表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
罪芝居  作者: 赤井"CRUX"錠之介


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/31

復讐の連鎖

「俺のせいだ……」


 朝倉は、虚ろな表情で呟いた。




 数時間前、家に戻った朝倉。しかし、そこはもはや以前と同じ場所ではなかった。穴だらけになっており、中には死体と自動小銃が転がっているのだ。

 愕然となっている朝倉だったが、そこに現れたのは山野である。彼女は、ものも言わず朝倉の手を引っ張っていった。


「山野さん! 何があったんですか!?」


「いいから来な! ハクチーちゃんが大変なんだよ!」


 山野に怒鳴られ、朝倉はハッとなった。


「ハクチーはどこにいるんです!?」


「闇医者のところさ。ついてきな」


 そう言うと、彼女は歩いていく。去り際に朝倉が見たものは……死体から金目のものを剥ぎ取り、海に放り投げていく住人たちの姿であった。




 彼らが辿り着いた先は、裏通りの奥にひっそりと構える怪しげな診療所だった。

 闇医者と呼ばれるその男は、ヒョロリとした中年で、頬はこけ、目つきは鋭く濁っている。一応は白衣をまとっていたが、その清潔感は医師というより漂白剤に浸けた布切れを羽織っているだけのように見えた。

 

「この女の子は……とりあえず内臓は傷ついていない。命に別状はないよ。だがな、左手は損傷がひどく切断せざるを得なかった。あと、右目も眼球が潰れている。向こうで寝ているが、見るか?」


「は、はい! ありがとうございます!」


 朝倉は、何度も頭を下げた。


 だが、ベッドで寝ているハクチーを見た瞬間、朝倉は崩れ落ちた。

 ハクチーの姿は、あまりにも痛々しいものだった。顔の半分を包帯で巻かれ、左手のあった部分も包帯でぐるぐる巻きにされている。

 かろうじて右手で抱きしめているもの、それは人形だった。朝倉が遊園地で買ってあけた、あの不細工な人形である──


「どうして……どうしてこんなことに……」


 思わず呟いたが、答えはわかっていた。


「俺のせいだ……」


 そう、朝倉のせいだ。

 中途半端な気持ちで復讐を始め、銀星会の構成員を何人も殺し金を奪った。

 だがそこで、思いもよらずハクチーと出会ってしまった。彼女の存在は、朝倉の心を徐々に溶かし、復讐という炎を鈍らせていった。彼女と過ごす日々は穏やかで、危うくも幸せだった。

 だが、その結果はどうだ。ハクチーに矛先が向けられてしまったのだ。


 一方的に、もうやめた……こんなものが、裏の世界で通用するはずがなかったのだ。

 やられた側にも面子がある。ましてや、相手は銀星会だ。ただで済むはずがない。やられたら、必ずやり返す。その復讐の連鎖は、相手を徹底的に壊滅させるまで止まらない。

 

 俺が甘かった……。


 その時、山野が耳元で囁く。

 

「正岡さんが、後で話がしたいってさ」


 途端に、朝倉は振り返った。


「あいつは、どこにいるんです?」


 そう、この家を知っているのは正岡だけだった。考えてみれば、直前になって手を引くなどと言い出したのも怪しい。

 あいつが、朝倉とハクチーの情報を漏らしたのではないか──


「今、こっちに向かってるってさ。もうじき来るって言うから、それまで話でもしようよ」

  



「前に言ったよね。あたしが、昔刑事をやってたって。でも、刑事をクビになった挙句に逮捕され刑務所に行った。今、その理由を話してあげるよ」


 そこで山野は、フゥと溜息を吐いた。


「原因は男だよ。ある日、偶然に若いイケメンと知り合った。あたしゃ舞い上がっちゃってさ、気がつくと深い中になってた。まあ、偶然じゃなかったんだけどね。向こうは、最初からあたしを落とすつもりだったのさ」


 朝倉は信じられなかった。この山野を騙せる者が、世の中にいようとは……。

 一方、山野は喋り続ける。


「で、あいつは言葉巧みにあたしを騙して捜査情報を……ってパターンさ。こんなの、世間じゃいくらでもあるだろ。騙される奴がバカ、あたしは絶対に騙されない……って信じてた。でも、あいつから見れば、あたしゃいいカモだったのさ」


 そこで、山野はハクチーに哀れみの視線を向ける。


「あんたたちには、ハッピーエンドを迎えて欲しかった。少なくとも、ハクチーちゃんには、こんな目に遭って欲しくなかったね。せっかく、人間らしくなってきたのに……」


 言われた朝倉は、再びハクチーに視線を移す。


「あとさ、これを渡しとくよ」


 言いながら、山野が取り出したもの……それは、ボロボロになったノートだった。朝倉には、全く覚えがない。


「なんです、これ?」


「あんたの家で見つけたんだよ。まあ、見てみな」


 言われた朝倉は、ノートを開いた。途端に、唖然となる──


あさくらが ちよこくれた おいしかた


あさくらが らあめんくれた おいしかた


あさくらが へんなやつに おこた こわかたから はくちーとめた


あさくらと でんしやのきぷ かた むずかしかた でも うれしかた


あさくら いないと はくちー とてもさびしい 


あさくらと どうぶつえん いった どうぶつ いっぱいいた たのしかった


あさくらと ゆうえんちいった いっぱい いっぱい あそんだ ほんとうに たのしかった またいきたい


あさくらの かってくれた にんぎょう はくちーの たからもの


あさくらと やくそくした てきがきたら みんなころす はくちー やくそくまもる ぜったいまもる


 ミミズののたくったような、下手くそな文字……だが、そこには心があった。ハクチーの思いが感じられた。

 そして、最後にかかれていた言葉は……。


「なんだよ、これは……」


 呟いた朝倉に、山野が微笑みながら説明する。


「見りゃわかんだろ。あの子、あんたがいない間に字を勉強してたのさ」


 だが、朝倉の耳にはそんな言葉は届いていなかった。


 約束ってなんだよ?

 そんな約束、いつした?


 その時、出かける前に交わした言葉が蘇った。


(もし、ドアをぶち破って入って来るような奴らがいたら、構わないから全員殺せ)


(うん、わかった。約束した)


 ようやくわかった。

 だからこそハクチーは、あれだけの人数の武装したヤクザを相手に、逃げもせず最後まで戦い、全員を殺した。

 あれだけの傷を負わされながらも、ひとえに朝倉の言葉を守るために戦ったのだ。


「俺は、どこまでバカだったんだ……」


 呟いた瞬間、ノートに涙が零れ落ちる。もはや、自分の気持ちを抑えることはできなかった。朝倉は、その場でうずくまり、嗚咽の声を漏らしていた。

 山野は、その様子を哀れみに満ちた目で見ていることしかできなかった。




 やがて、その場に正岡が到着した。と、朝倉はすぐさま立ち上がる。


「正岡さん、あんたが喋ったんだな?」


「ああ、そうだよ」


 正岡は、悪びれる様子もなく答える。隠す気すらないようだった。

 途端に、朝倉は凄まじい勢いで殴りつけた。正岡は、そのパンチをまともにくらい倒れる。と、そこに山野が止めに入った。


「いい加減にしな! こんなことしてる場合じゃないだろ!」


 怒鳴りつけた山野。すると、朝倉の動きも止まった。荒い息を吐きながら、倒れている正岡を睨みつける。


「俺はな、今すぐあんたを殺してやりたいよ。だがな、そいつは後回しだ。さしあたって、あんたにやってもらうことがある」


「なんだ?」


 そう言うと、正岡は立ち上がった。だが、続いて放たれた朝倉の言葉に顔を歪める。


「田中健太郎の件だがな、続けてもらうぜ」


 朝倉は、はっきりとそう言ったのだ。山野はギョッとなり、正岡もしばし唖然となっていた。


「お前、正気か?」 


 ようやく出たのは、その問いの言葉だった。


「いや、あんたのせいで完全に狂っちまったよ。もう、どうでもいい。俺は、あいつと銀星会を道連れに地獄に逝く」


 そこで、朝倉はニヤリと笑う。その表情を見た瞬間、正岡は悟った。もはや、この男は止まらない。目的を達するまでは、殺されても走り続けるだろう。


「とりあえずは、あんたの知っている一番確かな情報屋を紹介してくれ」


「構わんがな、そいつは面倒な男だぜ。変わり者でもある」


「いいから、そいつのところに連れて行ってくれ」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ