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魔法書を作る人  作者: いくさや
妖精編

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94 日常

 94


 1度だけ大森林を出て、スレイア王都まで50倍強化水泳&マラソンで戻ったりもしたけど、1ヶ月のんびり過ごせた。

 朝から昼にかけてひたすら作業。

 部屋に籠って試行錯誤を繰り返す。


 昼食後はリエナとリラと3人で仕合い。

 場所は大樹の根元だ。

 僕はいつの間にかリエナとも互角に戦えるようになっていた。

 身体能力と感知では負けても、武技の練磨では僕の方がひとつ上に行っている。

 ブランでルインとの再戦がいつになるかわからず武王との仕合いを集中的に取り組んだせいで、リエナは武王と手合せする機会がなかったから。ここで差を詰めることができたのだと思う。


 それが判明した初日は大変だった。


 久しぶりの組手は段々と加熱していった。

 妙に実力が拮抗してしまったのも原因だと思う。

 負けず嫌いの僕に、近接戦に自信があるリエナ。

 お互いに止めどころを見失ってしまったのだ。


 杖と槍が幾度もぶつかり合って、足元の花びらが舞い上がり、その間をさらに激しさを増した応酬が火花を散らせる。

 激突音が連なって最早滝の瀑布と変わらない轟音となっていた。

 リラや見学に来た樹妖精の武人が息を飲む中、僕とリエナは全力で打ち合い続ける。

 手加減なんてできない。


(だって、打ち負けた方がそのままタコ殴りだよ!)


 事がこの段階まで至ってしまえば寸止めなどできるはずもない。

 少なくとも数撃はくらう覚悟がいる。

 そりゃあ必死にもなるよ。


 残る選択肢はふたつ。

 互いの体力が切れて自然にクールダウンするまで待つか。

 怪我を覚悟の上で攻撃を受けるか。


 僕もリエナも既に体力は常人離れしている。このままどれぐらい続くのかわからない。

 となれば、僕が受けるしかないなあ。え?リエナを殴るとか初めから選択肢にないよ。当たり前でしょ。

 けど、なかなか覚悟が定まらない。

 刃の部分をリラが種族特性で木のコーティングをしているとはいえ、甲殻竜を素材にしたリエナの槍は打撃力も十分高い。怪我をしても回復魔法で癒せるとわかっていても、痛いのは痛いのだから勘弁してほしい。


 そんな葛藤している間に悩む必要はなくなった。

 集中力を乱した僕が受け手を誤り、押し負けて景気よく吹っ飛ばされたから。

 閃光のような3連撃でスカーンと。

 いやあ、武王に殴られ慣れている僕じゃなかったら危なかったよ。


 結局、僕とリエナの組手は止められる者がいないと危険と判明し、ある程度の手加減は必須となった。

 ならばと切り替える。今度はリラや何故かギャラリーとなっていた樹妖精の武人たちを相手することに。

 聞いてみるとどうやらリラとの勝負にも使った大樹の広場は彼らの訓練場でもあったそうだ。ミラが提案したのも納得。


 ちなみに妖精たちは種族の枠を超えて大森林の防衛を行う。そのために各里で武人を育成し、いくつかの混合チームで定期的な巡回を実施。

 防人と呼ばれる彼らは大森林内の各ポイントを巡り、各里に立ち寄っては人員交代しつつ種族間の連携を磨き、稀に侵入してくる魔物を討伐しているという話だ。


 リラのように原書収集の役目で外に出るものは珍しく、また人間がこちらに来るのも一部の商人とかだけ。それにしても大体は森の手前で樹妖精と取引して帰ってしまう。

 なので、僕らというか、僕という人間が珍しいようだった。

 しかも、人間なのに樹妖精の技まで使うのだから猶更だ。

 リラが師匠の弟子だと口を滑らした途端にちょっとした騒ぎになった。

 さすが師匠。魔神を相手に単身挑んだ英雄として伝説になっているらしい。どことなくシーヤさんの個人的な尊敬の念が伝播しているような気もするけど。

 師匠の死を悼む声はあったものの、弟子である僕への反感は少なかったのはほっとした。


 リラには僕が師匠から教えてもらった防御の技を教えて、リエナが感知を利用した戦い方を叩き込むというスタンス。

 この人、真っ先に突っ込んできたけど資質的には受けの方が合っていると思うんだ。

 感知の力で攻撃を読んで万全の防御。

 攻撃は一瞬のカウンターで十分。

 性格的に向いているかどうかは別だけどね。


 他の樹妖精さんたちは組手の相手をしていく。やはり、リラよりは一歩劣る印象だけど、けして弱くはない。

 少なくとも僕の知るスレイアの軍とか騎士が相手なら楽勝だろう。うん。おじいちゃんが張り切って鍛え上げている学園生の実力はわからないけど。

 武技はブラン兵には勝てないかな。両者が魔法と種族特性を使っても互角かどうか。

 結局、樹妖精さんが種族特性で生み出した木刀をへし折る作業になってしまった。

 とりあえずの目標は僕相手に10手もたせるところで。

 師匠の故郷ということで樹妖精さんには無条件で力になってあげたい気持ちがある。

 さあ、僕はいくらでも相手してあげるから頑張ろう!


 ……3時間後、僕は樹妖精の里にいた全武人を撃沈させていた。山積みになった折れた木片が痛々しい風景だった。

 リラもリエナ相手に50戦目まで頑張ったけど力尽きた。

 いや、途中で限界だとは思ったんだけど、いつの間にか女の戦いじみた不穏な雰囲気になっていて声が出せなかったと言いますか。

 目を回して倒れたリラを前に、ピーンとしっぽを立てつつも控えめな勝利のポーズのリエナ。

 僕は苦笑いを浮かべるのが精いっぱいだった。


 最終的にシーヤさんに窘められた。

 そうですね。我ながら兵力全滅とかないですわ。

 今晩だって見張りの当番とかありますもんね。ちゃんと回復魔法で復帰させましたけど、メンタルまでは戻りませんものね。

 その日は僕とリエナで見張り役に志願しました。

 いけない。いずれ指導者を目指すというなら受講者の体調も把握しておかないとなあ。うん。でも、一般の感覚がよくわからない。師匠も武王も平均的なラインじゃなかったから。

 今後の課題だ。


 食事などの世話はミラの役目だった。

 数日で完成の見込みだったのがずれ込んでいるらしくて謝られた。

 研究の遅れを取り戻すのも忙しいだろうに必ず朝晩の食卓を用意して、お昼用に3人分のお弁当まで用意してくれた。

 いや、手伝うって申し出たよ?けど、かたくなに断られたんだよね。

 世話役だから、じゃなくて、お姉ちゃんだからーって。

 ミラのお姉ちゃんのこだわりはよくわからないけど、鉄の意志を感じてしまったので断念した。

 せめて洗濯とか食器の片づけはとも思ったけどシャットアウト。

 遠慮なんてするんじゃありませんと叱られた。お手伝いしようとして叱られるとかよくわからない。最早、それはお姉ちゃんとしての矜持ではなくて、執事とかメイドさんとかの矜持ではなかろうかと思ったけど、本人が極めて上機嫌なので指摘しないでおいた。

 人の世話をするのが好きなのだろう。

 或いは研究で疲れた頭を解すのにちょうどいいのかも。

 運動不足解消じゃないよね?いや、全然太ってなんかいないですよ?まあ、リラと比べたら全体的にふんわり感が……って怖あっ!ミラさんの殺気がマジ師匠レベル!これ御年輩の方が心臓マヒしかねないって!

 リラより感知能力が高いんじゃないの?

 それとも僕の考えていることがわかりやすすぎるんだろうか?

 次の日の朝食が硬いパンひとつだったけど文句は言わなかった。

 誰もフォローはなかった。

 うん。だって、エプロン姿でニコニコしているミラさん、目はちっとも笑ってなかったから。あれに反論する勇気を僕は生涯もてる気がしない。


 食事を終えた後は大森林の散策に出る。

 いや、ここって魔造紙の素材の宝庫だね。

 大量の用紙を持ち込んではいたけど、ここならいくらでも補充ができる。

 木の皮をなめしたものも十分な素材になったし、大樹の樹液や花弁を磨り潰したものが上質のインクに早変わり。

 おかげで在庫を考えないでよくなった。


 つまり、どんなに訓練で痛めつけても体だけは復活できるわけだ!

 非番の防人の方、ウェルカーム。

 おかしい、10人も集まらない。みんなで青春の汗を流そうぜ!?

 参加者を増やすために魂込めて組手したら次の日は5人になった。

 毎回参加するリラの方がすごいと気づくまで1週間かかった。

 やっぱり、僕の訓練は普通じゃないらしい。


 夜の散歩から話題が飛んでしまった。

 森は素材だけではない。

 単純に景色が幻想的。

 昼間は静かな生命力に溢れた森。

 夜間は発光性の苔に照らされた木々の傘が風に揺れ、まるで海の底を歩いているような感覚になる。

 樹妖精の大樹は言うに及ばず、妖精たちに管理された木々は神秘的な雰囲気こそすれ、不気味な印象など持ちようもなかった。

 リエナと2人で歩いていると思考が薄まり、心が澄んでいく。

 やらなければならないこと。

 考えなければいけないこと。

 色々あるけど、休める時には休んでおかないと肝心な時に動けなくては話にならない。


 別に休暇を堪能していただけではない。

 滞在から10日過ぎた頃に族長会議の開催が決定した。

 伝達や準備などでまだまだ調整することもあるだろうけど、確かな一歩前進にほっとする。

 場所は大森林の中央。

 妖精の聖域とされる場所だとか。

 妖精でない僕が入っていいのかも含めて話し合いが必要だけど、最悪の場合はシーヤさんに託すことになる。

 不安がないと言えば嘘になるけど、誰かに任せるとすれば間違いなく彼女しかいない。

 参加できればそれが1番だけどね。


 そうしてのんびりしたり、忙しくしたり、あれこれと日々が過ぎていった1か月後。

 夕食の後、各人が思い思いにお茶を楽しんでいたところにミラが切り出してきた。


「シズくーん。おまたせー」

「はい?えっと、お茶はもらってるし、デザートとかじゃないよね?」

「違うよー。今日、研究が完成したの」


 おっと、久しぶりの研究者モードだ。

 これは例の原書研究の話だな。


「じゃあ」

「うん。明日、さっそく見てもらいたいのだけどいいかな?」

「もちろん。場所は下の広場?」

「ううん。森の外よ。原書を実際に試すのだから広い方がいいでしょ。万が一でも森が傷ついたら大変だもの」


 もっともな話だ。

 下級の属性魔法の原書1冊でも全頁解放すれば森の一角ぐらい簡単に吹き飛んでしまう。12冊もの原書があるのだから、実験場所は選ぶ必要がある。

 こと、クレーターの作成実績に掛けては追随を許さない僕が言うのだから間違いない。


「じゃあ、明日は移動で、明後日に実験かな?」

「ううん。北側じゃなくて西側に行くんだよー。あっちなら外まで近いからー」


 ああ。500年前に魔神から侵攻を受けたのが西側からなのだろう。魔族の大陸があるのもこの西だし。


「でも、もう少し離れた方がいいから実験予定地まで歩くと夜かしら」

「あ、森から出たら僕が何とかするから大丈夫」

「本当?わたしも長年の研究成果を少しでも早く確認したいから嬉しいわ」


 喜んでもらえれば何よりだ。

 森を傷つけない条件下なら50倍ダッシュであっという間だから。


「リエナとミラの2人ぐらいなら……」

「私も行きたい」

「うん。了解」


 リラも参戦か。興味がある以上に、1人だけ仲間外れがつらいんだろう。まあ、予想していたからそれはいい。

 ……ちょっと待て。

 1人目なら背負う。

 2人目なら両脇に抱えるなり、お姫様抱っこでもしよう。

 じゃあ、3人目はどうすればいい?1人は背負って、2人は両脇?背負った相手は支えなしでしがみつくことになるけど大丈夫か?

 万が一、落としても結界を張るから怪我の心配はないので大丈夫だと思うけど、高速飛行の戦闘機から飛び降りるぐらいの恐怖体験を経験することになる。果たしてそれを大丈夫と判定していいのだろうか?

 あ、原書も最悪12冊全部持っていく必要があるのか。実験に時間が掛かるなら野営の準備もいるんだな。

 人間3人に荷物。

 どうでもいいような、どうでもよくないようなことに頭を悩ませながらも僕はミラの実験を楽しみにしていた。


 後から思えばなんとも暢気な考えだった。

更新できましたー。

でも、頭がふわふわして、顔が熱くて、胸が苦しいの。

もしかしてこれは……風邪の引き始めですね。

働きながら治すという無茶をまたしなくては……。

申し訳ありませんが、予定よりもちょっと間が開いてしまうかもしれません。

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