後日譚2 宴
後日譚2
おじいちゃんと再会して1ヶ月。
ようやく僕たちはラクヒエ村に戻れた。
おじいちゃんが落ち着くまで付き合ったり、元山賊が自首しに行くのを見届けたり、色々とあったけど帰りは問題ない旅だった。
強化付与魔法で一気に帰るという選択もあったけど、あれはどうにも派手すぎる。
始祖としては死んだことにするのに目立ってしまっては意味がない。
なので、馬車を利用した普通の旅になった。
退屈することはない。
3年も時間が経過したので話したいことはいくらでもある。
そうしてようやく家族が勢ぞろいしたラクヒエ村。
僕の生還と、おじいちゃんの無事を祝う宴が開催されることになった。
夜までのわずかな時間に村中の人間が宴の準備に駆り出された。
狩人たちが腕を振るい獲物をしとめれば、女衆は見事に料理して、子供たちが広場へと運んでくる。
手の空いている男たちが組んだ薪に火がつけられて、村長と一緒に僕とおじいちゃんが広場へ現れたところで歓声が上がった。
これだけの人が僕の帰還を喜んでくれている。
素直に嬉しかった。
帰ってこられてよかったと改めて思う。
家族。
久しぶりの友人たち。
村の暮らし。
変わったこと、変わらないこと。
懐かしい。
勢いが落ち着いたところで僕から色々と話しをさせてもらう。
第7始祖という立場と、その消失。
それに伴う今後の方針と口裏合わせ。
そして、リエナとの結婚報告と結婚式のお報せ。
「シズ、この野郎!」
「戻ってきたらこれだよ!」
「幸せになりやがれ!」
「僕の気持、受け取ってね?」
待っていたのはやはり手荒い祝福だった。
お前ら、もう結婚してる奴もいるのにいいのか?嫁さんたちが白い目で見てるよ?
まあ、そちらの事情は今晩にでもご家庭で話し合ってもらうとして、今は襲撃への対処が優先だ。
ふふ、旅立ちの時の僕とはもうレベルが違うのだよ。
四方八方から叩きつけようと振るわれる平手を最小限の動きで回避。回避。回避。
こちとら万単位の魔物と戦って、種族最強の人物と戦って、裏ボスまで倒してきたんだ。村人レベルの攻撃なんていくら多くても眠くなるだけさ。
なんて、余裕は10秒後に消え去った。
その男は気迫が違った。
もしも精神の力が物理に作用するのなら、僕はその敵意を向けられただけで吹き飛んでいただろう。
静かな、ゆっくりとした歩みに人垣が自然と割れる。
村長――リエナのお父様。
「シズ君、君が立派な青年なのはわかっている。人類の、いや、世界の救世主だとこんな辺境の村にまで噂が届くぐらいだからね」
いつもの丁寧な口ぶり。
だけど、内に濃縮された殺気は隠しようもない。
「だが、それはそれ。これはこれ、だ。娘がほしいというなら、まずは私を倒してからにしてもらおうか?」
まさかのゲストボス登場。
思えば旅立ちの時からお義父さんはリエナのことを気にしていた。
あの時は色々と覚悟も足りなかったけど、今ならちゃんと向き合える。
なにより、この雰囲気。これまで戦ってきた強敵と比べても遜色ない。
油断などできようはずもなかった。
「ラクヒエ村村長、『公平決算』バスティア。いざ――」
ふたつ名!?自称じゃないよね!?ていうかそのふたつ名って戦闘に関係ないよね!?
くう。意味なんてないのに勢いに飲まれそうになった。
負けるか。異名なら僕にも色々ある。えっと……。
「『災厄』『貴族の災厄』『王都の救世主』『天災』『魔王狩り』『第7始祖の愛弟子』『第8始祖』『黄昏の消滅』『崩壊御子』『愛猫』『色狂い』『夜の帝王』『シズ湖伝説』『竜を屈服させた者』『武神』『幼女虐待』、え?最近増えた?『天変地異』に『魔族の天敵』で『世界を救った者』の『始祖ハーレム』ってなにそれ!?僕はリエナ一筋だよ!って、あー、なんかそんな感じのシズ。尋常に」
なんか周りが騒がしい。
勢いで全部言ったからね。不穏なワードに心当たりがありすぎる。
もう何が『いざ尋常に』なのかわからないけど、既に戦いの舞台は整っている。退くことは許されない。
ますます目が据わった村長と対峙する。
「「勝負!」」
そして、僕たちは激突した。
まあ、気迫ではどうしようもない実力差ってあるよね?
テレフォンパンチを躱して踏み込んだ僕の当身を受けた村長さんは吹っ飛んで行った。
ダンプカーにでもはねられたみたいな吹っ飛び方。
地面をゴロゴロと転がる。
壊れた人形みたいに手足を弛緩させて動かなくなった。
静まり返った広場。
「お義父さん、僕にお嬢さんをくださ、い?」
……あれ?
加減間違えた?
魔法なしでも一般人の範疇にない自覚はあったけど、どうやらそれでも足りなかったみたいだ。
誰も動き出せない中、リエナが淡々と村長の元に向かう。
気になる判定は……セーフ。
村長はリエナの回復魔法ですぐに復活した。
その後、お母さんとお姉ちゃんにふたつ名の詳細について尋問が行われたような気もするけど、僕は知らないったら知らない。
勝者のいない虚しい戦いだった。
数日後、僕とリエナは再び旅に出る。
結婚式の準備は村で用意してくれることになったのだけど、僕はその前に色々とあいさつ回りしなくてはならない。
ついでではないけど、結婚報告と式への招待もするつもりだ。
家族たちに見送られて僕たちは馬車に乗り込んだ。
ちょっと短め。
番外編の前に後日譚になってしまいそうです。
まずは王都に行ってルネでしょうか?




