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テンションアップダウン第六回雨月ユイトの決断

 雨月マナ、現在彼女は聖ヒルデガルデ学園第二学年だ。

 彼女はボクより一つ年上だがボクと同じ学年である。

 要するに留年したのだ。

 彼女を語る際にこれだけは解っていて欲しい、彼女は成績が悪かったから留年したわけではない。彼女は生まれつき体が弱く学校を度々休んでいるため出席日数が足りなかったのだ。

 去年の夏、ボクらが夏休みを満喫しているとき、彼女は風邪をひいていた。

 ボクらにとっては風邪なんかしっかり休めば治る程度のものだ、しかしマナ先輩は違う、風邪によってはとても危険な状態になってしまう。あの時もそうだったらしい……。


 夜の独特な静けさに包まれた大学病院。

 少し前に面会時間が終わり、院内には患者と病院関係者ぐらいしかいないだろう。もしかしたら彼と同じような人がいるかもしれないが。

 彼は病院の一室に、彼の妹の為に用意された個室にいた。

 彼の名は雨月ユイト、妹の名は雨月マナ。

 この二人、双子ではないのに、年も違うのに、顔がそっくりなのである。

 そんな兄妹の兄ユイトは妹の寝顔を見ながら悩んでいた。

 八月の半ば辺り、マナは自宅で突然倒れ病院へと運ばれた、風邪をひき熱が出たらしい。

 ユイトは勿論、仕事で忙しいはずの両親まで駆けつけ、マナは喜んだ。

 そんなマナの元気そうな姿を見た両親は安堵し、一時間程経ってから仕事に戻ることにした。

 しかしユイトは自宅には戻らなかった、彼女のそれが空元気であることに気づいていたからだ。


 二人っきりの病室に沈黙が流れる。

「……帰らないの?」

 沈黙を破るようにマナが口を開く。

 兄の前でも元気そうに振る舞うマナ、ユイトはそんなマナを見て黙ることしか出来ないでいた。

「……お兄ちゃん?」

「あまり喋らない方が良い、疲れるちゃうだろ……」

 兄の言葉に、静かに目を瞑る事で応える。

 少しすると小さな寝息が聞こえる、ユイトは音を立てないようにゆっくりとベットの横に腰を下ろす。

「…………」

 ユイトは手元にある機械を操作してをベットを倒す。

 マナの顔をのぞき込むようにして見る、薬のお陰なのか呼吸は大分落ち着いている。

 ゆっくりと時間が流れるのを感じる中、静かに、そして愛おしそうに妹の頭を撫でる。


「ようユイト」

 ユイトは病院を出たところで良く見知った人物に声をかけられた。

「シュウさん……」

 詩原鰍眞、マナの友人である丹沙の遊び相手をしている人だ。

「マナちゃんの容態は?」

「今の所は一応……」

「……何かあったのか?」

 鰍眞は普段の雰囲気と違うユイトを見て何かを感じ、問いかけた。

「シュウさん、俺は妹に対して何か出来ないでしょうか!今の所は問題なくても何時病気が悪化するか解らないし、今は夏休みだから良いですけど夏休みが終わっても学校に行けなかったら……最悪留年してしまう、どうすれば良いんですか!?」

 ユイトの妹を思う気持ちを理解している鰍眞、だからこそ彼は言った。

「そんなに妹を心配しているなら、尚更自分で考えろ」

「…………」

 鰍眞の言葉に肩を落とすユイト、しかし鰍眞は言葉を続ける。

「安心しろ、答えなんか案外すぐ近くにあるもんだ」

「シュウさん……」

 彼の言葉にユイトは希望を感じていた。

「ありがとうシュウさん!もしシュウさんに何かあったら俺が今度は力になりますね!」

 ユイトはそんな言葉を叫びながら、走り、家路についた。


 ユイトはその日から毎日考えた、どうすれば妹を助けられるのかを。

 毎日家と病院を行き来し、妹の状況を両親に伝えた。

 妹は日に日に風邪が悪化し、寝たきりになっていた、それがさらにユイトを焦らせる。

 毎日自室に籠もりアイデアを練る、しかし良いアイデアは浮かばなかった。

 時間だけは進みマナの病状も良くはない、夏休みも残り二日。

 ユイトはそれでも諦めずに考えた、使用人や両親にも相談したが良いアイデアはやはり浮かばない。

「俺は……何で無力なんだ!」

 殴りすぎて凹んでしまった壁、最近は毎日のように殴っていた、悔しさと悲しさを表しているような凹みを見る度にユイトは辛そうな表情をする。

「坊ちゃま、お風呂が入りました」

 ノックの後執事の一人が風呂に入れと言ってきた、気分を変えるためにユイトは風呂へと向かった。


 風呂を出て自室へと戻るユイト、頭はスッキリしたが気持ちはスッキリしていなかった。

「何か無いのか……」

 足元を見ながら歩いていた時、ふと風を感じ顔を上げる。

 そこはマナの部屋だ。

 主の居ないはずの部屋の戸は開いていた、それは誰かを……ユイトを呼んでいるようであった。

「……入るぞ」

 そこにマナはいない。解っていてもユイトは言わずにはいられなかった。

 壁にあるスイッチを押し、電気をつける。

 部屋の中は予想外に整っていた。整理整頓が出来ないマナの代わりにメイドがしたのであろう。

「…………」

 部屋に入ったユイトは懐かしさを感じ、目を閉じる。普段は良く家を空けているユイト、妹の私室に入るのは久し振りだった。

 ユイトはゆっくりと目を開く、すると不思議なことに心も体もスッキリとしていた。

「ありがとな」

 姿の見えない何かに感謝し部屋を後にする……が、ユイトはそこである物を見つけた。

 普段は決して気になるようなものではない、女の子なら誰もが持っているであろう物。

「化粧……!」

 ユイトは更にその近くに掛けてある、ある物を見つける。

「!……答は、これだったんだ!」 ユイトはその二つを手に取り部屋を後にした。

 部屋を出てから手当たり次第にメイドと執事に声をかける、メイドと執事はユイトが両手に持った物を見て目を見開いていたが直ぐにユイトの命令を聞く。

 答を見つけたユイトは止まらない。

 ユイトは家中にいる使用人に声をかけ、一室に呼んだ。

 部屋に集められた使用人たちにユイトは、自信と希望に満ちた目を向けて話を始めた……。

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