者向きじゃないから。ひたすら無言で打倒し続けるのがリエナ流だ。

 悪いところは教わるのではなく、自分で気づけというスパルタ方式。リエナと互角に打ち合えるようになれば合格というハードミッション。合格した時には間違いなく、人類最強クラスになれるよ。

 まだ、レイア姫にはそのレベルは早いだろう。そこでお相手に、シン少年に白羽の矢が立ったのかもしれない。


「シン君ともやってみる?」


 水を向けてみるとリエナがシン少年に視線を向ける。

 静かな眼差しを受けたシン少年は緊張に体を震わせていた。

 リエナとしてもシン少年は興味があるようだ。少しだけしっぽがゆったり揺れていて、前向きな感じ。

 しかし、シン少年は厳しい表情を僕に向けてきた。


「いつまで、抱きしめてるんだよ」

「ん? ああ、忘れてた」


 口をふさいだままレイア姫を抱えたままだった。

 レイア姫は抵抗もしないでこちらに体重を預けてリラックスしているものだから、放すのを忘れてしまったようだ。

 解放してもレイア姫は僕に背中を摺り寄せたまま離れない。どうも久々のスキンシップを楽しんでいるらしい。或いは、こうして甘えられる相手がいないのか。

 武王のことを思うと、強く言えないな。


「おい。変態教師」

「?」

「お前だ、お前! 後ろに誰もいねえだろ!」


 不名誉な呼び名を受け入れられずに思わず背後を窺ってしまったけど、指摘されたとおり誰もいない。

 シン少年が僕を指差しつつ、敵意に満ちた目を向けてくる。


「俺と仕合え!」

「僕と? それは別にいいけど、何かあった?」

「俺はお前なんか認めねえからな!」


 いや、会話しようよ。

 小さくてもやはりブランの人間というべきか。

 言葉よりも拳というノリは一緒だった。

 一人でヒートアップするシン少年は木剣を構えた。

 突然の展開にそれぞれ鍛錬しようとしていた生徒たちの注目も集まる。自分たちの最強が誰とも知れない相手に宣戦布告したのだから気になるだろう。

 はっきり言って、まるでついていけてないのだけど。


「なんか、誤解されたままは嫌だしね」

「おう! 先生がすごいってこと教えてやってよ!」


 慕ってくれる子の期待には応えますか。

 レイア姫の頭をひとつ撫でて、リエナにバインダーと異界原書、ついでに杖も預ける。

 無手で対峙しようとする僕に、シン少年の視線はますます険しくなっていた。

 とはいえ、小妖精の杖を子供に振うわけにはいかない。まして魔法は絶対にダメ。


「いいのかよ」

「たぶんね。準備ができたらいつでもどうぞ」

「なめやがって」


 僕たちかの周りから子供たちが離れていく。

 残るは自然と審判役になったリエナだけ。


 シン少年の気勢は真剣そのもの。それが気負いになっているかと思ったけど、既に内側へ沈めていた。

あれほど激高していたのに、構えには乱れは見られない。

 これは強い、な。

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