断章7 ブランの誇り
視点交代です。
断章7
拠点構築を終えてもまだ昼前だった。
恐ろしく早い展開だ。
ブランだけじゃこうもうまくいかなかっただろうな。
損耗は僅か。うちの奴らだけだ。
樹妖精の連中を庇ったらしい。指揮官としちゃ評価するがよ。それで死ぬんじゃねえよ。
人を守って、自分も守れっつうのは酷なのか。
スレイアの爺さんたちは歳のくせして余裕だ。
始祖の爺さんは極大魔法をバンバン使ってやがった。他の爺さんも地味にいい働きしてたな。
スレイアの兵は弱いなんて噂、誰が言ったんだよ。退役してあれだろ?現役はどんだけやるんだっつうの。テュールの奴、そりゃあ留学を堪能してるだろうな。
羨ましいぜ。
嬢ちゃんたちなんて4種魔神相手に完勝しやがった。危なくなれば加勢するつもりだったが全く必要ねえとは恐れ入った。
あれは始祖の魔造紙を使ったからってだけじゃねえ。
嬢ちゃんの技量と姉妹の連携。それがあってこその勝利だろう。
「ヴェル、このまま行くぞ」
「兵を休ませる時間はあるよ?」
「今は勢いに乗った方がいい。向こうが構え直す時間をくれてやる理由はねえだろ。主力と隊長を集めろ」
元の作戦は電撃作戦だったんだ。
先制こそ奪われたが、もう作戦の軌道に乗れた。
一気に攻めて拠点を奪取。
そこから互いを援護し合いながらバジスを奪還するつもりだ。
バジスの入り口を押さえるのが目的じゃねえんだよ。
本番はここからだぜ?
「……次は?」
「やる気十分だな、嬢ちゃん」
魔造紙の補充を終えた嬢ちゃんが開口一番で聞いてくる。
耳としっぽを立てて、薄い表情のくせして目は気合に満ちていた。
頼もしいもんだぜ。さすが、始祖と一緒にいるだけある。
「ここから3つに分かれるぞ」
机の地図に手ごろな石を置いていく。
現在地にひとつ。
「ブランの第5と6、それと樹妖精の旦那たちでここを守ってくれ」
「我々もか?」
樹妖精の旦那は乗り気じゃないみたいだな。
確か始祖と嬢ちゃんのために来てるんだったか。嬢ちゃんが前線に出るなら一緒に戦いたいだろうな。
とはいえ、ダメだ。
ヴェルが代わりに説明を始める。
「この拠点の死守は絶対です。考えたくはありませんが、撤退という事態に陥った場合、ここが陥落していては全滅もあり得ます。なので、我が国でも防戦に秀でた2部隊と、防壁が崩されても即座に修復できる樹妖精の方々に残っていただきたい」
「……ミラとリラも」
「なんでよ?ちゃんと戦えるわよ!」
双子の妹の方が大声を上げる。
なんでこいつすぐに涙目になるんだ?
「わたしのー、原書がー、しばらく使えないからでしょー?」
姉の方はマイペースだ。似てるのに似てねえ姉妹だな。
オレとヴェルもひとのこと言えねえか。
「それ以上に、あなたには連絡を頼みたいのです。植物を介して遠くでも話せると聞いていますが、どの程度の距離まで可能ですか?」
「え?たぶん、バジスはソプラウトより狭いから、中継すれば、その、全部、大丈夫だと思うわよ」
さっきの勢いはどうした妹。人見知りか?
「素晴らしい。是非、お力を貸していただきたい」
「う、うん。いいわ。手伝ってあげるわよ」
ちょろいな、おい。
他人事ながら騙されやすそうで心配になるぞ。まあ、そっちはニコニコ姉ちゃんが注意すんだろ。
話はまとまったみたいだな。
次に北西の山脈奥地に石を置く。
「次に行くぞ。俺と第1から選抜した連中はルインたちに乗って竜の隠れ里に向かう」
「地上から攻めるには悪路過ぎますからね。竜の運送能力と機動力のバランスを考えれば送り込めるのは50名ほどでしょう」
「……武王たちだけでいいの?」
俺が心配されるとはな。
嬢ちゃんの頭を適当にポンポン叩いて笑う。
「俺がいて何が心配だ?」
「……ん。わかった」
竜の隠れ里は魔族の活動拠点だろう。
となれば、バジスに奴がいるとすればここの可能性が高い。譲るわけにいかねえ。
それに嬢ちゃんたちにも大切な役目がある。
地図の下方。
細く伸びる陸地に石を置く。
「最後にここ。バジス南端、テナートに繋がる地点。テナート地峡だ。ここから馬で3日の距離だな。ここに残りの連中で向かってもらう。わかってると思うが、ここが最大の激戦区になるぞ。なにせテナートから増援が来るんだからな」
「しかし、ここを押さえなければ勝機はありません。出来る限り、始祖様の魔造紙はこちらに回しましょう。我々も竜の里攻略後はすぐに応援に向かいます。その際は樹妖精の方にも何名か同行いただきたい」
「まあ、いざとなればシズの魔造紙で戦線維持は可能でしょうな」
地形が変わるだろうが、背に腹は代えられねえ。
寧ろ数で押してくるなら簡単なんだよな。
始祖の魔法じゃなくても爺さんの自前の魔法でも対処できるだろうよ。
倒した魔物を素材にすればいくらでも魔造紙は作れるからな。
うちの奴らじゃ大した魔造紙はできねえが。スレイアの連中なら大丈夫だろう。
問題はまた4種魔神が出て来た時か。
嬢ちゃんがいれば倒せるだろうが、始祖の魔造紙が尽きた時は万事休すだぞ。
わかってはいたが、始祖がいねえのはやっぱきつい。
あいつがいるなら心配することなんてひとつだけ。大陸が消えないかどうかぐらいだ。
まあ、悪いことばかり考えても始まらねえ。
今回の魔族の侵攻は本気だ。
これまでとは規模が違う。
魔物や魔王の量。
4種魔神。
南からの挟撃。
本気で俺たちを根絶やしにしようとしてる。
ルインから話を聞いてなけりゃ終わってた。
そう考えると本当に始祖に頼りっきりだな。ルインを助けられたのも、ソプラウトの魔神を倒したのもあいつだ。まったく、情けねえ。
協力するのはいい。
ブランの気風じゃねえが、必要なら躊躇うことはねえ。
だが、1人になにもかも押しつけるのは協力なんて言わねえだろ。
そりゃあ依存だ。
頭の悪い俺でもそれがどっちにとってもよくねえことぐらいわかる。
なら、ここは俺たちが立ち向かう場面だろ。
「これは俺たちと魔族の戦争だ。きっちり勝って、終わらせるぞ!」
嬢ちゃんたちが出発する。
先行して地上の魔物を排除するためだ。
飛び上がるところを下から狙われたらまずいからな。
ある程度、進んだら俺たちも出立だ。
馬影が遠くなるのを見送り、俺は思い出す。
どうしようもねえほどガキの頃。
武の天才だなどと称えられて調子に乗った今以上の馬鹿。
親父の忠告も聞かずにバジスに乗り込んで、出てきた魔人化した元武王に返り討ち。
追ってきた親父を犠牲に助かった大馬鹿野郎。
何十年と持ち続けた原書を眺める。
土の上級属性魔法の原書。
ガルズ家が継承する当主の証。
足止めに残った親父から託されたもの。
あれからも馬鹿のまま。
荒れたし、暴走もした。
親父の分までと空回りもした。
結局は馬鹿なりに、俺なりにやれることをやるしかねえと気づいて、前線で戦い続けた。
その俺の前には50人の部下がいる。
馬鹿な俺についてくる馬鹿野郎たち。
「お前ら、準備はできたか?」
「「「おう!」」」
全体的に硬い。
当然か。
今まで俺たちは守る側だった。
それが攻めに転じようとしてるんだ。
緊張ぐらいする。
が、それが原因でミスっちまうのはいただけねえ。
「いいか、お前ら!ここまで俺たちゃ裏方ばかりだ!ブランにゃ前線守ってきた誇りがある!意地がある!客人に任せていいのか!?いいわけねえよなあ!!」
「「「おおおおおっ!!」」」
よし。いい気合いだ。
ブランの兵にゃあ弱気はいらねえ。
笑え。
さあ、笑え。
声を上げて、空に吼えろ。
苦しい時こそ笑い飛ばして不吉を払え。
それが人の前に立つ俺の生き方だ。
「手柄にこだわりゃしねえがここらで俺らもいいところ見せるぞ!覚悟があるなら俺について来い!」
「「「はっ!!!」」」
そして、俺たちはルインや若い竜の背中を借りてバジス北西の山脈を目指す。
竜の隠れ里。
魔族の拠点。
はたして需要はあるのか、このおっさん語り。




