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魔法書を作る人  作者: いくさや
妖精編

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99 3種魔神

 99


 この魔神の特徴はなんだろう。

 まずは腕の鎌。

 そして、灰色の鱗か。

 巨体は3種も混ざった影響だろうか?それとも元の魔物が類推できるものなのだろうか。武王にもっと詳しい話を聞いておけばよかった。


 でも、崩壊魔法に耐えられた理由は巨体にありそうだ。

 殴ってみて実感が持てたけど、見た目通りの重量ではない。かなりの質量を備えている。

 そのせいで融解しきれなかったとみるべきか。


「鎌っていうと……カマキリみたいな魔物かな?」


 安直だけどイメージに近い。

 実際のカマキリの鎌は捕獲用で切断力は低いはずだけど。確か魔の森に牛ほどもある巨大なカマキリみたいな魔物がいたな。あれの鎌は大木の幹もバッサリ切断できるという話だ。

 灰色の鱗はわからない。鱗を持つということは魚類か爬虫類っぽいけど。いくらでも候補がありすぎて絞りきれないな。でも、遥か向こうに現れたという大量の魔物が小さな竜という話から考えるとそれに類した何かと関連付けられるか?


 あともう1種。

 そこは灰色の鱗の下に隠れているのか。

 あ、いや。原書を掴み取った触手。あれもだ。


 触手……それこそきりがないだろ。無脊椎動物から軟体生物まで多種多様で候補が定まらない。とりあえず、吸盤は見当たらないし蛸とか烏賊の類は除外。

 とりあえず、あいつにリエナは近づけさせない。絶対にだ。


(まあ、やりようはあるかな)


 崩壊魔法の効果はあるのだ。

 単純に時間内に消しきれないだけ。完全消滅まで何度でも繰り返してやればいい。

 襲撃を警戒しつつ再び詠唱を始めようとして驚いた。


「逃げたっ!?」


 魔神が完全に背を向けて走っていく。

 あんな重量のくせしてどうしてそこそこ速いんだよ。無駄を排除した走行フォームが苛立たしい。魔物らしくない奴だな。

 唖然としていると頭上を影が過ぎていった。


(って、ちょ、待て!)


 巨人が魔神を追いかけて走り出した。

 本気で考えなしか!また原書を奪われたらどうするんだ!

 巨人の中では魔族撃退>原書なのかよ。命令に忠実すぎる。というか自分自身が防衛の勘定に入ってない。

 使命を果たすためとはいえ、ぶっちゃけ邪魔。


 即座に巨人と魔神の間まで移動。途中で崩壊魔法の詠唱を完成。

 近づきすぎて鎌で襲われるリスクは負いたくない。この距離を保ったまま消し飛ばしてやる。

 というところで魔神の背中が割れた。


(今度はなんだよ!?)


 背中から出てきたのは小さな灰色の球体だった。

 大きさは手のひらサイズ。少なく見積もっても100はあるだろうか。びっしりと背中に貼りついていて気持ちわるい。

 それらがポロポロと辺りに落とされる。


 通り抜け様に確認すると卵みたいだった。というか卵だ。

 僕の走る衝撃波で卵が砕けて青黒い何かが弾けた。


(気持ちわる!)


 かなり広範囲に転がったので半分以上が僕と巨人のルートから逸れた。

 落ちながら、転がりながら、卵がどんどん孵化していく。ひび割れた殻から出てくるのは小さなトカゲみたいな魔物だった。卵の殻を体表に同化させて身を震わす。

 思わず足を止めてしまった。


「確か……小鱗竜、の幼体?」


 竜と言っても姿はトカゲ。

 灰色の鱗は堅固であるものの動きは遅く、攻撃力も牙が怖いぐらい。あまり強力な魔物ではない。

 生まれた幼体たちは辺りの草どころか土まで貪欲に食していく。

 生体になるまで数年はかかるはずなのに体内に入れた物がそのまま取り込んだように大きくなっていた。

 魔神から生まれた個体だからか?


「なんにしろ、親ごとまとめて……」


 っと、ここで取って返しやがって。


 気を取られている隙に魔神が回り込んできた。

 首を刎ねようと振るわれた魔神の鎌。

 身を沈めて躱して、反撃に足を払おうとしたけど逃げられた。

 魔神はそのまま走っていくと手近にいた小鱗竜に手を向けて、手首から飛び出した触手を突き刺した。

 引きずられながら小鱗竜がどんどん体を萎ませていく。まるで内側から吸い込まれているようだ。


 気のせいか魔神の体が少し膨らんだような気がする。

 単純な足し算なら吸収した分だけ装甲が増したのだろうけど、生態学以前に物理現象として有り得ない。

 なら、種族特性か。

 あれは理屈とか吹っ飛ばして起きる現象だ。

 生み出した小鱗竜を餌にして回復する算段とは。子供のことをなんだと思っている。


「なら、やっぱりまとめて片づける。常世の猛毒!」


 2度目の崩壊魔法。

 魔神も小鱗竜も赤い世界に溶けていく。

 小鱗竜は問題ない。数秒もしないで完全に消え去った。

 問題は魔神。先程と同程度の手応え。やはり消しきれそうにない。

 さっきの回復と崩壊魔法、どちらが勝っているか判断がつかないけど余計な手間がかかってしまう。


(こんなことなら『常世の猛毒』の魔造紙を作っておけばよかった)


 詠唱中に動かれると余計な隙ができる。

 その間に襲われたり、妙な種族特性を使われたりして集中しづらい。

 模造魔法なら威力は落ちても、魔造紙がある限りいくらでも連発できる。まさか崩壊魔法に耐えられる奴がいるなんて思いもしなかった。


 1度目で痛みに覚悟ができていたのか、痛覚を遮断できるのか、魔神は消されながらも動きを止めないで巨人に襲いかかった。

 またも結界が斬り裂かれ、胸部に4本の腕が刺さる。

 原書を奪うつもりだ。


 巨人の両手に赤い光が灯った。

 魔神が動くよりも早く光が魔法となって放たれる。

 右手から無数の氷弾が、左手から竜巻が。

 風と氷の属性原書の同時全頁解放による猛吹雪が魔神の体を吹き飛ばした。


 千切れた触手を巨人が力任せに抜きとる。

 魔神は吹雪から抜け出すなり再度、巨人への突撃の構えを見せたけど、その前に崩壊魔法を終えた僕が割って入ったのでその場に留まった。


(今度は取られなかったか。原書の位置をバラバラに散らしたのかな)


 これなら魔神が原書を奪うのも容易くない。

 さっき擦れ違った時に奪われた原書を確認したけど、どうやら解毒の回復原書だ。あれなら使われてもすぐに問題とはならないしな。

 解毒でよかった。不幸中の幸いだ。


「ちょっと面倒になって来たぞ」


 魔神はどういうわけか巨人の原書を狙っている。

 巨人は魔神を狙っているけど、打破するほどの戦力ではない。

 魔神に集中しすぎると巨人が危なくなり、巨人を守ろうとすると魔神は回復してしまう。


 完全に巨人が足手まといだ。

 実験に込められたミラの想いには申し訳ないけど、3種魔神への対抗手段としては成り立たないようだ。

 というか、武王たちはどうやってこんなのを撃退したんだよ。原書とか竜がどうこうできるレベルとは思えない。

 なんとか両者を分断しないと時間ばかり過ぎてしまう。

 ミラのことを想えば時間を掛けたくない。


 残っている結界系で束縛するものは……在庫切れか。

 どの道、普通の結界では魔神に斬り裂かれるオチが見えている。

 どうもあの鎌の切断力そのものが種族特性としか思えない。物の強度に左右されていない印象だった。


「あとは合成魔法の召喚で巨人を止めるか……。自動制御に任せるのは怖いけど」

「シズ」


 考え込んでいる間に置いてきてしまっていたリエナがやってきた。

 高速移動でかなり移動していたのでリエナと言えどよく追いつけたものだと不思議に思っていたら、その全身に深紅の装甲が発動している。

 自分自身では見慣れた、人が使っているところは初めて見る50倍強化の付与魔法だった。


「ちょ、ええ!?」


 驚いた。

 リエナにだけはシズ特製20倍から50倍クラスの魔造紙を渡している。リエナなら悪用しないと信じているし、僕の近くにいる彼女は何かあった時の対処する力が必要だと思ったから。

 でも、今までは頑なに使わないでいた。理由はわからない。

 知っている限りでもスレイア王都での魔王とブランでルインに使った2回だけ。


 加えて50倍の強化魔法をおそらく初回で使いこなしている事実。

 僕が20倍の強化を初めて使った時は超スピードに感覚が追いつかずに失神してロケット頭突き(笑)で屋敷を崩落させた。その後も魔力凝縮を上げるたびに影でコソコソ隠れて訓練したというのに。

 リエナは直感だけで無理のない運用を実現している。

 いや、今の無音に近い静かな着地。

 僕よりはるかに上手に使いこなしているとしか思えないんですけど……。僕の夜中の秘密特訓……。


「シズ?」

「……なんでもないよ」


 小首を傾げるリエナに強がって笑って見せる。ちょっと引きつっていたかもしれないけど。きっと気のせいだもん。

 ともあれ、リエナが50倍強化を使いこなせるなら心強い。


「リエナ、巨人を止められる?」

「ん。原書を取り出す」


 止めるどころか原書の抜き取りまでいけるのか?

 ああ。さっきリエナは原書の位置が移動しているって言ってたな。巨人の内部まで知覚してしまえるなら不可能じゃない。


 どんな意識改革があったのかわからないけど、肩の荷が一気に下りた気がする。


「頼もしいね」

「――――――――、……ん!」


 なにやらリエナの猫耳としっぽがピンと立って震えている。

 表情はいつも通りなのに、目がキラキラ輝いていた。

 よくわからないけど絶好調のようだ。任せていいと思う。


「背中は任せたよ?」

「ん!」


 僕とリエナはそれぞれの敵に向けて同時に走り始めた。

攫われた解毒の原書さん涙目。

役立たずって言わないで!


そして、また風邪がぶり返す……。

今回の敗因。朝起きたら毛布じゃなくてタオルケット。

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