後日譚10 不穏
間が空いてしまい申し訳ありません。
主に雪のせいです。
お店の雪かきで体力を使い果たして深夜の執筆が出来ませんでした。
後日譚10
王都を出立して半月が過ぎた。
アルトリーア大陸最南端の町、トネリア行きの馬車に乗って以前は半日で走破してしまった景色を楽しむ。
初めて使う街道のはずなのにどこか見覚えがある風景だった。
なんてことはない。
四年前に僕の強化ダッシュの衝撃波で出来たところが道になっただけだった。そりゃあ、見覚えもあるはずだ。
他と違ってこの道は一往復半したせいか他の通過跡より堀が深くなっていたので、整備がしやすかったのかもしれない。
今までの街道はあちこちに点在する町や村を巡っているので移動距離が長くなるのだけど、ここはトネリアまで完全に直線だ。
今までは一ヶ月ほどかかっていた道のりが半分ぐらいまで短縮できる。
ソプラウトの妖精たちと交流が深くなった昨今では重用されているらしい。
名前? それ、聞いちゃう?
ご想像通りの『シズ街道』だよ。
馬車の御者さんなどから道の由来を説明されて何とも言えない気持ちになったりしつつ、それでも順調に旅は続く。
シズ街道の途中には町と村の中間ほどの大きさの集落がいくつか出来ていた。
旅程で泊まる際に今までとの違いを感じた。
妖精の割合が増えている。
魔族との戦いが終わり、防衛に偏っていた国家戦略が各国との交流に向かった影響だろう。
妖精はバカ貴族のせいで人間を警戒している面があったけど、それも少しずつ改善されているということだろうか。
まだまだぎこちないし、距離もあるけど、こうして交流を持とうとしているだけでも進歩だろう。
アルトリーア大陸への案内役としてリラが頑張っているとリエナは言っていた。
集落の光景を眺めながら双子の姉妹を思い出す。
「元気にしてるかな?」
おじいちゃんが旅の途中で滞在したのはもう一年前だ。
まあ、長命な妖精族の感覚では最近のことかもしれないけど、人間にとって一年はじゅうぶん長い。
「……ちょっと、変」
思っていなかった返事に首を傾げる。
「どうしたの?」
「リラならシズが戻ってきたってわかると思う」
確かに。
リラの探知能力は植物を介することで大陸レベルまで広げることができる。
無論、常時からそのレベルで展開しているわけではないだろうけど、おじいちゃんの手紙でも行方不明の僕を探してくれていたのは間違いない。
リラがソプラウトにこもりっきりなら話も変わってくる。しかし、彼女は案内役として頻繁にこちらの大陸にも来ているのだ。
なら、こっちで僕を探したりすれば帰還に気づいているのが自然だろうか。
いくつか考えられる。
気づいていて無視されている。
こちらから挨拶に来るのを待っている。
タイミング悪く探知の合間で気づいていない。
リラの身になにかあった。
「なんか、不安だな」
強気な言動の割にメンタルが強いのか弱いのかわからない彼女のことを思い出して心配になってきた。
リラとて普通の使い手ではない。間違いなく凄腕だ。
だけど、それ以上にリエナの直感というのが特に不安を誘う。
「ちょっと、急ぐ?」
「ん」
途中下車するのは不自然なので出立は次の集落に到着してからにした。
宿泊施設で馬の世話をしていた御者さんにここまででいいと告げて、そのまま集落から離れる。
誰も見ていないことをリエナに確認してもらって腰のバインダーから魔造紙を抜き出す。
また調達しなおしてもらったばかりのバインダーを撫でる。
学長先生、今度こそ大切にします。もちろん、わかってます。次はないんですよね?
「いけ。『刻限・早矢神式・迅風』」
20倍の速力強化付与魔法。
リエナを両手に抱え上げる。
正直、リエナが強化をかけて走った方が色々とスムーズな気がするけど、本人は僕の腕の中が定位置だと疑問さえ抱いていない。
まあ、今更だよね。
僕はリエナをお姫様抱っこのままゆっくりと走り始めた。
抑え気味でも一日かからず夜には到着できた。
陽気な漁師たちの町。
そんな印象の町だったはずなのに、トネリアは不穏な気配に包まれていた。
相変わらず動物系の妖精の姿が多い。けど、あからさまに周囲を警戒している様子はただ事ではない。
特にその警戒が以前は共生していた人間たちに向けられているのだから。
敵意とまでいかないまでも、不信感がこもった視線だった。
受ける側は不愉快そうだけど、文句を言ったり、突っかかるような真似もしない。ただ気まずそうに離れていく。
「何かあったのかな」
「やな感じ」
とにかく、まずは情報収集。
前回も利用した酒場兼、食堂兼、宿屋に足を運んだ。
同じような時間帯のはずなのに、漁師たちで賑わっていた酒場に客の姿はまばらだった。
数少ない客も人と亜人と妖精で完全に分かれている。
その中にいつかの犬妖精の男性の姿を見つけた。ソプラウトまで漁船で運んでくれた気のいい漁師だ。
何やら暗い雰囲気だけど、やはり話しかけるなら少しでも知己のある人の方がいい。
「あの、すいません」
「ああ? 人間が声かけてくんじゃねえよ」
酒臭い息を吐きかけられる。
邪険な態度に言葉が続かなかった。
「人間なんて……あ?」
犬妖精の人は何か文句を言おうとしかけて止まった。
僕とリエナをじっと見つめて、しばし腕組みして、首をひねること更に数秒。
驚いた表情になって僕たちを指差す。
「お前ら、ちょいと前にソプラウトに行ったカップルか!?」
ああ。そういえばそんな勘違いされていたなあ。
「あれから戻ってくる様子もないから気にしてたんだよなあ。人間も亜人もすぐでかくなるからわかんなかったぜ。今も一緒にいるってことは結婚、認めてもらえたのか?」
「はい。まあ」
嘘ではない。確かに結婚は両親に認めてもらっている。
前回に続いてあちらの勘違いとはいえ騙しているようで申し訳ないけど、訂正するのもややこしい。
「そうかあ。こんな時だから大変だったろうなあ」
「なにか、あったんですか?」
「知らねえのか? ああ、トネリアに着いたばかりなんだろ。よし。これも何かの縁だ。そこ座りな。説明してやるよ」
漁師仲間という宅を囲んでいた妖精たちも席を譲ってくれる。
中には眉をしかめている妖精もいた。
「おい。人間も亜人も信用できねえだろ」
「あ? 俺の女房も疑うのかよ?」
「そうは言わねえけどよ……。わりい」
「いや、お前の気持ちもわかるんだ。まあ、悪い方に考えすぎるな」
「けどよ」
「大丈夫だ。すぐに見つかる。ソプラウトの奴らも出張ってきたんだろ。お前が先に参っちまったら彼女が悲しむぞ」
「ああ。そうだよな……」
やはり空気が重い。
説得された妖精は特にだ。
言葉では従いつつも僕たちを見つめる視線は刺々しい。
犬妖精の人も咎めずに放置する。
「あの……」
「わるいな。お前らが悪いんじゃねえんだけどよ。今は自分たちの仲間以外は信用できねえんだ」
気まずそうに鼻を掻きながら犬妖精のおじさんは身を乗り出してきた。
声を潜めて教えてくれる。
「実はよ。最近、妖精が誘拐されてんだ」
誘拐?
妖精が?
「……まさか、貴族?」
即座に容疑者が思い浮かんでしまう。
それぐらいこの国の貴族は過去に同じ愚行を繰り返している。
最有力の容疑者だ。
以前、かなり深めに釘を突き刺したはずなのに、またか。
「まあ、この町の誰もがそう疑ってる。証拠があるわけじゃねえがな」
「そうですか。ところで、さっきソプラウトから協力が来てるって」
「そうなんだよ。前まではこっちに出てきた奴なんて自業自得って雰囲気だったんだがなあ。魔族がいなくなってからはだいぶ理解が進んでよ。樹妖精とかが調べに来てくれたんだ」
ああ。それはリラとミラっぽい。
あの二人ならこんな嫌な事件、すぐに解決してくれそうだ。
そう思うのだけど、リエナの感じた嫌な予感を思い出す。
それを肯定するようにおじさんは苦く表情を歪めた。
「それがよ。昨日から樹妖精の姉ちゃんも行方不明になっちまったんだ」
深く息を吸って、吐く。
「名前、わかりますか?」
「ああ。リラ、って言ったか? 桃色の髪をしたべっぴんさんだ」




