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テンションアップダウン第四回部内会議

 間が開いてしまい申し訳ございません。

 テストも終わり部活も午後から始まる今日、放課後の掃除がないボクは購買へ行きお菓子と飲み物を買っていた。

 昼間は世紀末の様に荒れている購買も放課後のこの時間だけは静かだった。

 すると不意にお腹が鳴った。

 赤面しながら当たりを見渡す、誰も聞いていないことを確認してため息を吐く。

 普段ボクのお腹は寮の戻るまで鳴らない、しかし最近はお昼の量を減らした為に放課後は良くなっている。

「弁当を二つに減らすのは辛いよ……」

 ボクが弁当を減らし始めたきっかけはついこの間の事。


「『今日で六月も終わりだね』」

「そうね……そう言えばもう直ぐ期末テストね」

「先輩方は余裕ですね」

「『普段からやっているからね』」

「勉強って基本授業をしっかりしてたらいらないわよ」

「……」

「……先輩方はやっぱり頭が良いんですね」

「一人以外ね……」

 何時もより存在感が薄い海苔ちゃんの目は死んでいた。

「『それよりどうするの?テストが終わったら夏休みだよ!』」

「今年は何処に行くの?山?川?海?地中海?」

「最後に何で地中海?」

「……わたし達は金持ちだから?」

 金持ちは先輩方だけである。

「……成る程」

 フィーも金持ちであった。このブルジョア共め!

「山も川も海も地中海も全部テスト後だよ……あはは」

「何処の海に行く?」

「何で海限定なんですか?去年みたいに山で良いじゃないですか!」

「『去年のキャンプはサバイバルに近かったよ……』」

「……大変でしたよね」

「去年が山なら尚更今年は海でしょ」

「うぅっ……でも」

 渋るボクに吠天先輩がぼそりと呟いた。

「『海に行ったらフィーちゃんの水着が』」

「今年のトレンドは海ですね!」

 水着の為なら意見を変える事も辞さない。

「じゃあ何処の海行く?」

「『私の知り合いが経営している、貸別荘があるよー』」

「……吠天先輩の家の別荘じゃないんですか?」

「『今年はお姉ちゃんが使っているから駄目みたい……溺れ死ね』」

「先輩怖いですよ……」

「『だって黒も一緒なんだよ!私の執事なのに……』」

 少し寂しそうな表情をするが、直ぐにニコリと笑った。

「『何かあったら浮気を捏造するわ』」

「やめてあげてください!」

 この人は本気で怖い。

「じゃあ日時はどうする?」

 さりげなく話の軌道を修正する。

「『細かい事はテスト後に話ましょ、じゃあ今日は解散……と言いたいところだけどみんな横一列に並んでくれる』」

 腰を上げかけたところで止まる。

「どうしたんですか?」

 言われたとおりに横一列に並ぶ、すると先輩はフィーのお腹手を当てた。

「合格」と一言だけ言うと次に先輩、海苔ちゃんと順番にお腹タッチをしていく、そして最後にボクのお腹に触り「不合格」と言った。

「何がですか?」

 自分だけ不合格と言われた苛立ちと、もしかしてという焦りを胸に、吠天先輩に問いかける。

「『言わなくても解るでしょ?』」

 自分の中の焦りが強くなる、しかし吠天先輩は口を閉じない。

「『そのたるみにたるんだお腹で海に行くつもり?』」

 吠天先輩は右手を伸ばしボクのブラウスを上に引っ張る。

「…………」

「「「『…………』」」」

 中学生の時ボクはスポーツをよくする活発な女の子だった、だから色々なスポーツをするために身体も鍛えていたんだ、腹筋も少しだが割れていた。

 そんな過去の栄光など微塵も感じさせないぷにぷにのお腹、スカートの上に乗るほどではないが、ぷにぷになお腹。

「いやぁぁぁあああ!!!」


 そして現在。

 お弁当の量を二つ減らし、間食も無しになり、食後には必ず運動をしなければならなくなった、まさに地獄のような日々が終わりを告げる。

「今日はウエスト測定をする日なんだけど……」

 先程買ったお菓子とジュースを出す。

 間食を禁止されていたのだが食って直ぐ太ることはない。

「だから食べる!」

「……何を食べるんですか?」

 耳に吐息がかかるほどの距離から声がする。

「なっ……なんで」

「……駄目じゃないですか先輩、そんな高カロリーな物食べようとしちゃ」

 何時もの微笑みとは違い、詐欺師が獲物に近付くときのような笑顔だ。

 動いた、そう認識したときボクはフィーにお姫様抱っこされていた。

「……部室でお話聞かせて下さいね」


 部室に入るやいなや扉を閉められた。

「フィー……何で鍵を?」

「……先輩がいけないんですよ?私が我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢しているのにも関わらず、また甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘ーいお菓子やジュースを飲もうとするから。私我慢できませんよ」

 何時ものフィーではない何かが一歩、また一歩と近づいてくる。

「フィー……ちょっと落ち着いて!」

「……何を言っているんですか?落ち着いてますよ?」

「ならちょっと止まって!」

「無理ですよ!先程も言いましたが……」


「我慢できません」


「『あれ?鍵が掛かってる……海苔ちゃん開けて』」

「わかりまし、開きました」

 手慣れた手つきで鍵を開ける海苔ちゃん。

 ドアノブを握り、開けようとしたところで手を止めた吠天先輩。

「入らないんですか?」

 海苔ちゃんは吠天先輩の横から手を伸ばし、ノブを握る。

「『海苔ちゃん、駄目』」

 先輩の言葉により動きを止める海苔ちゃん。

「『耳をドアに当ててみな』」

 言われたとおりに耳を当てる、すると部屋の中から「ぴちゃぴちゃ」と音がする。

「中に誰かがいますね」

「『何の音だろ?』」

 吠天先輩と海苔ちゃんは再びドアのノブを握る。

「だっ……だめだよ、みんな来ちゃうから…止めよぅ…ね?」

「「『!?』」」

 何時にもまして艶めかしい感じだが、この声はあの男勝りな女のものだろう。

「部屋の中では一体何が……」

「……何してんの?」

「「『!?』」」

 背後からの声にふたりは揃って振り返る。

「『何だ……マナだったの』」

「驚かせないで下さいよ」

 二人の後ろにいたのは雨月マナであった。

「何で入らないのよ」

「『入りづらい状況』」

 丹沙はマナに扉に耳を当てるようジェスチャーをするが、マナは気にせず扉を蹴り開ける。

「「『んなっ!』」」

 扉を躊躇せずに蹴破った事に驚く……前に室内の状況に対して身体が硬直する。

「ちょっえ?……何でドアが…っ!…………違う……みんなっ!違うから!これは!!これは何かの間違いだからぁぁぁあああ!!!」

 中にいたのは、吠天先輩達に自分の置かれている状況を見られかなり狼狽している男っぽい後輩と……先輩達に気づかずに一心不乱に男っぽい後輩のお腹の……へその辺りを舐めているフィーだった。


「ーーーと言う事だったんです」

「……反省してます」

 落ち着きを取り戻したフィーと、フィーの涎にまみれたお腹を出しているボクは、他の三人の前に正座させられている。

「理解した……理解したけど二人には色々言いたいことがあるわ」

 何時にも増して冷ややかな目をしている先輩、本気で怖い。

「まず貴女、ダイエットしろって言われているのにお菓子を食べよう何て許されると?」

「思っていません……」

「そう……次に貴女、貴女は先輩に対して何をやったのかしら?」

「…………嫌がる先輩に対してお腹を……主にへその辺りを重点的に舐め回しました」

「そう……」

 沈黙がボクらの周りをステップしている。

「部長からは何かあるかしら?二人に対しての罰とか」

「『死刑で良いんじゃない?』」

 何時もなら「軽い口調でさらりと死刑って使うなよ!」

とかツッコミを入れる流れなのだろうけど……。

「いやいや、軽い口調でさらりと死刑って使うなよ!」

「先輩が突っ込むのかよ!」

 予想外過ぎてを度肝を抜かれた、今年に入って何回度肝を抜かれたのだろう。

「罪人の癖にツッコミを入れるなんて……」

「まさかの罪人扱い!?」

「……先輩落ち着いて下さい」

「兎に角!貴女たちには罰を与えるわ!」

「『じゃあそれを踏まえて旅行の話をしようか、夏休みまで時間もないし』」

 吠天先輩が強引に話を逸らす。

 結果としてボクらの夏休みは、普通の旅行から大冒険へと変わっていく事になる。

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