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罪芝居  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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23/31

正岡と西村の対話

 朝倉とハクチーが、動物園にて遊んでいた頃──




 正岡は、繁華街を歩いていた

 建前は「風紀を乱す輩を取り締まる」というものだが、本音は「チンピラどもから金になりそうな情報を聞き出す」である。彼は、鋭い目つきで周囲を見回しつつ進んでいた。


「正岡さん、久しぶりですね」


 後ろから声をかけてきた者がいる。

 誰かと思い振り返れば、立っていたのは西村陽一だ。Tシャツにデニムパンツという格好で、笑みを浮かべ正岡に会釈する。

 正岡はかつて、この男を捕らえ取り調べをしたことがある。しかし、証拠不十分で釈放となった。


「西村じゃねえか。どうしたんだ?」


 対する正岡は、不機嫌そうな顔つきで尋ねた。この男に会ってもロクなことがない。正直、話すのも嫌だった。

 すると、意外な答えが返ってくる。


「このところ、銀星会が大変でしてね。そんなわけで、僕みたいなフリーの人間まで駆り出されてる始末ですよ。忙しくてたまらないです」


「お前が、あの件に絡んでるとは意外だったな。ついに、銀星会の犬になっちまったのか?」


 そう、正岡の知る西村は常にひとりで行動していた。裏社会でも、一匹狼として知られている。

 そんな西村が、銀星会の面々と行動を共にしているとは意外だった。


「んー、どうでしょうね。犬というより狼に近いかもしれません」


「狼だぁ? よく言うぜ。で、その狼さんが俺に何の用だ?」


「あなたは、あっちこっちの連中から賄賂もらってますよね。立派な悪徳刑事だ。素晴らしい姿勢です」


 正岡の表情が険しくなった。

 西村の言っていることは本当だった。正岡は、金次第で少々のことは見逃す。


「だったら、何だと言うんだ? 俺をゆすろうとでもいうのか?」


「ちょっと、そんな怖い顔しないでくださいよ」


「俺を舐めるんじゃねえぞ。かつて藤田鉄雄と組んで銀星会の裏カジノを襲った事件(ヤマ)だがな、あれは誰がやったのか俺は知ってるんだぜ。銀星会のお偉いさんが知ったら、怒るだろうな」 


 聞いた瞬間、西村の記憶が蘇る。己の初仕事の記憶だ──


 ・・・


 あの時、西村陽一はまだ十六歳だった。



「そろそろだ。スーツを着たふたり組の男が降りて来る。片方はアタッシュケースを持っている。そいつらを見たら、打ち合わせ通りにやれ」


 そう言うと、藤田鉄雄は足音を立てずに移動する。打ち合わせでは、西村が拳銃を構えて前に出る。わずかに遅れて、藤田が拳銃を構えて後ろから襲う。

 もし相手が抵抗する素振りを見せたら、迷わず撃て……そう教わった。西村は拳銃の安全装置を解除し、車の陰から待ち受ける。広い駐車場だが、車は二台しか停まっていない。そもそも、このビルは銀星会の所有物みたいなものなのだ。関係者以外は入って来ない。つまり、裏社会の人間しか来ないということだ。

 だからこそ、銃声を聞いたとしても、誰も通報したりしない。




 エレベーターが降りて来た。

 直後、ふたりの男が出て来た。どちらも厳つい風貌で、高級そうなスーツを着ている。片方の男は、手にアタッシュケースをぶら下げていた。

 それを見た瞬間、西村の心臓は一気に動きを速めた。痛みさえ感じるような激しい鼓動と、息苦しさを感じる。逃げ出したい気持ちに襲われた。いや、逃げ出すというよりは、その場にうずくまってしまいたかった。何もかも見なかったことにしたい、そんな衝動に駆られた。

 だが、それは出来ない。

 自分の裡に蠢く、どす黒い何か……それが命じたのだ。

 殺せ、と。


 西村は立ち上がる。口からは、本人以外には意味不明な声が漏れる。拳銃を構え、ふたりの前に躍り出た。

 ふたりは驚愕の表情を浮かべながらも、目の前の事態に反応した。ひとりは懐に手を伸ばす。

 その瞬間、西村は発砲した──


 銃弾を胸に受け、男はのけぞる。だが、西村は止まらない。さらに、もう一発撃つ。

 発砲の衝撃で、手首に痛みが走る。しかし、西村は痛みに耐えた。さらに、駄目押しとばかり発砲する。

 三発の銃弾は、男の胸に全て命中した。無事で済むはずもなく、仰向けに倒れる。

 だが、もうひとりいる。アタッシュケースから手を離し、懐に手を入れる。

 だが、別方向から銃声があがる。後ろに回った藤田が、もうひとりに銃弾を撃ち込んだのだ

 男は地面に崩れ落ちる。だが藤田は容赦なく、倒れた男に銃弾を撃ち込んだ。


「西村、よくやったな。さあ、ずらかるぞ」


 その声は震えていた。さすがの藤田も、このような状況では、いつものようなクールな態度ではいられないらしい。西村は体を震わせながらも、藤田の後に続く。歩きながら目出し帽を脱ぎ、ポケットに入れる。




 藤田と西村は、階段で地上に出た。ふたりとも、清掃業者のような作業服を着て帽子をかぶっている。そのまま、なに食わぬ顔で歩いていた。

 西村は今にも力が抜けそうになる足をどうにか動かし、藤田の後にピッタリとくっついて歩いている。


 ・・・


 西村と藤田が襲ったのは、銀星会の裏カジノだった。売上金を車で本部まで運ぶ……そこを襲ったのである。

 この後、藤田にはもうひとつの仕事があった。全ての罪を西村に被せた上で殺す、そんな計画を立てていたのである。

 しかし、生き残ったのは西村の方だった。プロの仕事師だった藤田が死に、まだ十六歳の少年である西村が生き延びたのだ──



 

「ほう、あなたは真犯人を知っているのですか。怖い人だ」


 表情ひとつ変えず言ってのけた西村だったが、正岡も無表情のまま言葉を返す。


「ああ、そうだよ。俺は怖い人だ。だから、かかわらない方が身のためだぜ」


「そうですか……で、僕をゆすろうという気はないのですか?」


「できることなら、そうしたいところだがな……お前さんは、敵に回すと面倒だ。いざとなりゃ、刑事でもためらうことなく殺すだろう。だから、お前さん相手にたかったりはしないよ。ただ、お前さんが俺に何か仕掛けてきたら……俺も、このネタを銀星会に流すってことだ。だから、お互いあんまり近寄らないようにしとこうや」


「ところがね、そうはいかないんですよ。さっきも言いました通り、銀星会関連の店が立て続けに襲われました」


「だから、どうしたというんだ?」


「その犯人ですが……あなたは、既に目星をつけてるんじゃないですか?」


 正岡の心臓は、ドクンと高鳴った。なぜ、この男がそれを知っている?

 しかし、表情は元のままだった。


「何をバカなことを……俺が知るはずないだろうが。そもそも、俺はあの件の担当ですらないんだぜ」


「おやおや、しらばっくれる気ですか。となると、僕の方も持ち札を見せないといけないですね」


 そう言うと、西村はポケットからスマホを取り出す。

 画面を、正岡へと見せた。途端に、正岡の表情が歪む。


「なぜ、これを……」


「僕の情報網を舐めてもらっては困りますね。こちらの方は、矢部大悟(ヤベ ダイゴ)くんです。母子家庭で育っているようですが、どなたかから支援を受けているようですね。この少年、どこかあなたに似ている気がするのですが、気のせいですかね?」


 似ているも何も、この少年は正岡の息子である。




 正岡と妻との間に、子供はいない。また、子供はできないものと思っていた。

 ところが、ふとしたことで知り合った女……彼女は、ヒモのような彼氏からDVを受け続け、心身ともに限界の状態であった。

 女から相談を受けた正岡は、女に言った。これを、彼氏のポケットの中に入れておけ……と。

 それは、覚醒剤のパケだった。


 直後、彼氏は職務質問を受けた。その際、覚醒剤のパケが発見される。彼氏は「俺は知らない」と言い張るが、そんな言い訳が通るはずもなかった。

 とはいえ、覚醒剤の所持だけならば執行猶予で済む。三ヶ月後、彼氏は拘置所から出てきた。まっすぐに彼女の家へと向かう。

 しかし、彼女は既に引っ越していた──


 正岡に、下心などなかった。単純に、憐れだと思っての行動であった。また、彼女と深い仲になる気もなかった。

 しかし、女の方はそう思ってくれなかった。ある日、気持ちを打ち明けられた正岡は戸惑う。だが、女の方はそっと近寄ってきた。そして、妖艶な笑みを浮かべる。

 その瞬間、正岡は落ちてしまった──




 愕然となっている正岡を見て、西村はクスリと笑う。


「しかも、あなたは今も彼女との関係を続けていますよね。いやぁ、お盛んだ。男たる者、あなたのようでなくてはね」


 その瞬間、正岡は西村の襟首をつかむ。


「てめえ……死にてえのか?」


 低い声で凄んだが、西村に動ずる気配はない。


「そんな怖い顔をしないでくださいよ。僕もまた、あなたの秘密を知っている……そこのところを、知っておいていただきたかっただけです」


 そう言うと、西村は持っていたカバンから分厚い封筒を取り出した。


「とりあえず百万あります。これで、ひとつ情報を売ってくれませんか?」


「はあ? 何の情報だよ?」


「あなたが目星をつけている人間を教えてください。で、この件からは手を引く……あなたにして欲しいことは、それだけです」


「どういう意味だ?」


「あなた、某政治家から金をゆすりとろうとしてますよね。その後は、海外に逃亡する気だ……しかも、奥さんではなく、この子と母親を連れてね」


 言いながら、西村はスマホの画面をつつく。 


「申し訳ないですが、その計画は諦めてください。あなたのような人が、警察を辞めるのは実に惜しいです。ですから、今後も悪徳刑事として頑張ってくださいよ」


 言いながら、西村は正岡の肩を叩く。

 だが、正岡は何を言い返せなかった。西村が、ここまで情報をつかんでいるとは……。

 

 俺の負けだ。


「とりあえず、大まかな情報を教えていただけますかね?」


 西村に問われ、正岡は虚ろな表情で語り出した。


「名前は朝倉風太郎。かつては劇団に所属する俳優だったが、他の団員らとともに、見ちゃいけないものを見ちまった。そのせいで、劇団の稽古場ごと爆弾で吹っ飛ばされた。だが、奴は奇跡的に生き延びた」


「はあ? そんな奴がいたら、目立って仕方ないでしょう。どうやってバーやカジノを襲ったんですか?」


「奴は、精巧なゴム製マスクを幾つも持っている。そいつを状況に応じて使い分けているんだ。だから、今までバレなかった」


「なるほど。でもね、手口を見ると、ただの劇団員にできる殺し方とは思えないんですがね? あいつに、なんか秘密でもあるんですか?」


 その問いに、正岡の顔が歪む。

 だが、それは一瞬であった。ニヤリと笑い、西村にとんでもない話を語り出した。

 

「朝倉は、火傷のショックでアドレナリンが過剰に出る体質になっちまった。だから、いざとなった時にとんでもねえ腕力を発揮するんだよ。銀星会の小川を、素手で簡単に殴り殺せるくらいにな。とにかく、あいつは戦闘態勢に入ると別人になる……と覚えていた方がいい」 


「そうですか。まあ、銃弾を一発撃ち込みゃ終わりですけどね」




 



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