番外12 猫のなく頃
番外12
嬉しい嬉しい嬉しい!
シズが頼もしいって!
背中を任せたって!
あの大きい人を止めないといけないのに耳もしっぽもピンピン。
体が不思議なほど軽くて、いつも以上にたくさん遠くまで見えるみたい。
シーヤに相談してよかった。
戻ったらもう1回お礼しないと!
シズの強化魔法はやっぱりすごい。
最初はちょっと動くだけであっちこっち行っちゃいそうだった。
でも、もう慣れたから平気。
「ん!」
一歩で大きい人の足元まで行く。
全然、こっちを見ていない。
なら、簡単。
目を凝らすとよく見える。
大きい人の中を何かが動き回っているのが。
中の木が原書をあちこちに運んでいる。
それが丁度右足の先に来たところに合わせた。
槍先で足を薙いだ。タイミングはばっちりだったのにかきんって弾かれる。
固い。刃が通らない。
「ん。『雷・轟鳴』」
槍にシズの魔造紙を巻きつけて、もう1回。
原書の位置。大きい人の踏み込み。わたしの追撃。
全てのタイミングが1秒以下の瞬間に集約する。
雷光を放つ槍が今度こそ大きい人の足首を斬り裂いた。
中に見えた木。その隙間に本が通り過ぎようとしてる。
それを片手で掴んで引っ張り出す。
(火のやつ。人型のじゃない)
はずれ。
光の中を本の形が動いているのは見えるんだけど、それが何の本かはわからないから。
でも、コツは掴んだ。
本が取られて大きい人がわたしを見下ろしてくる。
シズの方に行こうとしていたのがやっと止まった。
上から大きな拳が降ってくる。
少しだけ内側に踏み込んで、拳を槍の柄で受け流して、その流れに逆らわないで槍を一閃。
手首から先が吹き飛んだ。空中で光が解けて、中から木の枝と本が出てくるので追いかけてキャッチ。
風のやつ。また違う。
あ、大きい人の口が光ってる。
ピカッてくる?バシャッてくる?
あ、なんか危ない。
大きい人の前にいっぱい水の球が出て、そこにたくさんの光が入って、バラバラになって、降ってきた。
シズが好きな魔法に似ている。
でも、全然せまいよ?
光が降ったところは穴だらけの地面。
でも、そんなとこにもうわたしはいない。
大きく右側から回り込んで、魔法を出してる大きな人の後ろに到着済み。ひゅんと跳んで、首を落とした。
あ、光があっちこっちに飛んでちゃった。ちょっと、失敗。
でも、頭の光が消えて、2冊の本が落ちてくる。水と光の。
本を4冊、しっぽで押さえる。しっぽも強化でびんびんだからよゆう。
あ、槍の雷がなくなっちゃった。
『雷・轟鳴』はあと1枚。うーんと、あと本は7冊。今と同じだと全部は無理かも。
うん。大きい人が暴れるのがいけないと思う。
シズからもらっている雷の属性魔法はあと普通のが2枚と、すっごいのが1枚。
強化はあっても、これだと当たらないし当てられるけど、当てると槍がちょっと壊れちゃうからダメ。
だから、まずはおとなしくしてもらえばいんだ。
「ん」
大きい人が地団駄ふむみたいに両手両足を振り回す。
地面が揺れて、危ない。
でも、見えるから当たらないよ。
ちょっとだけ、待つ。
バラバラに動く手と足の軌道が重ならない一瞬を。
くる、くる、ずれた、くる?……ちがう。くる、くる、くるくるくる―――――きた!
薙ぎ払われた左腕の下を並走。
踏み込まれたままの左足を踏み台にして思いっきりジャンプ!
胸に体当たりしたら大きく後ろに倒れかけた。斜めになった胸板を踏み抜いてさらに跳ぶ。
傾いていたところを蹴られた大きい人が背中から倒れる。
わたしはずっと高いところから見下ろしている。
バインダーから1枚の魔造紙を出す。
シズが書いたすっごい魔造紙。
雷の上級属性魔法。
「ん。『雷・閃穿・竜墜槍』」
上に伸ばした左手に大きな雷が生まれて、瞬きの後には1本の槍に集まった。
右腕を振って勢いを作って、ぐるんと1回転したタイミング。
大きな人の手とか足に本がばらけた瞬間。
「動いちゃ、めっ!」
魔法を解き放った。
雷の魔法は全属性魔法中で光の次に速い。
だから、振り下ろして発動した直後には大きい人を貫いていた。
大きい人の腰に当たって、貫いて、分断する。
後から空気が弾けるみたいな大きな音がした。その前に耳をぎゅっと伏せてたから大丈夫。
空から落ちながら観察する。
大きな人の下がなくなって、そこに3冊の本が落ちていた。
しっぽの4冊をそっちに放って、残った上の方に集中。
大きい人の胸の辺りが赤く光ってる。
あ、暗いので包んできた。
ぎゅうって潰されそうになって、見えにくいけど大きな岩がいっぱい飛んできてぶつかってくる。
周りの装甲にぶつかって、くらっとしたけど平気。
「ん。『雷・閃華』と『雷・轟鳴』」
雷の閃光が闇と土を吹き飛ばす。
続けて最後の魔造紙を発動。右手の槍に雷がついた。
このまま落ちるのを待っていられない。
浮いてた岩を蹴って、斜め下に跳ぶ。岩はすぐ壊れちゃうから、ちょっとずつ速く。
大きな人が両手で捕まえようとしてきたけど、他の岩に跳び移ってよけた。最後に大きな岩を蹴って一気に落ちる。
「ん!」
大きな人の胸を踏み潰す。
右と左に続けてふた振り。
両腕を斬り落として、落ちた原書は3冊。
残り1冊。
もう動けないけど、何があるかわからないから最後まで油断しちゃダメ。
槍を振り上げたところで光が全部消えちゃった。
急に足場がなくなっても大丈夫。ちゃんと上手に着地。
木だけがぽつんとあった。もう勝手に動いたりしないみたい。もうミラも大丈夫?大丈夫だといいけど。
落ちていた本を拾い上げる。確かに人型の原書だった。
他の原書もまとめて回収して、両手で抱え上げた。
最後に数える。
11冊、間違いない。
胸がドキドキする。
できた?
ちゃんとできた?
シズに頼まれたこと、上手にできたよね?
「にゃあああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
嬉しくて変な声が出ちゃった。
ダメダメ。
昔のシズみたい。
でも、しっぽがぴーんと立っちゃうのはしょうがない。
シズもわたしのしっぽを見ると嬉しそうだし。
勝手に触っちゃうのはダメだけど、見られるのは嫌じゃない。
そうだ。シズは?
頼まれごとに集中しすぎて忘れてた。
魔神に向かって行ったシズの方を見る。
そこには大きな山ができていた。
びっくりしてしっぽの毛がふくらんじゃった。
耳もパタパタしちゃったの。
でも、よくあることだよね?
「…………ん。シズはすごい」
初めての共同作業?
興奮が我慢を超えるとリエナも鳴きます。
そして、聞き逃すシズ君。




