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魔法書を作る人  作者: いくさや
後日譚

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後日譚9 甘味

連続投稿です。

よろしければひとつ前もご覧ください。

また、糖分の過剰摂取にご注意を。

壁さん、床さんの耐久力にもご注意を。

爆裂系術式の準備も宜しくお願い致します。

 後日譚9


 ……失踪したい。


 お察しの通りさ。

 やらかしたよ。

 目も当てられないほどにね。



 午前中は良かった。

 いくつかのアクセサリーショップをひやかしながらのショッピング。

 あまり物欲のないリエナは派手な装飾に興味はないけど、いくつかリエナに似合いそうだと試すとまんざらでもないようにしっぽがぶらんぶらん揺れていた。

 指輪からネックレス、ブレスレットなど色々と試着してみて、僕は銀のリングタイプのブレスレットをプレゼントした。

 デザインは秋咲きの花を一輪だけ掘り込んだシンプルなものだったけど、リエナにはとてもよく似合っていて、プレゼントした方も嬉しくなってしまう。

 更にお互いに正装用のジャケットとドレスを購入。

 これはサイズを仕立て直してもらうために預けておく。夜のディナー前に受け取りに来て、そのまま着替えてお店に向かうのだ。

 うん。ここまでは良かった。


 昼食でまず転んだ。

 人気の喫茶店は人気がありすぎた。

 待ち時間が三時間とか。

 僕も読んだガイド本で紹介されて爆発的に客数が伸びたことで対応できなくなってしまっているらしい。

 デートで三時間待ちはきつい。この後の予定を考えると固執できない。

 結局、近くの屋台でサンドイッチとなったのだけど、これが香草が効きすぎていてリエナは少し苦手みたいだった。

 長い付き合いなのだから買う前に気づけよ、僕。

 後から思い返してみれば計画が狂ったことで動転していたんだと思う。


 そして、新市街での散歩。

 これも失策だった。

 リエナも有名人なのだ。

 なにせ、三年前の大戦の英雄の一人。

 中でも華々しい戦果を挙げながらも、ほとんど王都に出てこないレアな存在。

 加えてその美貌は男女問わずで視線や興味を惹きつけてしまう。

 僕はフードをかぶって隠していたけど、リエナはそのまま歩き回っていた。

 午前中こそ遠巻きに見られたりもしていたものが、噂が広まったのか大勢の人が集まってしまったのだ。

 海外スターの来日風景を想像してもらえばわかりやすい。

 新市街に人の海ができてしまった。

 若い年齢層の人間が新市街に多かったのも災いしたと思う。

 一人が話しかけてきたところで、様子を見ていた大半が出遅れまいと我先にと押し寄せてきたのだから大変だ。暴動寸前の様相で突っ込んでくる人々を僕たちは必死に避けた。

 さすがに数が多すぎて完全回避は難しいものの捕まりはしない。

 比較的、人の少ない場所を二人で素早く突破し、逃走に移る。

 結局、散歩は2(僕はおまけ)対100の壮絶な鬼ごっこになってしまった。


 続けて観劇。

 予約のチケットをなくした。

 逃走劇の最中に落としたのだ。

 あれだけの人波の中に落ちたチケットは今頃、踏まれてボロボロのゴミと化しているだろう。

 人気の舞台は当日席もなく、僕たちは諦めるしかなかった。

 トボトボと劇場を後にする僕たちは撒いたはずのファンに見つかり、再びの逃走を余儀なくされる。

 結局、騒動を聞きつけた騎士団が追っ手を解散させるまで逃げ回ることになり、その時点で夕日が西の地平に沈むところだった。


 更にディナー。

 こちらの予約はチケットではなく名前なので問題なかった。

 ドレスコードも午前中のお店で購入済み。

 僕は馬子にも衣装というありさまだけど、リエナはもう完全に貴族令嬢そのもの。

 まあ、それも僕がフードを取れない段階で問題外だったのだけど。

 考えてみれば貴族の利用する高級店に身なりこそ整えているものの、フードを被って顔を隠したままの男が入ろうとすれば止められるに決まっていた。

 銀行に覆面並の怪しさだ。

 お店としては体裁以前に、他の利用客のために止めねばなるまい。

 周囲に顔を知られたくない貴族などを相手に、素性を追及しないで受け入れるお店も存在するだろうけど、そんなお店は町のガイドには載ったりしない。

 結局、僕のせいでお店には入れず、愕然とする僕が余程哀れだったのか、簡単に料理を箱詰めしてくれた。

 御代も返金するとまで言ってくれたけど、それは丁重に辞退した。

 明らかに間違っているのは僕の方だし、お弁当まで用意してもらったのだ。とても受け取れない。



 で、現在は月明かりの下で記念公園のベンチに並んで座っている。

 即席のお弁当はとてもおいしかったです。

 おかげでなんとか思考能力が回復してきた。

 正直、どうやってここまで歩いてきたのかよく覚えていない。


 自然公園は静かだった。

 常時、解放されている敷地に人影はない。

 なにせ数日前に魔人襲撃事件が起きたのだ。

 ルネが『魔神殺し』とか『勝利の女神』とか呼ばれるようになったり、亡き第8始祖のバインダー(関係者というか主に学長先生が全力で情報操作)を魔族から取り戻したとか、色々とポジティブな話題もあるものの、やはり不吉なイメージはすぐに払拭されないらしい。

 おかげで屋外だけどローブを脱ぐことができる。


 ベンチに正装の男女が二人。

 それだけならロマンチックにも見える構図かもしれないけど、僕がずっと俯いてしまっているのでシュールな光景だ。

 リエナの方を見ることができない。

 見返すまでもなくデートは失敗だ。

 計画通りにいかなかったのはまあ仕方ない。

 だけど、それだけじゃない。

 そこでテンパってリエナが楽しめているか気遣うことができなくなってしまった。

 最悪だ。

 典型的な手段と目的の履き違え。

 恥ずかしくて、申し訳なくて、今すぐにでも逃げ出してしまいたい心境だけど、そんなことしても楽になるのは僕だけでリエナは嫌な思いをするだけだ。

 だから、勇気を出してリエナの目を見て謝る。


「リエナ、ごめん。一日、無駄にしちゃって」

「? 楽しかったよ」


 この期に及んで気遣われるとか情けない。

 などと思ったものの、リエナの表情にも猫耳にもしっぽにも不満の色が見当たらなかった。

 本当に楽しかったと言っている? どうして?

 自分で言うのもなんだけど、かなり酷いデートだったと思うんだけど。


「いつもどおり」


 ……確かに何もしなくてもトラブルが雨あられと降り注いでくる体質だけど。

 言われてみれば平穏な日常なんてほとんどないのが僕だった。

 実に嫌な耐性ができてしまったものだ。

 今までとは別方向で凹んでいる間にリエナは立ち上がり、香木の下をゆっくりと歩き出す。


 月明かりに照らされた香木の花の下。

 月光を受けたリエナは綺麗だった。

 ドレスの裾をふわりとひるがえし、僕を見つめて幸せそうに微笑む。


「それに今日はずっといっしょで嬉しかった」


 思えば王都についてからリエナはルネの護衛で別行動が多かった。

 寂しく感じていたのだろう。

 お花畑モードだなんて戸惑っていた自分をぶん殴りたい。

 つまり、あれは三年も生死不明のまま別れ別れになっていた反動なのだ。


 素晴らしいデートなんて必要なかった。

 ルネの言うとおり、僕が一緒にいればそれだけで大丈夫だったんだ。


「ああ」


 これは負けだ。

 勝ち負けなんて誰も気にしていないだろうけど、そんなふうに思ってしまった。

 しかもちっとも悔しくない。負けず嫌いの僕らしくもないけど、やはり簡単に受け入れられてしまっている。

 惚れたが負けというなら、負けでいい。


 自然とこちたも笑顔になってしまった。

 上機嫌に月を見上げるリエナに歩み寄る。


「リエナには勝てないな」

「シズが一番」

「でも、僕はリエナには勝てないんだよ」

「ん。なら、わたしがシズを守る」


 助走とか。

 雰囲気づくりとか。

 余計なものが落ちていった。

 ただ、この子をずっと大事にしたいと想う。

 だから、その気持ちに素直に従おう。


 僕が肩に手を置くとリエナはそっと目を閉じる。

 何やら心臓の音がばくんばくんと鳴り響いているけど、その勢いに乗るように唇を重ねた。


 目は閉じた方がいいのかとか、息はどうすればいいのかとか、どれぐらい続けるものなのかとか、柔らかいなあとか、いい香りがするなあとか、頭の中はプチパニックだけど、まあそれも僕だ。

 息苦しくなったところで離れる。


 きっとすごい赤面しているのだろうけど、デートは散々だったけど、最後ぐらいはしっかり決めよう。


「じゃあ、僕はリエナを守り続けるよ」

「ん。じゃあ、二人は無敵」


 二人で笑い合った。

 手を繋いで帰り道を歩き出す。

 色々あったけど、まあ終わり良ければ全て良しと。






『あまーい』

『……見てるこっちが恥ずかしいんだけど』


 どっかから聞こえてきた声は聞かなかったことにした。

書いてるこっちも恥ずかしかったです。

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