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魔法書を作る人  作者: いくさや
後日譚

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後日譚6 式典

 後日譚6


 事前に最後の確認などがあるルネと、その護衛のリエナは先に屋敷を出た。

 僕も会場へと向かおうとしたところで学長先生に声をかけられた。正確には『元』学長先生なのだけど、やっぱりこの人は学長としか思えないので仕方ない。

 公式の場で間違えないように気をつけよう。

 学長先生が差し出してきたのは未登録の黒いバインダー。

 僕の漆黒のバインダーは三年前の全頁解放で消滅してしまったので、新しい物を用立ててもらえないか頼んでいたのだ。

 以前と違って学長ではなくなったので時間が掛かってしまったみたいだけど、なんとかなったのか。よかった。


「ふむ。問題ないな」


 僕が魔力を込めると漆黒に変色した。

 新しい相棒の表紙を撫でて、心の中でよろしくと告げる。


「悪いが正規品ではないのでな。無論、問題があれば助力は惜しまんが、あまりおおっぴらに使わんでくれると助かる」


 学長先生に面倒をかけたくはない。出来るだけ気をつけよう。

 ……うん。努力はする。できるだけ。


 一緒に魔造紙とインクも分けてもらった。筆はおじいちゃんからの贈り物が無事なので問題ない。

 学長先生も式典には参加するもののあくまで来賓としてらしいので、入場は最後だ。

 僕は一人で出発した。



 式典の会場は王都の中心地。

 元王宮跡。

 腐蝕の魔神との戦場跡だ。

 度重なる大魔法ですっかり瓦礫も消滅し、第一城壁内は大穴と化してしまった。

 土の属性魔法で元に戻すという手もあったけど、当時はどうして思いつかなかったのか。

 およそ、人力での修復は無理だったので、今も変わらず大穴が空いたまま。

 今は記念公園となっている。


 その中心。

 最も日当たりのいい場所には一本の木が植えられている。

 懐かしい香りが離れていても届いた。

 微かに甘い花の香り。

 釣られるように思い出が溢れる。

 あほうというお説教と、頭に落ちてくる拳骨、そして、不器用に笑って頭を撫でてくれた師匠の姿が。

 師匠がいつもくわえていた香木。

 王様に植えてほしいとお願いしていたのだけど、4年で既に大人の背丈より高く伸びている。

 頑丈な柵に囲まれていて、なんでも王宮の専属庭師が世話をしているのだとか。

 素直にありがたい。


 師匠の墓標代わりでもある。

 ここで師匠は亡くなったのだ。

 四年前を思い出すと今でも胸の奥に鈍い痛みが湧いてくる。

 師匠が死ぬことのない未来はきっとあった。

 僕はそれを取りこぼした。

 この先ずっと後悔はきっと消えることはない。

 でも、同じ後悔をもうしないように努力し続けることはできる。

 次こそは間違わない。

 まだまだ未熟だけど、守りたいものを守れるようにこれからも自らを磨いていこう。

 以前ならばここで白木の杖を握りしめていたけど、今はもう失われてしまった。

 だから、決意は自分の胸に刻み込もう。


 今回の式典はこの香木の前で行われる。

 不思議なことではない。

 合成魔法の始祖は師匠ということになっているのだから。その関連する式典となればここか魔法学園ぐらいなものだ。

 芝生の広場にはシンプルながらも大きな会場が設営されている。

 基本は立食のパーティーの形式なのだろう。丸テーブルがいくつも用意され、会場の一部では今も忙しく料理人たちが腕をふるっていた。

 食事会は式典の後だ。最適のタイミングで配膳できるよう計算づくしているのだろう。

 各所で執事さんやメイドさんが式典の最終チェックを行っている。


 そんな慌ただしい現場で僕はどこにいるのかというと香木の真下だった。

 もちろん、『零振圏』で姿を消している。

 早く着きすぎてしまったようだ。式典が始まるまでやることがない。

 ぼうっと日向ぼっこしていても仕方ないので、魔造紙を作ることにする。 以前のように好き放題に凝縮してしまうと魔力が尽きてしまうので基本的には通常の物だ。

 でも、いざという時のことを考えれば強化の付与魔法と、結界の法則魔法は50倍の凝縮で作っておこうか。

 あ、それと『流星雨』も。

 ……いいじゃん。好きなんだよ、この魔法。あー、でも、凝縮はやめておこう。通常の魔力でも十分だからね。


 

 そうしてバインダーを充実させていると魔力が尽きてしまった。

 ちょうど会場にも人が集まりだしていたのでいいタイミングか。道具を片づけてバインダーも異界原書と並べて腰の後ろのホルダーに収納。

 2冊分の重さに違和感があるけどすぐに慣れるだろう。


 会場はすぐに招待客で埋まった。

 やがて来賓も揃い、大臣や将軍など重職が並び、その中にルネとリエナの姿もあった。

 レイナードさん、懐かしいな。少し老けたように見えるのは単純に年齢のためか、軍のトップになった忙しさのためか。それにしても老いが貫録となって見える大人ってかっこいいな。

 などと思っている間に式典が始まる。

 全員が跪いたところで王様が登場。

 そして、大臣さんの長いお話から始まる。

 王家や始祖の加護とか、魔族との戦いとか、第7・8始祖の功績とかを延々と語り始めた。僕が見ているからとかじゃなくて、この式典の箔をつけるための語りなのだろう。

 あー、リエナがすごい眠そう。表情こそきりっとしているけど、しっぽと耳がぐたぁってたれている。頑張れ!

 実に三十分にも及ぶご高説が終わると、今度はルネの紹介が始まってこれも三十分。それルネのストーカーが調べたんじゃないの、とつっこみたくなるほど語られた。


 そして、ようやく式典のメイン、管理者の任命だ。

 ルネが王前に呼ばれ、跪いた。

 王様が装飾過多な杖をルネに与え、短い言葉とともに合成魔法の管理者を命じる。

 離れた所から全体を見ていると参列者の内心が見て取れた。

 大別すると肯定と否定と無関心といったところか。

 いつぞやのガインのような暴挙に出る愚か者はいない。

 とはいえ、不満がなくなるわけでもないだろう。

 だから、ちょっとだけ後押し。


「異界原書、限定解放。『虹蛍』、力を貸してくれ」

『……あ? はいはい。『んー。んあー』』


 なにか不安が残る反応だな。

 けど、問題なく希望した種族特性は発揮された。

 僕の周囲に指先に乗るほどの小さな光球が無数に浮かび上がる。それぞれがゆっくりと色彩を変えながら空へと昇って行った。

 自画自賛になるけど、かなり幻想的な光景だ。

 僕がいるのは師匠の墓標代わりの香木の下。

 周りから見れば香木が輝きを放ったように見えるだろう。

 それはまるでルネを祝うように。


 まあ、綺麗な現象に心奪われた相手に暗示をかける種族特性なんだけどね!

 いや、今回は暗示というほど使っていない。あくまで視覚効果が重視で、ちょっと印象を良くしたぐらいだから。


 とにもかくにも、参列者は奇跡的な展開に呆然と立ち尽くしている。

 いち早く復帰したのは事前に打ち合わせしていた王様だ。


「皆の者よ、これぞ第7始祖の祝福だ! ルネウスよ、これからも我が国の支えとなるよう励めよ!」


 やや強引な感もあるけどまとめる。

 すぐに学長先生が拍手して、それに釣られるようにルネを祝福し始めた。

 さすがに不服から絶賛に激変するようなことはないけど、納得というか、諦めというか、禍根を残しそうな者はいなくなっている。

 この世界において始祖の信仰は神へのものに近い。神意に背くものなどそうはいない。


 ひと安心したところで異変が起きた。

 最初はわずかなざわめきだったけど、やがて祝福の声や拍手を押しのける騒ぎへと発展し始める。

 参列者たちがこちらを指差して戸惑っていた。

 何か香木に異常でもあっただろうかと心配していた僕だけど、彼らの注目が集まっているのが香木ではなく、僕であると気づいて愕然とした。

 僕は『零振圏』で完全に姿を消している。

 見つかるはずがないのに、何故!?


 慌ててローブの下の異界原書に触れる。

 そこから声が聞こえてきた。


『すぅー、くぅー』

『かわいいよー! 眠ってる姿も可愛いよー! 俺の妹、サイコー!』


 うわあ。

 三大欲求に素直な妹と、その妹に異常なまでの愛情を注ぐ兄。

 異界原書の管理者は完全に仕事を放棄していた。

 いつからか『零振圏』は効力を失っていた。思いっきりみられてしまっている。

 だから、嫌なんだよこいつら。


 残るのは圧倒的な魔族の気配を放つ異界原書のみ。

 傍から見れば僕が魔の気配を醸しているようにしか見えまい。

 最悪な事に僕は魔力を使い果たしてしまっていたので、そちらを活性化して誤魔化すこともできない。


 ローブで姿を隠した魔の気配を放つ男。


 あれ?

 ピンチ?

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